覚醒、狗人刑吏
Misskey.ioに害獣会公式アカウントができました。
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まだプロフィール画像すら定まってませんがこっから徐々に補強していきますので宜しくお願い申し上げます
『――……』
(あと一箇所……あと一箇所でっっっ!)
時は明け方……
現世と異界の境目に経つ魔物屋敷"マインデッド邸"の庭園、その一角は今や化け物二匹が殴り合う壮絶な戦場と化す!
飛び交う打撃! 衝突し合う殻と械!
『―…―…』
「っらアアアアアアアッ!」
方や無言で。方や叫んで。お互い一歩も譲らねえまま進む死闘を制するのは、果たしてどっちか!
――なんて、王道っぽくナレーションすんならそんな感じの文面になるんだろうが……
「だが俺はッ! 敢えてここで宣言わせて頂くぜ、読者諸君アッ!
この死闘、勝利つのはこの俺、マインデッド邸守衛隊三代目守衛頭、アーネスト・ルプス="ヘイズィムーン"・コールレインに他ならねえってなァ!」
『……――』
理由なんざ今更述べる必要もねえだろう。そもそもあってないようなもんだ。
「まァ、強いて言うならよォー、俺が勝つのは、俺自身勝たなきゃなんねーからでッ!」
『――……』
「つまり俺自身負けねえつーか、負けるワケにはいかねーからッ!」
『――――…………』
「負けるわけにはいかねえ以上、勝つ以外の選択肢はなく!
何が起ころうと俺は勝利を諦めねえし、絶対に勝利してみせる!」
西村のオッサンみたく『そりゃてめーの私見だろデータ出せよ』と茶々入れてくるバカガキどもにはこう返してやろう。
――『データが必要ってんなら統計学的に信用できるヤツを用意してやるぜ?
計算ドリルから帰無仮説の棄却までなんでもこなしちまう数字の達人を知ってっからよぉ!』 ――
「ま、今本作読んでる読者諸君ァ賢いのばっかだろーし、そんな人生詰んでるバカはいねーだろうがなァッ!」
『…………――――』
「ヴォリあああああああっ!」
てなワケで一丁、景気よく何時もの行っとくかァ!
「俺の名前はアーネスト!
アーネスト・ルプス="ヘイズィムーン"・コールレイン!」
『――』
「ッッラァ!
――自分自身の度重なるしくじりを悔い!
その償いと埋め合わせの為今こうして!
お客人を救わんと身体を張って死力を尽くす!
豪邸仕えの人狼野郎だぁッ!」
(U´・ω・U)<とはいえ、狼狼言ってる割にアスキーアートは犬だし番犬って呼称もわりとしがちだし……自分でも狼なんだか犬なんだかよくわかんなくなりそうなんだけどな。
『――……』
「うっらあああああああ!」
『……――』
「そのハサミの動きはもう、見切ってらァーッ!」
振り下ろされる北側のハサミ。最早とっくに動きを覚えたその打撃を、俺は逆立ちして右足首で受け止める。
何故なら俺の身体を覆う枷っぽい防具、その最後の一つが右足首に装着されてたからだ。
目下北川に対抗すべく"切り札"の発動を急いでいた俺……その為には全身を覆う枷風防具こと正式名称"閻魔獄械甲"、魔術のかかった合金製でやたら頑丈なこいつを、戦闘中にかかる負荷でもって全部破壊しきらなきゃなんねえ。
当然"切り札"はその苦労に見合ったスペックの代物だが、とは言え面倒なことに変わりはなく……さてともかく、左足首に残った"閻魔獄械甲"最後の一つ、その状態はどうかというと……
「クソッ! 微妙に当たり所が悪かったか!」
……こんだけ苦労したってのにまだ辛抱強く俺の右足首へ残ってやがる。
(もどかしいぜ……切り札発動に向けての魔力は溜まり切ってるってのに、獄械甲の破壊が完了しねーとはっ!)
ともあれ悲観してはいられねぇ。一発で壊れねぇなら五発でも五十発でも壊れるまで挑み続けるだけだ。
『――……』
「よぉぉ〜し。じゃあ北川殿っ、聞いてってくれや……マインデッド邸名物”邸内ラジオ”のリハーサルをっ!」
攻撃の隙を見極めつつ、隠し持っていたリモコンで庭園に隠された音響機器を起動する。
大音量で流れ出すのは、景気のいいアップテンポのテーマ音楽。
(ただ殴り合うだけってのも退屈だ。気分沈めねえ為にもここは、テンション上げていかねぇとなぁ!)
その昔、偉大な未来人が格言を残した。
曰く『闘争を制すのは、ノリのいい側だ』ってなぁ!
「『守衛頭コールレインの』、『五月蠅く吹っ切れSOULFUL!』ッッ!」
『……――』
まずはタイトルコールがてら、足首を当てるように回転蹴り。狙い通りカニ脚に防がれるが、相変わらず壊れる気配はねぇ。
「ハイ! 屋敷内の皆様、Good evening!
毎度やって参りました『守衛頭コールレインの五月蝿く吹っ切れSOULFUL!』ッッ!
