巨蟹が殺害!? 想定外!
本作をやる上でやりたいことは数多くあるが、
今回のこの場面もそうした"やりたいこと"を実現できたエピソードの一つ。
カニと蛇……果たしてこの組み合わせの真意を画面前のあなたは解き明かすことができるだろうか?
(私と付き合いの長い方ならなんとなく察しがつくかも)
俺の名はアーネスト。
アーネスト・ルプス="ヘイズィムーン"・コールレイン。
「いやああああああああ!」「うわあああああああ!」
「ぎゃあああああああああ!」「ぎょわあああああああ!」
(なんだオイ? でっけえカニかなんかのハサミや脚と、蛇の頭ぁ?)
戦場と化した庭先で、有り得ねえもんを見ちまって困惑する、豪邸仕えの番犬だ。
(U ・ω・U)<正直、俺の独白で何かしら察した奴が居たらそいつは世紀の大天才か、さもなきゃ作者の野郎の心を読む宮崎のどかだと思う。
革命派淫魔どもとの長期戦で疲弊し、遂に意識を失い倒れ伏す北川……だが奴に異変が起こり、近寄ってヤツを嘲っていた淫魔どもは見るも無残な姿で殺された。
程なく明かされた異変の実態は、北川の倒れた辺りから半透明のカニの手足と蛇の頭(首?)が生えて三匹を殺したっつーなんとも信じ難いモンで……
「クッソが、てめえこの死にぞこないが!」
「よくもやりやがったなああ!」
冷静さを欠いていたのもあって、仲間を殺された革命派の淫魔どもは怒り狂い、未だ倒れ伏す北川へ武器を振り上げ突撃する。
「何が『革命派は平和主義者。野蛮な暴力を良しとせず、世界を愛で包む』だよバカどもが……」
そんな俺の、明らかに聞こえるような声量での罵倒も耳に入っちゃいねえんだろう。冷静さを欠き暴徒と化した淫魔どもは、形振り構わず北川の元へ向かうが……
「ごぎゃ!?」「ぐぎぇ!?」「ぐぼ!?」「ぶっぺろ!?」「ぐっぽば!?」
全員、透き通ったカニのハサミや脚、蛇の頭に殺されていく。
「ち、近寄ってダメならっ! 遠距離攻撃でっ――ほぎゃあああああああああ!?」
浅知恵から投石器を振り上げた小鬼淫魔だったが、蛇の頭が吐いたこれまた半透明の粘液を浴びるや否や、その身体は焼けたんだか溶けたんだかわからんが耳障りな音を立てながら白煙に包まれ、そのままグズグズに崩壊した。恐らくは死んだだろう(つーか、あれで生きてたら普通にこえーし当人の為にもなんねぇから死んでてくれと説に願う)。
「なっ、あああ!? なに、こっれ――ぎええええええええ!?」
「ぎぃやああああああ! はっぎゃああああああ!」
奴らの反応を見るに毒液か何かだろうか。要するにあの蛇は毒蛇で、しかも見かけに依らずある種のコブラよろしく毒液を吐いたりもできるようだ。
「よくわからんが高性能だなあ」
これが世にいう対岸の火事ってヤツか。確かに遠くで他人、それも殺したいほど嫌いな奴らが不幸な目に遭ってても心なんて痛まねえわな。
(読)Д(者)<ある意味お前のせいでこうなっとんのに何とも思わんとかお前人の心ないんか?
(U ・ω・U)<北川には悪い事しちまったなって思ってるし、そこは改めて詫びなきゃだな。革命派の奴らは知らん。てか俺は人じゃねえから人の心って言われても、なんだけど。
(読)∀(者)<そらそうやな。いやもうナガレに申し訳ないと思うとったらそれでええよ。革命派に同情なんかいらんわ。
『――』
(おお、立ち上がったか)
程なくして北川は立ち上がった……といっても、自分から起き上がったってよりは例の"透明なカニの手足"に立たされたって感じで、見るからに当人の意思じゃなさそうだが。
「クソがぁ! てめーはもう許さねぇからなぁ!?」
「アタシらの仲間を殺ったことを後悔させてやる!」
「柘榴石眼様の理想世界に人殺しの化け物なんて要らないのよぉー!」
「他の誰を許したとしても! あんただけは絶対に許してやるもんですかああああ!」
立ち上がり、蛇の頭とカニのハサミが一つずつ、カニの足も三本ほど増えた北川。
左右のバランスが良くなった序でに(露わになった素顔も相まって)中々威圧感のあるおっかない見た目だが、怒り狂った革命派の奴らは尚も北川へ向かっていく。
『――――』
だが対する北川は虚無の表情のまま――
「ナメてんじゃねええあがっばらっぎゃあああああ!?」
「お前だけはムッコろっぼごごおおおおおおっ!? ぐぎいいいいっ!?」
「真実の愛を理解せずただ暴力に訴えるしか能のない愚者に朝日を拝む資格はなっぱぎゃぎっぴー!?」
「劇的な革命を経て生まれ変わった愛と快楽に満ちた幸せえっちな新世界の礎になりなさばぎょべびゃっばぎええええええっ!?」
――自分から生えた"透明なカニの手足や蛇の頭"でもって、淫魔どもを悉く惨殺していくんだ。
獰猛に襲い掛かった図体も乳もデカい大鬼淫魔に毒液を浴びせあっさり殺害。
続け様に襲い掛かってきたこれまた色々デカい武闘派の虎獣人淫魔は頭から丸呑みにされた挙句ほぼ丸出しのプリケツに毒牙をぶっ刺され、吐き捨てられ胃液塗れで痙攣しながら哀れに死亡。
