守衛隊の暴走、その真相→最悪な新入りの悪事が原因と判明
「こんな話前後編で区切ってもしょうがないよな」でズルズル長引き一週間……
俺の名前は、北川ナガレ。
≪皆様、長らくお待たせ致しました。
只今よりマインデッド低実話劇場『仕事をしない新人パーラーメイドのせいでとんでもないことになった結果』の上演を開始致します≫
『なんだそのタイトル……』
ベッドに寝そべりながら寝室備え付けのホームシアターで演劇鑑賞をすることになった"一応"怪我人の死越者だ。
〈;◎皿◎〉<しかもなんでか無駄に既視感あるんだよなあこのテのタイトルと画面の雰囲気……
時は遡って少し前、部屋に備え付けられた内線電話に着信があった。何事かと出てみれば、相手は"準備"へ向かうべく部屋を出たメイドの天江さんで、曰く『準備が完了した。程なく始まるだろうから楽しんでくれ』ってな旨の意味深な言葉を告げると、こっちの返答も待たず通話は切れていた。
始まるとか楽しんでくれとか一体何なんだ? 俺が困惑していると、何やら機械音がして部屋の一部が変形し始め、壁一面のスクリーンと如何にも高そうなプロジェクターが姿を現した。所謂ホームシアターってヤツだろう。
やがて部屋の照明が落とされ、窓にも全自動でブラインドがかかり、プロジェクターが起動……見たことも聞いたこともない企業や団体のロゴ、そして注意喚起やらの文章が表示され、本編がスタートする。
≪皆様、長らくお待たせ致しました。
只今よりマインデッド低実話劇場『仕事をしない新人パーラーメイドのせいでとんでもないことになった結果』の上演を開始致します≫
『なんだそのタイトル……』
要するに冒頭の場面へ至るってワケだ。
天江さんの声で丁寧に読み上げられる声を聴き、字面から俺は大体の内容を察する。
どうやら天江さんを始めとするマインデッド邸の面々は、恐らくただ俺一人の為に態々舞台演劇で"演ってくれる"らしい……恐らくは例の『守衛隊が暴走し客人と交戦する羽目になった話』ってのを。
(舞台演劇か……懐かしいぜ。生前はマナミとよく見に行ったもんだ……)
『アフリカの風』、『杜子春』、『シンドバッドの冒険』、『きつね先生の不思議』……多少の当たり外れはあるが、基本的に見応え十分な名作揃いだったのを覚えてる。
さて、マインデッド邸の演劇はどうかな……。
≪就職するなら大企業、とよく言われることがあります。
多くの人員が働く大規模な現場はその分資産力に優れ、緊急時にも的確に対応しやすいメリットがあるからです。
然し、大規模な現場は労働者の人数が多いだけに、時折"招かれざる客"ならぬ"雇われざる働き手"が迷い込みがちなのもまた事実……。
今回お送り致しますのは、とあるお屋敷にメイドとしてやってきた新人がまさにその"雇われざる働き手"であった為に引き起こされてしまった大惨事のお話。
果たして新人メイドが引き起こした大惨事とは? とんでもない事態に見舞われたお屋敷はどうなってしまうのでしょうか。
それではどうぞ、お愉しみ下さいませ≫
語り部は引き続き天江さん。本職の役者やアナウンサーかってぐらいに喋りが上手い。
さて、導入が終わるとそれまで真っ暗だった舞台に照明が入り、7つに区切られた個室それぞれにパソコンやスマートフォン、タブレットなんかを手にした役者が入ってる、中々独特なデザインの舞台装置が露わになる。
そこから暫く『個室に入ったそれぞれが各々の端末から匿名掲示板に書き込んでるってテイで役者の声が流れる』演出が続く(ドラマ版『電車男』でネットユーザたちが書き込みを行う場面を舞台に落とし込んだようなもんと考えてくれりゃわかりやすいか)。
≪職場の新人がとんでもない奴で、そいつのやらかしが原因でお客様を殺しかけたことがあったんだけど、気になる人いる?≫
≪ちょっと待ってなんだって!?≫
≪とんでもない新人はわかるけど客を殺しかけたってどういうことだよ?≫
≪唐突に物騒な話過ぎて草加通り越して勇魚生える≫
≪勇魚を生やすな≫
