量産型独善主義痴女淫魔集団"革命派"、その真なる脅威
「戦闘技能のない淫魔風情余裕だろ」と高を括っていたナガレだったが、
思いがけない形で苦戦を強いられてしまう
果たして彼を追い詰めた革命派淫魔の秘密とは!?
俺の名前は、北川ナガレ……
「やっほ~おにーさぁ~ん? どーしたのさぁ、そんな浮かない顔してぇ~」
「あらあら、うふふふ……ボクちゃんってば、目の前の現実が受け入れられないのねぇ~❤」
(一体何が、どうなってんだよっっ……!)
ほぼ死んだも同然にブチのめしたハズの敵が何故か何事もなかったかのように動き回る状況に困惑するゾンビの化け物"死越者"だ。
〈◎皿◎〉<この状況、控え目に言ってもかなりヤバくね……?
激化の一途を辿るマインデッド邸庭園での闘争。
「肋骨が粉々に砕け散りそうな音ォ!」
「ぶぼがっ!?」
「翼の関節が外れててもおかしくねー音ッ!」
「ぎゃがっ!?」
「硬い甲羅さえ割れそうな音ーッ!」
「ごぎゃあああああっ!?」
共に戦場に立ち、味方として戦ってくれている"マインデッド邸"守衛隊トップ、人狼アーネストの活躍たるやまさに目を見張るようなもんがある。だが主に腕っぷしの強い武闘派連中ばかり相手取っちゃ激闘を強いられてるからだろう、身体を覆う拘束具風の――或いは枷を戦闘向けにアレンジしたような――重厚な防具らは所々破損が目立っていて、どうにも優勢・好調とは言い難い……何なら苦戦してると言って差し支えねぇ状況だった。
だが或いは、そんな彼より輪を掛けて情けねえのは俺なんだろう。
(こいつら……なんで無傷なんだよっ!?)
何せヤツの側へ向かったのより遥かに非力そうな連中ばかり相手にしてて、しかも武器だって色々持ってるってのに、それでも尚まともにダメージすら与えられて無かったんだからな……。
(ふざけんなっ! ふざけんなふざけんなふざけんなっ!
どういうことだよクソくそ糞っ!
そりゃ格下なのは認めるよ! そりゃ俺なんて、今まで殆ど屍人刈りばっかでイキってた、たかが青二才の勘違い野郎だろうよ!
そりゃ認める! 認めるさ! だがそれでも、そうだとしても! こんなのが……こんな現実が受け入れられっかよっ!)
脳内でひたすら愚痴を吐き散らし、それでも平静を装いながら俺は淫魔どもを撃退し続ける。
攻撃が通らないからって、戦闘を放棄し諦める理由になんてなりゃしねえからな。
(中学か、高校か……試験の結果が一年先十年先を左右する時期、誰しも誰かから言われたハズだっ!
「答案用紙の回答欄が空白のままなら当然点はねえが、何か書いときゃ点になるかもしれねぇ。だからとりあえず書いておけ」ってなァ!)
だから俺はあくまで諦めねえ。なんか周りじゃ淫魔どもがヘラヘラ笑いながら、やれ『現実を受け入れろ』だとか『お前じゃ私たちには勝てない』だとかと抜かしてやがるが……
『届かねえ……届かねえなあ、んな軽口ッ!』
「がぐっ!? ぎええええええっ!?」
適当に、近くに居たヤツ――両腕が翼になった鳥っぽいヤツだが、何を血迷ったか陸上を歩いてた――の首を掴み、力一杯締め上げる。
『てめえら如き革命派、どうせしょーもねー理由で挫折して人間やめた雑魚なんだろ?』
「ぎっ、ぐ、げぇぇぇぇぇ……!」
『あらかた柘榴石眼のババアか勝呂のアホに誑かされて、てめえの不都合をなんでも世の中の所為だと責任転嫁して……そうやって生きてきたのがお前らだよなあ?』
「言わせておけば、こっちの事情も知らずベラベラと――」
『ハァッ!』
「もがっ!?」
途中、感情任せに飛び掛かってきたトカゲっぽいヤツの顔面を掴む。死越者んなって微妙にデカくなってた手がこんな所で役に立つとは。
『キレて襲い掛かって来たってこたァ、図星なんだろ……?
