ペルセデューサ、死す!→待ち受けるのは、思いがけない副作用……?
ある意味、このネタやりたかったが為にナガレを蟹座生まれにしたも同然だけど、
当然というかまだ満足してないのでこの手のネタは今後定期的にやると思います。
俺の名前は、北川ナガレ。
「全身切り刻んで石狩鍋とイラブー汁にしてくれるわァ!」
『ヘッ! 殺レルモンナラ殺ッテミロィ!
尤モテメーノソノ性格ジャ、材料ドコロカ俎板ヤ台所マデブッタ斬リソーダケドナァ!』
「ぬうううぐうああああああっ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェッ!」
魔界二十三閥族第零位『ボーダーフールズ』謹製のオシャレな電子煙草で異形の戦闘形態に変身、革命派の戦闘部隊"豚の塩漬け隊"副隊長の天馬人、ペルセデューサ・カーフィールドと相対する"世間一般じゃ不遇な屑星扱いがデフォな蟹座"の死越者だ。
「我は天馬! 88星座の頂点に輝く一番星にして、最も美しく気高きギリシャ幻獣の頂点!
暴力しか能のないヘラクレス風情にあっさり踏み潰されしカルキノス如きに後れを取るなど断じて有り得ず、
黄道十二星座最底辺の屑星たる蟹座なんぞに敗北するなど天地が引っ繰り返ろうと有り得んのだぁぁぁっっ!」
『随分好キ放題言ッテクレンジャネェカ、サテハ「聖闘士星矢」信者ダナオメー?』
〈=皿=〉<ハイパーアルティメット個人的クソカスド偏見なのは那由多も承知だけど、過激な『聖闘士星矢』ファンって、星占いマニアより誕生星座で他人を格付けして差別したがるイメージしかねーのよ……
〈=皿=〉<高校ん時、同じ学年にそんなバカ女子が居て目立ってたから……
「よぉぉくも我が同胞たちを殺してくれたなぁ!? 赦さんぞ北川ァ!
喰らえィ、天馬流星会心岩斬剣!」
『ヘッ、ソンナ攻撃命中ルカッッ――――グェェアッ!?』
繰り出されたのは相変わらずの大振りで技名ばかり長い粗だらけの攻撃、回避なんて造作もねぇ……かと思いきや、予想外の向きから飛んできた衝撃波で左肩から生えたカニの腕を切り飛ばされちまった。
『ガッ!? グゲァッ! クッ、ソガァ! 腕、ガアッ!』
「ふははははは! どうだ、我が墾田永年私財刀の切れ味はぁ!
ご自慢のハサミを切り落とされては最早何も出来まい!
己の無力さを思い知ったであろう!? 大人しく敗北を認め我に土下座で泣いて許しを請え!
さすればせめて苦しまずに逝かせてやらんこともないぞ――――」
『ヅァァァゲンナァッ、ゴラァー! 片腕飛バシタ程度デ粋ガンナコノ羽根馬ァ!
短尾下目ト水蛇ノ再生能力軽視ンナァ!』
だがその程度で怯む俺じゃねえ。元よりただのゾンビ怪人だった頃から頑丈さとしぶとさ、回復力には定評があったんだ。
『此レシキノ傷ゥゥゥゥゥアアアアアア!』
そんな俺が死越者として覚醒し(電子煙草頼りとは言え)動物界でも中々いい感じの再生能力に定評のあるカニと、西洋魔物屈指の不死性を誇るハイドラの力を得たならば、切断された腕一本再生させるぐらい造作もねえ。
「ぬおわあーっ!? さ、再生しおったぁ!?
う、嘘だ! 有り得ん! 我が究極奥義、天馬流星会心岩斬剣でつけた傷が再生するなどっ!」
『ショッベェ究極奥義ダナアッ! 落花生バッカ食ッテル白人小娘デモモット凄エ奥義使エンゼエ!?
