死越者、惨敗。そして……
今回に関しては親切な誰かが助けてくれることもなく、
そもそもロボが親切ならぬ心折設計みたいなとこもあったのであっさり惨敗してしまうのであった……
果たしてナガレの運命や如何に!?
俺の名前は、北川ナガレ。
「いざ、撃ていッッ!」
≪キゥギギィィーッ!≫
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
≪グルヴォォォォォッ!≫
『づおわああああああああっ!?』
無茶してロボに乗り込み不慣れな巨大戦に挑んだ結果、相手の全力に力負けしてあっさりやられた無様で哀れなリビングデッドだ。
「ィ良し、勝ったァ……!」
≪ギギギィィィィッ!≫
≪ヴョルラッゲェアアアアッ!≫
≪ヴォッボォ! ヴルォッゴォォォォッ!≫
〈◎皿◎〉<ぶっちゃけ見通しが甘すぎたわなー……
『……』
巨大ロボ"謎数多武闘派総理大臣"が水上で爆発炎上する最中、俺はひたすら水ん中を沈んでいた。
(……あの爆発でほぼ無事とか奇跡かよ)
死越者特有の頑丈さに加えて悪運が強かったからだろう、爆発の勢いで運よく機外へ放り出された俺は、あの規模の爆発に巻き込まれたとは思い難いほど軽傷だったんだ。
(……しっかしやべぇな。見るからに高そうだったんでできれば大破程度に留めて返却したかったんだが……)
ま、とにかくそこは後で土下座でも何でもして平謝りするしかねーだろう。問題はこっからどう持ち直すかだ。
(とは言え、早川さんに頼んだ代替機が到着しないことには何とも言えねーが……)
幸いにも俺は死人。呼吸を止めていられる時間は生者の倍以上あるし、このまま水中に潜伏しつつ代替機の到着を待つのも手だろう。とは言えこの水中、"金魚"以外にもヤバい連中がいる可能性は捨てきれねぇなら長居はすべきじゃねーし、そもそもジジイが『残骸拾いしてこい』とでも命じて水上のゴーレムどもが潜りでもしたらすぐ発見されちまうだろう。
(そうなったら間違いなく死ぬな……それこそまさしく二度目の死ってヤツだ)
なんて風に思案していたわけだが、幸いにも俺の懸念は杞憂で終わってくれた。こっちに向けて出発した代替機のロボが到着したんだ。
(おっ、来た来た……結構早かったな)
SFチックな宇宙船っぽい姿で水中を音もなく進んでいたそいつは、俺の存在を検知するや否やヒト型に変形する。全体的には西洋の剣士……丁度RPGの主人公、特にドラクエの勇者を彷彿とさせつつ頭部は若干ドラゴン風(かつ機体各部にもドラゴン風の意匠あり)で、右手に両刃の剣を生やし、左手に複数の機銃が組み込まれた盾を張り付けた若干ヒロイックな風貌には見覚えがあった。
(おお、こいつは……"竜紋大英雄"じゃねーか)
その名は"竜紋大英雄"。
巨大ロボ兵器を作る計画を聞いた当初製造風景を見せて貰った機体で、かなり柔軟な動きができる高性能な代物だったハズだ。
(MRF無しでも空飛べるし、飛び道具も潤沢だし障壁とか防御系の技も充実してるし……少なくとも"謎数多武闘派総理大臣"よりは扱いやすそうだな)
何より緊急脱出装置があるからいざって時でも機外に逃げられるってのがデカい。"総理大臣"は予算出してる出資者の意向で防御技も脱出装置もねぇし、実質飛び道具だって皆無に等しいからな。
『塾長センセも困った人だよなぁ、自分が乗らねーからって好き勝手言ってくれちまってさぁ……』
手早く"竜紋大英雄"に乗り込んだ俺は、水上を目指し一気に浮上する。
『さぁて、反撃開始だぜ……!』
〈◎皿◎〉<これで少なくとも前回よりはマシな動きができるハズだ
場面は変わって水上。
「さて、ではあの鉄屑の残骸を片付けるとすr────『ぅおラっしゃアアッ!』
水面を突き破る勢いで――図らずもジジイの台詞を遮りながら――俺は水上に躍り出る。
『どぉぉぉぉっも皆さんッお久しぶりでっっす!