辛い現実から無様に逃げ続け、戦うことも前に進むことも諦めて、自分は何をせずとも成り上がれる特別な存在だと思い込み、そうならないからと世間や他者を逆恨み……
心地よい甘言や美辞麗句に乗せられるまま自分を捨てるように売り飛ばしてまで力を得て、"個性のない量産型"の地位に甘んじ上に命じられるまま蛮行を繰り返す……
そんな雑魚どもの軽口がッッ! この北川ナガレに届くわきゃあ、ねェーだろォーがァッ!』
「ぐぎょおおおおお!?」「ぶぎゃらあああああ!?」
奴らに見せつけるつもりで、鳥の額とトカゲの後頭部をシンバルよろしく激突させる。
「ふが、ぁがが……」「ぐっ、ぎぃぃ……」
『目の前の現実に挑もうとすらしねえヤツはッ……誰にも勝てやしねェーんだあッッ!』
「「ぞらぼおおおおおおっ!?」」
そしてそのまま、掴んだ頭を地面に打ち込む勢いで叩き付ける。……例え死んでなかろうが、少しの間は動けまい。
(或いは血も流せず殺せねえのなら、苦痛や不快感で心をへし折って撃退するのもアリか……?)
追撃とばかりに倒れ伏す奴らを蹴飛ばしながら、俺は尚も啖呵を切る。
『どうした革命派ァ……かかって来い。死ぬまでブチのめしてやるぜェ!』
まだまだこっからが正念場だ……!
〈◎皿◎〉<で、どうなったかっつーと……
「よぉよぉ、どうしたよ"ボクくぅん"!?」
「スターウォーズごっこはもう飽きたんでちゅかぁ~!?」
「次はガンダムごっこで遊ぶかよぉ~!?」
「「「ギャッハハハハハハハァ!」」」
『クッ、ソがぁ……』
啖呵を切ってから徹底抗戦すること暫し……そろそろ夜明けも近付き辺りが明るくなってきた頃、俺は疲労と不快感に心身を蝕まれていた。
もっと分かりやすく言うと"これまでになく有り得ねーほど絶体絶命の大ピンチ"ってヤツだ。
(お、おかしい……何故だ……何故奴ら傷を負わねえ? 間違いなくヒト型生物の急所を狙ってるっつーのに、出血どころか骨折や打撲もせず痛みからの立ち直りも早えとかおかしいだろっっ!?)
あらゆる武器を用い、あらゆる部位を狙い、俺は奴らを攻撃し続けた。
どうにか傷を負わせるか、或いは激痛でもって撃退に追い込む為に。
だが現実は非情……俺の如何なる攻撃も、奴らに対しちゃ無意味に終わった。
鱗を持つ爬虫類タイプや外骨格のある節足動物タイプ、或いは鎧を着た武闘派ならいざ知らず、いかにも防御の手薄そうな奴らへの攻撃すら通らず、痛覚を刺激してもすぐに立ち直られちまう……『万策尽きる』『八方塞がり』の手本かってぐれーどうにもならねえ。
(まるで両津勘吉を殺そうとして手古摺るフリーザの気分だぜ……)
もし好みじゃねえなら特殊刑事課"海パンの汚野"とやり合う羽目になった夏油傑でもいいぜ。そっちのが奴らを例えるのに丁度いいからな。
(然しともあれ状況は深刻だ……アーネストくんは流石プロなだけにまだ疲れた様子も見せてねえとは言え防具はぶっ壊れまくりだし、俺自身体力の消耗がヤベェ……!)