≪草加も生えないよ≫
≪それで報告者、一体何が起こったのか教えてくれない?≫
≪わかった。みんな気になってるみたいだし書いてくね。
私の名前は菊入。
ここマインデッド邸に勤務して三年目のパーラーメイドで種族は草本人。
パーラーメイドっていうのは、本来の定義だと給仕や来客時の取り次ぎ、接客対応なんかを担当するメイドで、使用人の頭数が重要視されてたヴィクトリア朝時代のヨーロッパが発祥なんだよね。
ただマインデッド邸の場合だと、加えてイベントでの司会進行をしたり、果てはアイドルみたいな活動をすることも珍しくないんだ≫
≪それはスゲーな≫
≪確かにパーラーメイドは美人が選ばれやすいって聞くけどそこまでかよ≫
さらりと明かされた事実には俺も驚かされたが、一番驚いたのは2020年代にもなって未だにヴィクトリア朝時代の制度を現代的に換骨奪胎しつつ存続させてるマインデッド邸のスタンスだった。
≪それでここからが本題。
うちの部署に、春頃中途で新人が入って来たんだよね。
そいつの名前は蛭川。元人間の雌淫魔で、年齢は19歳。金っていうよりはメタリックな黄色って感じの髪色で赤い瞳の、所謂黒ギャル系な娘だった。
見た感じいかにもチャラチャラしててなんか印象良くなかったんだけど……≫
台詞が途切れると共に場面は切り替わり、舞台袖から現れたのはさっき菊入が言ってた特徴を備える”新人の蛭川”らしき人物。察するに本人じゃなく、誰か別人が演じてるんだろうが……どうにも異様なヤツだった。
≪なんかぁ〜あーしィ、前JKだったんですケドぉ〜、
変なのに凸られてぇ〜学校追い出されちゃったってゆぅーかぁ〜
カネなくてマヂぴえんだしィ〜ぶっちゃけありえなくなくなくなくなくなくなくなくなぁ〜い?≫
見た目は間違いなく美人だった。声もいいし、黒ギャルの解像度が死ぬほど低いように思えるがそこを考慮しても演技力そのものは高い。
だがどうにも、生来のもんであろう貫禄溢れる高貴な雰囲気が隠し切れてねぇつーか、賢い貴族が無理して低俗な愚物を演じてるような、そんな感じで違和感が半端じゃねぇ。
例えるなら……Vの宝鐘マリンっているじゃん。割と何でも卒無くこなしちまうカバー社の売れっ子女海賊。彼女の十八番ネタ『ロリコン野郎を口説くべく無理してガキを演じようとして盛大にしくじる、三十路か四十路の芝居そのもやのは目茶苦茶上手い別嬪』に近しいもんを感じる。或いはもっと酷く、役者が上質過ぎて役に釣り合ってねぇのかもしれねぇ。
≪……とまあ、初日からこんな感じで態度も第一印象も最悪そのものだったの≫
≪想像を絶するヤバさでバド≫
≪バドを生やすな≫
≪てかそんなヤツ普通面接段階で落とすんじゃね?≫
≪うん、私もなんでこんな奴採用するんだろうって思ったんだけど……蛭川が採用に至ったのには、当然ながら裏があったんだよね≫
≪やっぱりか〜≫
≪裏って何? 縁故採用とか?≫
≪うーん、ある意味コネといえばそうなのかな。
ここだけの話なんだけど、蛭川は高校在学中裏でパパ活……要するに売春に手を染めてたせいで退学になったらしくって≫
≪はぁ!? パパ活ぅ!?≫
≪最低だ……金のために見ず知らずの男に股開くとか有り得ねぇ……≫
≪風俗嬢とかならまだ辛うじて……いや未成年だからどのみちアウトか≫
≪あー……やっぱりそう聞くとみんなもそっちでイメージしちゃうよね。
言っておくけど蛭川は処女だよ。彼氏もできたことないみたいだし≫
≪はぁ!?≫
≪ちょっ、待てよォ!? それおかしいだろ!≫
≪何もおかしくないよ。っていうか語弊があったねごめん。
蛭川一味がやってたのは厳密に言うとパパ活の斡旋……同級生や下級生、時には若い女の先生なんかを適当な理由つけたイジメで精神的に追い詰めて『許して欲しけりゃ金を稼いでこい』って無理矢理パパ活をやらせてたの。
蛭川の父親は沢越組って暴力団の組長で母親は専業だったけど政治家一族産まれであちこちに顔が利いたし、蛭川自身被害者の痴態を写真や動画で残すぐらいには抜け目なかったのもあって、結構な数の被害者が出てたみたい≫