「デッドリヴェンジ!」の「格付けチェック」が嫌いで嫌いで仕方ない方ッ、死越者の北川ナガレでぇぇぇィす!
いい加減名前ぐらいは憶えてから惨敗して下さぁぁぁぁい! ッヘーェイ!』
機体が完全に水から離れると同時に、俺は叫んだ。……我ながらわけわかんねぇしぶっちゃけダセェ台詞だったなって反省してる。
多分ロボのジェット噴射で勢いよく浮上し過ぎて脳が水圧変化にやられでもしたんだろう、この時の俺のテンションは正直色々おかしかったんだと思う。
「ぬぅ、貴様リビングデッド……! 薄々そんな気はしておったがよもや本当にあれで終わっておらぬとは……!」
『よぉ~ジョージお爺ちゃぁ~ん? あんたの敗北が今戻ったぜぇ、新しい武力を引き連れてなぁ~』
「誰が"ロンサム・ジョージ"かっ……! 然し新たな装備を得たとの言は真実のようだの……最初の機体よりは有力そうに見えるぞ……」
『ひっでぇなあ、まるで前のヤツが馬力と装甲にばっか金かけただけのポンコツみてーな言い草じゃねえか』
ま、否定はせんがね。"謎数多武闘派総理大臣"は試作段階だし、それを抜きにしても出資者の注文に従ったお陰で欠陥ばっかの構造りだったからよ。
(逆に言えばそういう研究データが取れたって収穫はあるわけだが……畜生、こんなことならドラレコ的なもんでも持っとくんだったぜ)
乗ってた俺の証言だけじゃ出資者への攻撃材料としちゃ弱そうだし、映像なんかの確固たる証拠があればなあ……なんてまあ、過ぎたことを悔いても仕方ねえし、そもそも俺はロボを貸して貰ってるだけの言わば製品試験運用者に過ぎねーから、開発部の台所事情まで首突っ込むのもおかしな話ではあるがね。
『まあいいや。前のヤツが期待外れだったってんなら詫びの一つでも入れさせてくれや……』
「具体的には何を?」
『決まってんだろ、竜紋大英雄であんたらと二回戦ってこったよ』
「ほう……」
『まさか「さっきので決着はついた」とか言って断るわきゃあねぇよなぁ?』
「戯けたことを。貴様が素直に敗北を認め二度とこの館に近寄らぬと、拇印付きの誓約書でも書いておとなしく引き下がるならば考えんでもないが……例え天地が引っ繰り返り海が凍り付き、イーロン・マスクが今迄に犯した暴虐暴政の事実を認め命含めた己が全てを捨て完全に罪を償ったとて、貴様は大人しく引き下がるまい? そもそも貴様にしてみれば、あの程度など敗北の内にも入らんであろう?」
『当然だ。例え太陽と月が入れ替わって金星さえ燃え尽きて、ホルモンが2023年七月中に「刃渡り2億センチ」の総五分越えフル音源とMVを完成させたところで俺ァ退かねえ……まあ、さっきのは敗北だと認めるがね。あくまで次は勝つ、ってだけのことだ』
「ならば交渉の余地などあるまい。此方としても久方ぶりの暴れる機会故、貴様に退かれては困るのでな……」
『いいねえ。なら存分に暴れようじゃねえか……』
「是非もなし……往けい、我が配下らよ! 次こそ奴めを殲滅するのだ!」
≪キゥギギィィーッ!≫
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
≪グルヴォォォォォッ!≫
斯くして戦闘再開……だがロボの性能が上がった以上、以前みてーなヘマはできねぇ。
『へへへ、面白くなってきやがったぜ……かかって来いや、化け物どもがぁ!』
次回、心折ならぬ親切設計のロボ"竜紋大英雄"でゴーレムどもに逆襲開始!