度々言及しているから本編を熟読してる敬虔な読者諸君なら知ってるだろうが、俺は死人だからか身体が頑丈で、深手を負っても結構すぐ再生・回復するし、痛みや疲労にだってかなり強い。つまり俺がへバるとしたらよっぽどヤバい状況なワケだが……今こそまさにその"よっぽどヤバい状況"だった。
何せ革命派の阿婆擦れどもときたら、幾らやっても傷を負わず、当然死にもしねえから相手の戦力は減らず、痛みで心を折って撃退もできねえ。お陰で俺ばかり消耗させられ、疲れと焦り、そして苛立ちから生まれた動作の隙を突いた奴らの攻撃を食らうようになっちまう。
その上恐ろしいことに、奴らの攻撃は、なんか特殊な術でも作用してんのか食らうと凄まじい(筋肉痛か関節痛、もしくは手足の痺れに似た)激痛に襲われる上、回復・再生には時間がかかり消耗の激しさも桁違い……そんなのを四方八方から何発も食らったとなりゃ、如何に頑丈なゾンビの化け物とは言え動けなくなって当然ってもんだ。
(何故だ……どうしてこうなった……確かにジジイも『アーネストでも革命派構成員を倒すのに二時間かかった』とか言ってたが、ありゃ武闘派の手練れが何人も襲い掛かって来たからであって……ん? 待てよ、ジジイの発言……?)
ふと何かしらの引っ掛かりを感じた俺は、可能な限り攻撃を躱しながら必死で記憶に探りを入れる。
そうして思い出した全文は……――
◇◇――「愚か者めぇ! バオロンの防壁をそこいらの障壁魔術程度に考えるでないぞ!
その防壁、正式名称"多角柱状魔術式防護壁"は嘗てアーネストが二時間かけて成敗した革命派の売女どもの体表面を覆う"万能生体防護魔力膜"を主様と屋敷の技術部が専門機関協力のもと解析して得られしデータから開発した代物にして、
二年前の我が誕生日に主様よりお贈り頂いた数ある誕生日プレゼントの中でも特に価値ある一つ!
余程火力の高い武器ならばまだしも、その程度の"胡麻散弾"程度では傷も付かぬわァ!」――◇◇
(――……ああ、なんてこった……――)
思い出したチャールズ老の言葉を脳内で反芻しながら、俺は己の安易な判断と無駄な強がりを悔いた。
そうだ。革命派の奴らの身体は、とんでもなく頑丈な"障壁"で覆われてたんじゃねえか。
しかもそれは最強ゴーレム"バオロン"が持つ防御技に転用されるぐれー強力で、だからチャールズ老も"特に価値のある誕生日プレゼント"って豪語してたんじゃねえか。
(そりゃ、そうだ……太刀打ちできる、わけがねえ……あのバオロンの防護壁のモデル、なんて……)
最早疲労困憊……薄れ行く意識の中で、俺はどこまでも無情な現実をただ噛み締める……。
(あの鉄壁を誇った防護壁のモデル……奴らの"万能生体防護魔力膜"……まさに"ギャグキャラ補正"を体現するようなそれを、こんな俺なんかが……
単なる若干賢いだけのリビングデッド風情が、打ち破れるワケが――
「ッラァ! そんなキモい面被ってんじゃねぇ!」
『グブアッ!?』
刹那、俺の顎へ叩き込まれる強烈な蹴り……当時の俺は知る由もなかったが、そいつを放ったのは嘗て俺が吹き飛ばした甲虫型構成員だった。
『ガ、あぁ……』
硬い外骨格を纏った足先での蹴りは、俺の意識を一瞬で刈り取り、同時に破損寸前だった狸面を真っ二つに破壊した。
「――!!」「――――!?」「――――!? ――!」
なんだか口々に騒いでるようだが……生憎と具体的な言葉が聞き取れず内容を理解できない。
(まあ、いいか……どうせ『キモい』だの『不細工』だの、悪口しか言ってねえだろうし……聞く価値もねえなら、聞こえない方がずっといい……)
なんて独白してる内に、俺は地面に倒れ伏し……そのまま、意識を失った。
次回、絶体絶命のナガレ……逆転なるか!?