岩ヲモ断チ斬ル剣ナンテ大キク出タ癖ニ、岩ノ隙間ニ隠レテル蟹一匹風情モ殺セネエトカ名前負ケモイイトコダナア!』
「くっっっっ! たかが切れた腕一本再生させた程度で何を偉そうに!!
貴様如き蟹風情、この蹄で踏み潰してくれるわァ!」
『ホウ! 面白エ! ヤレルモンナラヤッテミロイ!』
――『カアッ!』
「ぬぅっぐ!?」
間髪入れず毒蛇四匹の内一匹を動かし、粘る毒液で奴の右前足を狙い撃つ。上手いこと直撃した毒粘液は奴の右前足を瞬く間に侵蝕、膝(?)から下を石化させた。
「なっ、我が右前足が石にっっ!? おのれ北川、何をしたぁ!?」
『態々説明シテヤル道理ハネエナア!
其レトモ何カア? 革命派ノ戦闘部隊テェノハタカガ脚一本石ニサレタグレーデ戦意喪失シチマウ腰抜ケナノカァ!?』
「くっ、ナメるなよ底辺屑星っ!
この程度が何だ、逆により踏み潰し易くなったわァ!
とおうっ!」
自慢の脚力と翼の羽搏きでもって飛び上がった焼鳥馬刺は、石と化した右前足を突き出しながら俺目掛けて急降下して来やがった。
相変わらず無駄の多い奴だ。正直あんなもん究極奥義より簡単に避けられるだろうが……ここは一丁、有頂天になってる一気に所を突き落としてやろうと思う。
「終わりだぁぁぁぁぁ!
天馬流星剛蹄撃ァァァァァァァァ!」
(敢エテ真正面カラ迎撃シタラァ!)
急降下する焼鳥馬刺、その石化した右前足に狙いを定めた俺は、今か今かとタイミングを見計らい……
『ヅエェアアッ!』
「ぐきゃああっ!?」
石化した右前足を、さっき再生させた方の腕で薙ぎ払い、力の限り叩き割る。
決死の思いで振り抜いたその一撃は、右前足の半分近くを木端微塵に粉砕……衝撃と損傷は石化してねぇ部位にまで及び、焼鳥馬刺は血飛沫と肉片を蒔き散らしながらみっともなく墜落した。
「いっだああああああ――ぐびひーっ!?
っぐ、うぐぁ、がっ、ぁぁあああっ!
痛あっ! 痛いっ! い゛だ゛い゛い゛っ゛!
く゛そ゛、よ゛く゛も゛っ!
こ゛の゛、
た゛か゛が゛、
カ゛ニ゛ふ゛ぜ゛い゛が゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」
『ホウ、未ダ立チ上ガルカッ! 天馬風情ガ生意気ナッ!』
大剣を杖代わりに立ち上がる焼鳥馬刺……敵乍ら天晴な奴と評価してやれなくもねえ見上げたガッツだ。それでこそ殺し甲斐がある。
『苦痛ニ満チ、屈辱ニ塗レタ末路ヲ辿ラセテヤラア!』
――『ガフッ!』
「何を、小癪な――ぐうあっ!?」
焼鳥馬刺は何かしらの攻撃動作を取ろうとしたらしいが、それよりも前に俺は蛇四匹をヤツに嗾けむき出しの部分へ噛み付かせる。すると……
「がっ!? ぐあがっ! づううぅっ! ちか、らがあっ……入らぁ、ん……!」
奴は忽ち毒で行動不能に陥るって寸法だ。
「きぃた、がわあああっ……貴様っ、さてはこのまま我を毒でっっ……!」
『アア? 何勘違イシテンダ、馬鹿カテメエ?
誰ガ毒殺スルナンツッタヨ……蛇毒ハ空ク迄前座ニ過ギネエ!