日夜激務に明け暮れる皆様の気落ちしがちな一時を少しでも盛り上げて士気をブチ上げようってんでやらせて頂いております当番組、今回も放送時間限界まで張り切らせて頂きます!」
ラジオ番組『五月蝿く吹っ切れSOULFUL!』……ルージュ様を含む屋敷の関係者が定期的に、或いは不定期でやってる、ほぼマインデッド邸内限定で流れてる”邸内ラジオ番組”の一つだ。
内容は主に屋敷の内外での出来事の紹介やら屋敷関係者からの投書の紹介、音楽流したり雑談したりとそんなトコで、たまに暇な同僚や客人をゲストに呼んだりもする。
「さてそんじゃまずは番組に届いた投書のコーナー!
最初の投書は〜っつーか、なんか似たような内容の投書が三通も届いてますんで一気に纏めてご紹介!
何れも匿名希望、所属非公開の方々!
ホントもう似通った文面なんで要約させて頂きますすみません!」
放送関係者としちゃ禁じ手かもしれねーが、内輪のノリだからこそギリ許される暴挙ってヤツだ。
「『コールレインさん今晩は』 ハイ、今晩はっ!
『私はお屋敷でそこそこ働かせて頂いている者ですが、近頃どうにも悩まずにはいられない問題に直面しており相談させて下さい。
私は少数精鋭というか、極めて人数の少ない部署に所属しているのですが、そこの同僚たちに困っているのです。
というのもその同僚たちは、皆総じて優秀は優秀なのですが、性格に難があるからなのか変にストイックぶるというか、
他人を頼るのがひたすら下手すぎて、
自分だけで問題を抱え込んでは自滅して結局他の部署や外部の世話になってしまうなんてことがザラにあるのです。
正直そうなるのがわかりきっているなら最初から誰かに相談すべきだと思ってなりませんし、かと言ってそれを指摘しようものなら喧嘩になり関係が悪化しそうで二の足踏んでしまいます。
どうすればいいと思いますか?』
との事で、ねッ!」
『……――』
投書を読み上げる練習をしながらハサミやカニ脚、毒液毒牙を避け続けた、その果てに出来た丁度いい隙を突いて叩き込むのは芦屋涼風の空中踵落とし。
『――……』
「くっ、まだかっ!」
だが口惜しく、右足首の金具はまだ残り続けてやがる。敵の防御の硬さに辟易する奴は珍しくねぇだろうが、果たして自分の”それ”に対し『早く壊れろ』などと祈る奴はどれほどいるだろう。精々わざと負けたがる変態ゲーマーか、さもなきゃ飛電或人社長ぐれーのもんだろう。
(U ・ω・U)<次に読者は『お前はどっちかと言うと不破諌だよね』と言うッ
『…………――――』
「――てな投書でしたけどもッ! いやぁ、何の偶然かこの守衛頭コールレインもこちらの方々とまるで同じ悩みを抱えてましてねッ!
同僚どもが揃いも揃ってエリートの癖に不器用ったらねぇんですわ!
自己顕示欲丸出しでイキり散らかしてると思いきや、止しゃいいのに『自分に任せとけ』などとカッコつけて自己犠牲かまして自滅するバカはいるし!
普段雑念塗れで話脱線さす癖して妙なとこ繊細で『自分らチームで互いに相談し合ってる』とか言い訳しながら結局限界超えて自爆するアホどもはいるし!
独活の大木だ役立たずだと自虐しちゃ『若手使い潰す年寄りは老害のクズ』などと吐かし、実質遊びと言って時間外管轄外まで働き散らかすボケはいるし!
正直てめえらいい加減にしろよ、何のためのリーダーだよと常々腹ァ立ってンですがね!
とはいえ結局俺も同じ穴の狢じゃねえかってんで、ブーメランだろなと注意を躊躇っちまうんスわ!」
『――……』
「なんかもう解決の糸口すら掴めねえってんで、半ば諦めてたんですがねぇーっ!
こうやって投書読んでたらなんか、それじゃダメだろって思っちまいましたよ!」
『――……』
「躊躇ってちゃいけねぇ! 勇気出して問題と向き合わなきゃどうにもなりゃしねぇって、理解せざるを得ないもんで!
一先ず早急”そうして”やらぁと、揺るがぬ誓いを立てましたんで!
投書下さいました皆様方に措かれましても、何卒当方と同じく”そう”して頂ければと! そんなんを解決策として一先ず、当番組側としては提示させて頂きてえなと!」
『――……――……』
「そのように! 愚考する! 所存で御座いまぁぁぁぁぁぁぁっす!」
回避と打撃を繰り返すこと暫し……自棄糞で放った飛び蹴りはカニ脚によって阻まれる。
阻むに当たり弾かれたるは、右の足首部分であって……
「よ、しっ! 直撃っっ!」
その一撃を以て遂に"閻魔獄械甲"の全部品が破壊され”切り札”の発動条件は整う。
「来た来た来た来たァァァッ!」
心身に漲り、溢れんばかりに満ちては滾る荒ぶる力が解き放たれ……俺は執事コスの獣人から、北極熊大の青白く燃え盛る鬼火風の肉食獣へ姿を変える。
そうつまり、これこそ件の”我が切り札”……
(その名もズバリ、”狗人刑吏サーラメーヤ”……閻魔に仕えし神獣真似て、咎人罰する狗畜生ッ!)
制限時間も長くはねーし、電光石火で終わらせるっ!
アーネストの切り札、狗人刑吏サーラメーヤ。
なんか名前だけ見るとあんま強そうに見えないが果たして……?