ここまで聞いて、俺はあることを思い出す。
(蛭川って名前、なんか聞き覚えあるような気はしてたが……そうだ、あの事件でぶっ潰したクソガキどもの親玉じゃねーか)
そう、実はなんと件の“新人の蛭川“とかいうバカ、俺の所属する泥得サイトウ地区の自警団が揉め事処理の依頼で相手取り懲らしめた破落戸女と同一人物だったんだ。
いやはや世間は広いようで狭いっつーか、予想外に奇跡的な偶然ってのもあるもんなんだなぁ……。
≪ま、結局は被害者の一人がどっかのマフィアだか自警団だかにタレコミしたお陰で蛭川の共犯者はもれなく逮捕されたし、ヤクザの親に頼った蛭川も逮捕こそ免れたけど退学処分……
とまぁこれだけなら蛭川もそんなに困窮することはなかったんだろうけど、その時期は丁度沢越組と勝間組の抗争が佳境に入っててねー≫
勝間組と沢越組の抗争……通称『勝越戦争』は、渡世じゃ名の知れた老舗武闘派の二大巨頭が激突したってんでその筋じゃ有名だ。熾烈を極め少なくない犠牲者を出した激闘は、結果的に勝間組の勝利に終わった。
より具体的に言うならば……
≪抗争中、徹底的に隠遁を決め込んでた蛭川の父親だったけど、結局勝間組の望月って構成員に隠れ家がバレて殺されたみたいでね。同時に蛭川の母親は複数の既婚男性と不倫関係にあったのがバレて愛人の妻から慰謝料ふんだくられて借金漬けになって本家から絶縁。
となれば娘の蛭川自身も破滅……するかと思ったんだけど、そんな奴が簡単に引き下がるわけもなくてさ……≫
≪な、なにがあったんだ……?≫
≪蛭川の奴、過去にパパ活斡旋してた客の男を脅迫したらしいんだよね。『この動画をネットに流されたくなかったら言うことを聞け』って≫
≪いや手口古っ≫
≪真っ当に生きてる若い子ならまだしも、売春婦に手を出すような半グレオヤジがそんな手に引っ掛からないでしょ≫
≪ま、普通はそう思うよね。けどただ一人引っ掛かっちゃった奴がいるんだよ、これが。
ここだけの話、『ゼタマ・ラバース』の槍賃っていう森巨人でさぁ≫
≪『ゼタマ・ラバース』とは魔界23閥族に名を連ねる古株の組織であり、性崇拝の文化を継承する宗教団体にして風俗店経営や性病・不妊の治療、性教育の推進、性犯罪の防止、性被害者への支援等を担ってきた歴史から『性と愛の導き手』の異名を持ちます≫
天江さんの解説を聞いた俺は『へぇ、そういう組織もあんのか』ぐらいにしか考えていなかったが、後に知った真実は……いや、この話はまた別の機会にしよう。流石に長過ぎる。
≪しかもこの槍賃って奴、組織でも重要なポストに就いてるんだよね。で、そんな奴がパパ活女に貢いでたなんて知れたら組織そのものが致命傷なわけ。
よってゼタマ側としては蛭川の要求を呑むしかないけど、さりとて性を神聖視してるからパパ活斡旋してた蛭川を身内として迎え入れてたんじゃ面子が立たない。
てことで他の組織に押し付けようって判断を下したみたいでさ……≫
≪ひでーな≫
≪けどそんなのそう上手く行くもんかね? ゼタマといえば近頃は色々やらかしまくってて落ち目の組織で通ってるし、そんな力なくない?≫
≪まあ、確かにゼタマが落ち目なのは事実だけど、それでも他の組織は奴らの無茶振りにNoって言えない事情があったんだよね……。
ほら、奴らって根はスケベ系の怪しい宗教団体だけど医療部門とか結構優秀じゃん? それで各組織の魔物とか地球外から来た系の種族なんかは不妊とか性病の患者が多くて、必然的にゼタマの世話になりがちだったんだよね……。
それで奴ら、そこにつけ込んで『蛭川を引き取らないなら身内以外の組織に属する患者は今後一切診ない』とか言い出しちゃってさ……それで仕方なくうちの当主様が厄介事を引き受ける羽目になってしまわれたってワケ……≫