革命派ノクソ淫魔、柘榴石眼ト勝呂兼幸ノ傀儡如キガ、ソウソウ簡単ニ死ネルト思ッテンノカァ!?』
「なっ、にぃぃ……!?」
『奪ワレル屈辱ト、喪ウ苦シミヲ味ワエエッ!』
「がああああああっ!?」
手始めに、毒で自由を奪ったヤツの脚四本――半分ほど欠損した右前脚を含む――の根元を、カニ脚の尖った先端部で刺し貫く。
皮膚、血管、筋線維どころか骨さえも粉砕し貫通すれば当然激痛が走るが、その痛みは蛇毒に含まれる発痛物質の影響で何倍にも倍増していることだろう。
「あぐああがあっ! があああっ! っぎ、ひぎっ! ぎいあがぐあああっ!」
(イイ気味ダア、モット苦シメエ……!
アノ日アノ時屍人ドモニ殺サレタ大勢ハ、オ前ラ革命派ガ助ケナカッタ所為デ筆舌ニ尽クシ難イ地獄ノ苦シミヲ味ワイ乍ラ無念ノママ死ンジマッタンダ……!
不幸ナ世界ヲ救ウダノ、世界ヲ愛ト快楽デ満タスダノ、自分達コソ如何ナル種ヨリ優レタ生命体ダ等ト吐カシテオイテ、其ノ実多クテ精々百人弱ポッチノ民間人スラ助ケヨウトシネエナラ!
其ノ身ニ有リッ丈ノ傷ヲ受ケ苦シミ抜イテ死ヌ以外、革命派ニ出来ル贖罪イナド存在シネエンダアッ!)
あの日あの時マナミを救わなかった癖しやがって、やれ革命だ世界救済だ何だと高尚な理想を掲げやがるってだけでも胸糞悪ィのに、
その上てめえの勝手な価値観を押し付け他者を問答無用で好き勝手に改変・洗脳し身内に引き入れる蛮行を"唯一無二の必要不可欠な救済"と称し正当化する……革命派こそまさに害悪だ。
(ソウダ……マナミダ……マナミハアノ時、スゲエ悲シカッタ筈ダ……スゲエ苦シカッタ筈ダ……)
「ぐぎぎいいいいいいっ! ぎぎゃあああがあがぐげえええっ!?」
(アノ時革命派ハ屍人ドモヲ退ケマナミヲ助ケ出セタ筈ダ……何セ奴ラ、自分達ヲ「コノ世ノドンナ生物ヨリ優秀ナ、完璧ニシテ究極ノ存在」ト言ッテヤガッタ……
ソコマデ完璧ナラ、掌握派ヤ適応派、魔界二十三閥族ヲモ軽ク凌駕スル程優レテルッテンナラ、
当然アノ時マナミヲ……イヤ、マナミノミナラズアノ場ニ居合ワセタ全員ヲ完璧ニ助ケラレテタ筈ナンダ……)
「ぐがああああああ! あっぎゃああああ!?」
(ダノニ奴ラハ誰モケヤシナカッタ……全員見殺シニシタンダ……
俺ガコイツ等ヲ憎ム理由ナンザ、ソレダケデジューブンナンダヨ……)
しかも奴ら、屍人は放置してやがるんだから余計質が悪いったらねえ(確証はねーがどうやら『人の形をしたものを攻撃するのはご法度』だの『不幸な人間や魔物を革命派に引き入れて救済する方がずっと大事』ってスタンスらしい)。
(ナメテヤガル……結局テメエノ支配圏拡ゲテ同胞増ヤスノト、アト性行為以外何モ興味ネエッテコトジャネエカ……!)