三番手はイカみてーなノッポの淫魔だったが自慢のゲソはカニのハサミに引き千切られ秒で全滅、ブーメラン発言かましつつ青黒い血をまき散らしてのたうち回りながら失血死。
なんか思想強めな言動の狂信者じみた奴はチョウだかガだかわからんがド派手な虫っぽい淫魔。振り上げられたカニの脚をご自慢の高そうな双剣(多分サーベル?)で受け流すか防ぐか、或いは切り落としてやろうって算段だったのか知らんが、実際勢い良く振り下ろされたカニの脚は奴を双剣ごと頭から叩き潰した。
『――……――……』
しかもそれでいて北川はこの無表情ってんだから恐ろしい。なんだっけ、平成ライダーに居たよなああいう感じの動きする奴。
(ああそうだ、ビルドだ。ビルドのハザードってヤツだ。あの真っ黒い、暴走フォームの癖に騒いだり荒れ狂ったりとかしねーおっかねぇヤツ)
感情を消し去りただ眼前の敵を必要最低限の動きで無駄なく殺していく、人間を兵器に変えちまうまさに災厄フォーム。今の北川の戦いぶりは、見た目こそ幾らかファンタジーぽくてわりかし生物的……SF色全開でメカメカしいビルドとは対照的だが、挙動そのものはマジで瓜二つだ。
(確かハザードフォームはベルトにハザードトリガーってのをくっつけて変身してたハズだが……ナルホド、災厄の引き金とは考えたもんだぜ)
察するに革命派の奴ら、イキり過ぎて引いちまったんだろうぜ。北川のヤツの"災厄の引き金"をよ……
(なんて、サム過ぎて到底口に出しては言えねーがな)
さて、そうこうしている内に淫魔どもは北川の手にかかりどんどん数を減らしていった。
「へへーん! あたいはスライムだからそんなのききっこないもんねーだ! くやしかったらつかまえてごらーん、あっかんべろべろべーっ!」
『……――』
殆どの淫魔が死に絶え、或いは生き残ったとしても逃げ去ったかほぼ瀕死レベルで再起不能……そんな地獄みてーな状況にあって尚北川へ敵意を向け続けるのは、アセロラジュースみてーな赤色をしたスライム淫魔のガキ。
確かに奴らの身体は魔力膜抜きにしても殆どの物理攻撃を受け付けず、相手取るには魔術や特殊な装備が必要になる厄介な相手だ。あのガキはそれを理解してるんだろう、得意げに北川を挑発していたが……
『――……』
「なによ? どくえきでもあびせようっての? いいわよ、あびせればいいじゃない! どうせあたいはスライムだし、なにされたってへっちゃらだもんねーだ!」
覗き込んでくる蛇の頭を挑発したガキは、よっぽどスライムとしての特性に自信があるんだろう、堂々と仁王立ちしたままそこから動こうとしない。
(バカなヤツだ。自ら死にに行くなんて)
ガキの様子を見た俺の率直な感想は、その一言に尽きた。恐らくあのガキは、自分の愚行を悔いながら……或いは自分の愚行を悔いる時間すら与えられねえまま、惨めな最期を迎えるんだろう。
確証もねえ癖に、直感でそう確信しちまった。
そして実際……
「どーしたのよ! ほら、どくえきでもなんでもはけばいーじゃない! どうせあんたじゃあたいをたおせっこ――ッッな゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」
蛇の口ん中から噴射された、霧状の毒液……『笑ってコラえて!』のタイムマシンが動く時に噴き出す白いガスみてーな勢いのそれを真正面からモロに浴びたスライムは、そりゃあもうひでえ悲鳴を上げやがってさ。生意気メスガキ系っての? ああいう感じの見た目からは想像もできねーきったねえ悲鳴だったよな。
具体的に言うと、大体三十路手前頃の、海辺のロケでグロい海洋生物見付けた時の中川翔子の叫び声に、シャンプーのCMで有名なテリー・クルーズのシャウト、あとはビーバーの雄叫びを混ぜて、ノイズを取り除きつつより汚く不愉快に聞こえるようにエフェクトかけたような……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!
っぐあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……――」
毒の作用だろうか、スライムのガキは石造か石膏像みてーな姿になったまま沈黙。恐らくこの時点でほぼ十割がた死んだのだろうが……
『……――』
北川は物言わぬ彫像と化したガキを、両方のハサミで容赦なく粉砕……容赦なく完璧にトドメを刺したのだった。
あんだけ厄介だったハズの革命派淫魔軍団がいともたやすく……
果たして革命派淫魔軍団が魔力膜の絶対防御に頼りまくりのクソザコだったのか、
はたまたナガレに宿った謎の力が強すぎるのか、
真相は如何に……
各話末尾に補足のショートコラムが入ったカクヨム版もよろしくね
https://kakuyomu.jp/works/16817330663019627345