そうしてマインデッド邸にやってきた蛭川の暴れぶりは筆舌に尽くし難いもんで、上司や先輩の指示に背いたり遅刻や無断欠勤は当たり前、どうにか精力的に仕事へ取り組んだかと思えば気に食わない客に無礼な態度を取ったり備品や他人の持ち物をくすねたりとやりたい放題だったらしい。しかも事あるごとに『ゼタマにチクってやる』と脅すもんだから解雇どころか注意すら満足にできねぇ状態が続いたそうだ。
≪――とまあ、どうしようもなかった蛭川なんだけど、長く続いた奴の天下も遂に終わりを迎えるんだよね。
その日、蛭川はまた問題を起こしてね。守衛隊のジッキンゲンさんに怒鳴られてたんだ≫
≪あ~、参謀さんか……≫
≪あの猫意外と直情的で曲がったこと許せないタイプだからな~≫
そうして出て来たのは何度目かの登場になる蛭川役の婦人(下劣な蛭川を演じるには余りにも不釣り合いなんでこう呼ばせてもらう)と本人役のジッキンゲン。
≪蛭川貴様! このような真似をしてタダで済むと思っておるのかニャ!?≫
≪あっれれぇ~? ネコちゃんてばいーのぉ? あーしにそーゆークチのききかたしてっとぉ~、ゼタマっちにいろいろホーコクしちゃうけどぉ~?≫
キレ散らかす一頭一人に対する蛭川の態度は相変わらず。この舞台で何度も見た展開だ。
だが一つだけ、今迄とは明らかに違う所があった。それは……
≪フン、ゼタマ・ラバースへ報告とニャ? できるものならばすれば良かろうニャ。元より吾輩には無関係故、どうなろうとも知らんがニャあ〜≫
ジッキンゲンの態度だった。奴の発言は一見すると『自分はゼタマ・ラバースと魔界23閥族の関係がどうなろうとどうでもいい。不妊症持ちや性病患者どもなど知ったことか』って最低な台詞に聞こえるが、守衛隊参謀なんて重役に就くほどの信頼を勝ち得ていて、天江さんが『負担の態度や言動からは想像し難いが、いざという時には下っ端使用人一人の些細な悩みの為にも命を捨てに行くほど献身的』と太鼓判を押すヤツに限ってそんな発言をするとは思い難い。
さて、そうなると奴の発言の真意は……
≪――結論から言うと、蛭川の脅しは意味を為さなくなってたんだよね。
先ずそもそも蛭川の脅しは『ゼタマ・ラバース』が彼女を守ってくれている限り有効なわけだけど、組織がヤツを守るのは幹部の槍賃がパパ活に関与してた事実を隠したいから。
その為にゼタマの上層部は組織の医療部門をダシに使ってたんだけど、その医療部門が上層部に反逆してきたんだ。『幹部一人の保身の為に無関係な者を巻き込み、救うべき患者を見殺しにするような組織に在籍するわけにはいかない』って、一斉に退職届を突き付けてね。
落ち目の『ゼタマ・ラバース』にとって医療部門は貴重な稼ぎ頭で、組織を魔界23閥族に繋ぎ止める鎹でもあったからね。果たして槍賃一人と医療部門の全員……どっちを優先すべきかなんて言うまでもないわけで、ゼタマは槍賃を即刻追放してどうにか医療部門を引き留めた≫
≪なるほど。それなら確かに蛭川の脅しなんて意味ないな≫
≪槍賃が追放されたことで、実質的にゼタマと蛭川の繋がりも切れたわけだからな≫
≪そういうこと。ゼタマっていう後ろ盾を無くした蛭川は途端に大人しくなって、辛うじてまともに振る舞うようになったし、仕事にも積極的に打ち込むようになったんだ。ま、最終的には懲りずに裏で不正を働いてたってことで解雇になっちゃうんだけどね。
それでまあ、その不正ってのがスレタイにもある『守衛隊が客人を殺しかけた』件の原因なんだけどさ……≫
(おっ、いよいよその話が来るか……)
≪まず前提として、雌淫魔や雄淫魔の体液には魅了作用があるってのはみんな知ってる?≫
≪ああ、知ってる知ってる。なんかそんな話よく聞くよな≫
≪けど確か体液の魅了作用ってそんなに強くもなくて、つがいの相手をより自分に夢中にさせるとか、補助的な用途が一般的なんでしょ?≫
≪そうそう。みんな詳しいね。その淫魔の体液をさ、蛭川が浅知恵で悪用しようとしたんだよね。
体液は主に経口摂取や注射、もしくは気化したのを吸うと効果を発揮するんだけど、奴は多分そこだけ中途半端に知ってたんだろうね。屋敷内の食堂で使う食器に自分の体液を塗りたくったり料理に混入させて、屋敷の従業員を魅了して操ろうと企んだっぽくてさ≫