その他諸々も考慮しつつ、総じて結論を出すならば……
数多の種、数多の勢力が互いに鎬を削り合い、見えない答えを求めて懸命に生き続ける、えげつない程に醜くも、果てしなく美しいこの世界の在り方に糞尿をぶちまける所業を正義と信じて疑わない……そんな奴らは原則一人残らず死に絶えるべきだし、その死因は苦痛や屈辱に満ちた、奴らの尊厳を完膚無き迄に蹂躙するようなもんであるべきだ。
当然それは、今目の前で四本の脚を刺し貫かれ、挙句捥がれた鎧姿の天馬人も例外じゃねえ。
『テエ訳ダカラヨ、モウ暫ク付キ合エヨテメエ?』
その後、俺は奴の両腕と翼を蟹の爪で潰し切りにしてやった。
「げがぎゃあああああばげぶげええええええっ!」
『グアァッハハハハハハハハア! 哀レナモンダゼ焼鳥馬刺! 翼モ腕モ無クナッテ、テメエノ個性何一ツ残ッチャイネエ!
オウ、シッカリ認識シテ理解シロヨ革命派ァ……此レガ奪ワレルッテコッタ! 此レガ喪ウッテコッタ!
テメエ等ガ"救済"ト称シテ繰リ返シテル"侵略行為"ッテノハ、詰リコウイウコトダ!
他者ニ己ノ意思ヤ在リ方、価値観ナンテモンヲ全否定サレ、何モカモ奪ワレ喪ウッテナアコーイウコトダア!
ドウダア!? テメエ等ノ犯シタ罪ノ重サ、身ニ沁ミテ理解デキタダロウガア!?』
「――ぅぅ……ぁぁ――……たす……け、て……くだ――さぃ……」
『コノ期ニ及ンデ命乞イシテンジャネエエエエエエエッ!』
「ぞぶああああああっ!?」
唐突な俗物ムーブにイラついた俺は、右腕が変異した爪でもってヤツの上半身の方の腹を刺し貫いていた。
『其処ハ意地デモ「クッ殺セ」ダロオ!? 女デ戦士ッテンダカラサア!
オラァ、何トカ言エヤペルセデューサ・カーフィールドオオオオオオッ!』
「ごぼばああああああ!?」
怒りに任せて右腕を捻り奴の体内を抉る……だがそれでも俺の暴走は続き、結局八つ当たり同然に奴の亡骸を破壊し尽くすまで怒りが収まることはなかった。
そして、程なくして……
『ヌゥ……ソロソろ、時間切れかア……』
俺の身体から立ち上る白い煙……それは変異を引き起こした電子煙草こと、新米死越者用|電熱式変異補助薬吸引器『ゾディアス・ヴェポライザー』――より厳密にはその中の死越者用変異補助薬『ミューテーションスターター』――の効力が切れ始めているサインだった。
『暴レ過ぎタか、さもなキャマだまダ未熟ってコとか……』
然しこいつは不味い状況かもしれんと、俺は悟る。
というのもこの『ミューテーションスターター』、効果は抜群な上に死越者の能力覚醒を促し、薬無しでの戦闘形態への変異や特殊能力の発現も早まったりと一見いい事尽くめなんだが……一つだけ致命的な副作用があったんだ。
『ぅっ、ぐお……やべぇ、もう始まったかっっ……!』
その副作用ってのは、至極単純明快……薬の効果が切れてからある程度の時間が経つと、通常リビングデッドやアンデッドじゃそうそう感じ得ねえ程の疲労感と倦怠感に襲われちまうんだ。
しかもこれが結構強烈なヤツで、一度始まると大体半日前後は動けなくなっちまう。
『早く、どっか安全な場所へ……てか、救助要請……!』
抜かったぜ、こんなことなら事前に自警団へ連絡しとくんだった……。
『……過ぎたことを悔いても仕方がねえ。とにかく、連絡を……!』
身体を苛む疲労感と倦怠感に抗いながら、俺はスマートフォンを手に取ろうとするが……中々うまく行かねえ。
『やべえ……今敵襲があったら……一溜りもっっ……――』
どうにか抵抗を試みた俺だったが……現実は非情。程なく俺は倒れ伏し、そのまま意識を失った。
次回、ナガレ危うし!