≪うげええ、最悪じゃねえか≫
≪もはや異物混入でソノヤ≫
≪っていうかただの下品な嫌がらせでバド≫
≪ソノヤもバドも生えないから……≫
≪ほんともうソノヤとかバドとか通り越していっそザリガニだったよ。
勿論そんな作戦上手く行くわけもないし、蛭川は速攻でバレてクビになったんだけどさ、そこからが大変だったんだよね。
なんとその体液入りの料理、守衛隊の面々がそうとは知らずに食べちゃったんだよね。
しかもあるだけ根こそぎ、廃棄のために回収してたのも残らず全部……遠征明けだったし、よっぽどお腹空いてたんだろうけど、正直ぎょっとしたよね。
『なんでそれ食べちゃうの!?』っていうかさ≫
≪えぇー……≫
≪ウッソだろオイ≫
≪守衛隊の食欲パネェ……≫
(全くだ……空きっ腹で事実を知らねえとは言え廃棄予定の食い物食い尽くす守衛隊も守衛隊だが、さりとて廃棄予定の食い物をその辺に放置しとく屋敷側も大概問題あるぞ……)
≪でまあ、効果が薄いとはいえ守衛隊の面々は淫魔の体液を大量に経口摂取しちゃったわけでさ、まあとは言えあの人たちって諸事情あって魅了とか効かないんだけど、なんだろう、それでも有害には変わりないし『毒とは量である』理論でなのか、体の中でよからぬ反応が起こっちゃってたみたいでさ。
別に健康面で何かあったとか、言動がおかしくなるってことは一見なかったんだけど、どうにも運悪く全員の心にあった『近頃巷を騒がすリビングデッドへの嫌悪感』みたいなのが増幅されて『リビングデッド全般への無差別かつ強烈な敵意や殺意』になっちゃったらしくてさ……≫
≪それは確かにヤバいな≫
≪でもリビングデッドなんて基本的に今騒ぎになってるような奴らばっかりだし、それでなんか問題になるとは思えないんだけど≫
≪うんまあ、私もそう思ったんだけどね、世の中何が起こるかわからないもんでさ、丁度守衛隊の暴走がピークの時に屋敷へやってきたお客様が、なんと『中身が実質アンデッドなリビングデッド』だったんだよね……≫
≪なんだよそれ!?≫
≪そんなのあり!?≫
≪ありえなさ過ぎてムラカミ≫
≪だからムラカミ生やすんじゃないわよ……≫
(そりゃーびっくりするよなぁ。外ならぬ俺自身が未だに信じられねーもん)
説明しておくと、アンデッドとリビングデッドってのはどっちも『死人が魔物に変じたもの』でこそあれその実結構別物だ。
分かりやすく言うならアンデッドは(たとえ幽霊とかだろうと)間違いなく生物であって飲食や睡眠が必要だし性欲もあるし繁殖もできて知能も人間並みかそれ以上に高く明確な自我がある。
一方リビングデッドはその逆、飲食や睡眠はどうか知らんが性欲なんてもんはないし繁殖も不可、かつ知能だって低くて自我だって欠片ほどもねえんだ。
その点俺は一応知能がそれなり高くこの通り自我もあり、飲食睡眠も少なくていいとは言え無きゃ困る。一方で性欲はなく、分類学上はリビングデッドに属するそうで……そりゃ守衛隊が初期のナラクにやられてたフジキド・ケンジよろしく『リビングデッド絶対殺すチーム』になってたんならあんな目に遭ったって不思議じゃねえわ。
≪――如何でしたでしょうか。
やむを得ず雇い入れてしまった厄介な新人が、クビになった後も尚屋敷に迷惑をかけ続けた今回のお話。
最早対処のしようなどないのかもしれませんが、もし仮にこういった事態に陥ったとしたら、臆さず毅然とした態度で問題解決の糸口を探すのが理想なのかもしれません≫
(なるほど、そういうことだったのか……)
その後、長々と続いた演劇は天江さんのナレーションでもって締め括られたのだった。
腐れ新人の蛭川を演じていた高貴すぎる美女……一体何ンデッドなんだ……?
というわけで次回、遂にマインデッド邸の主ルージュが登場!
……の前に、たぶん八割くらいの読者が「そろそろ登場するんちゃうか~?」と予想してたであろうあいつが満を持して再登場!




