集結、驚異の三大海上戦力
富裕大陸一面水没の圧倒的不利な苦境にあって尚抗うナガレは、
巨大ロボを駆り大剣を振り回し怪物めいた"金魚"らの猛攻を凌ぎ迎撃し続ける。
一方のチャールズ老が彼を始末すべく嗾けてきた驚くべき"水中用ゴーレム"とは……
俺の名前は北川ナガレ!
「――星海を越えて地に降り立ちしは、素早く賢き異形の雌ら。
それらは婦人が輝石を欲すが如く、侵略戦争企てて、山谷に潜みて悪巧み」
『ブツ切りになっとけぇぇぇ!』
《シャゲアアアアア!?》
全域が底なしの水に覆われた空中大陸でロボを乗り回し、馬鹿でかい"金魚"どもを相手に大立ち回りを演じるゾンビの化け物だ。
「雌らが繰り出す切り札は、電撃操るうねりの水獣。
湖中の深みへ静かに潜み、雷電を以て敵を狩らん」
『三匹一気に行くぜぇぇぇ!?』
《《《ギャガゲエアアア!?》》》
ゴーレム召喚に向けて詠唱を続けるチャールズ老を尻目に、俺は"金魚"どもを切り伏せていく。
「時を経て、獣は勇士の手に渡らん。
罪深き血の宿命を背負う勇士は獣と手を取り合い、数多の苦境を乗り越えり。
死闘の末獣は落命し、されども主君の為その忠義を貫徹せん。
気高き意志のまま、今こそ深淵より再起せよ。
電撃連撃長、エレクトリック・プリシオソー」
≪キゥギギィィーッ! キュィィギギーッ!≫
召喚に応じ水中から現れたのは、黄色地に黒の幾何学模様っつー警告色じみたカラーリングの首長竜"電撃連撃長 エレクトリック・プリシオソー"。
ただ外皮には毛も外骨格も鱗さえもなく(さりとて両生類や海棲哺乳類のそれとも言い難く)、加えて目がある筈の位置から黒い二又の触角か触手のようなもんが生えてたり、口元に脊椎動物風の顎さえ見当たらねー等首長竜としちゃ些か異様……強いて要約するなら"首長竜とウミウシの合成生物"ってトコか。
≪キゥギギィィーッ!≫
《《《《《《シュゲアアアアアア!?》》》》》》
(巻き込んでる巻き込んでる! 電撃に"金魚"巻き込んでんじゃねーかプリシオソー! いいのか!? それでいいのか!? その"金魚"も一応手駒なら雑に扱っちゃマズいんじゃねーのかジジイ!?)
ウォーミングアップのつもりなのか、プリシオソーは全身から電撃を放つ。周囲が水――それも不純物混ざりまくり――だったもんで当然水中にいた"金魚"どもは巻き添えを食らい次々死んでいく。
一方俺はというと、浸水リスクを考慮して"MRF"で滞空、"金魚"どもを空中に誘い出し迎撃するって戦法を取ってたお陰で電撃は食らわずに済んだが……
(なんにせよ装甲が割れた機体で相手取るのはマズい……計器類や機関部をやられたらそのまま水中へ真っ逆さまだ。"総理大臣"も修理に出さなきゃなんねーし、代替機の要請をしておくか……)
ってワケで俺は早川さんに代替機を出して貰うよう頼みつつ、プリシオソーの電撃を掻い潜りながら奴の動きを観察する。
「――遥か昔。意識も遠のく古の時代、深淵の闇を統べし神あり。
大海奥深くより浮上せし都に祀られしその神は、名状し難く邪悪なり」
その間にもチャールズ老は次のゴーレム召喚に取り掛かってやがる。なんとも勘弁願いたいトコだが、ジジイは俺を完全に殺すつもりだろうから何を言っても無駄だろう。
「地に出でただ在るだけで冒涜的に人畜を殺め滅ぼすかの神、
最早神と呼ぶのも烏滸がましいそれに付き従うは、眷属なる剛の兵也」
≪キュィィギギーッ!≫
『っぶねーっ!?』
プリシオソーの放つ雷撃は、ユルくて無害そうなヤツの面構えに反して激烈で壮絶。お陰で満足に近寄れもしねぇってんだからタチが悪い。
「剛の兵は地の底に潜み、不壊の鎧を纏う信徒也。
その信仰は狂気の域にあり、敗けて尚揺るがず、死して尚絶えず。
例え地獄に落とされようと、燃える業火を食い潰し、雄々しく獰猛に甦らん。
今こそ冥府より顕現せよ、
獄炎邪教徒 ジオサーマル・カルカロレクス」
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
ジジイの口上に応じ、水面を突き破るように飛び出してきたのは、岩のような甲殻を纏い胸鰭が腕の如く変化した巨大なサメ型のゴーレム"獄炎邪教徒 ジオサーマル・カルカロレクス"だった。
見た感じはつい先程相手取った"ヴァイブレイト・ケラトプス"めいた印象だったが、実際ヤツの動きはケラトプスに近いもんがあり、尾鰭の圧倒的筋力でもって繰り出される突進を軸に時折鼻先から光線を放つ様はまさしくヤツの水中版といった様相を呈している。
陸地がない場所で電撃使いが相手ってだけでも不利なのに、その上ストレートな脳筋タイプが加わったとかいよいよどうにもなんねーな、とか思っていたんだが……
「――時は戦国。若くして頭角を現したる一人の呪師あり。
乱世の闇に生き数多の武将を殺めし呪師は、敵の手に掛かり自ら命を絶たん。
なれどその執念と欲望は尽きず、野心のままに蘇り異形の化身を生み出さん」
輪をかけて絶望的なことに、ジジイは三体目のゴーレム召喚に取り掛かっていた。ゴーレムを二体同時に喪ったのがよっぽど堪えたと見える。
「睨視の目。凝視の眼。直視の瞳。熟視の眸。
稀代の秀才をも惑わす奇々怪々ぶりを以て、眼前の敵を陥れん。
いざ、怨嗟を開眼せよ、
死視怪奇眼 グレア・ディノカリディダ」
≪フュキュグュルルルァゥグァ……!≫
『なんだそれ……!?』
召喚された三体目のゴーレム"死視怪奇眼 グレア・ディノカリディダ"は、俺自身思わず驚愕せずにいられないような異様すぎる風貌だった。
恐蟹綱ってだけに大まかにはオパビニアかアノマロカリスっぽい見た目っつーか、二つを上手いこと混ぜ合わせたような風貌をしていた(アノマロカリスの触手二本の間からオパビニアの触手が一本生えてるとか、目玉も合計七つだとかそんな感じを思い浮かべてくれりゃいい)。
古生物界隈でも異形の代名詞なヤツらを合成ってだけでも既にぶっ飛んであるが、奴らの異形っぷりはその程度じゃ終わらない。
何せディノカリダ、名前に睨視って入ってるからなのか、とにかく全身が目玉だらけなんだ。
元々アノマロカリスとオパビニアの合成体なんで目玉が七つなのはさっき述べた通りだが、中央の目玉がやけに肥大化していて、全ての目玉が総じて節足動物特有の複眼じゃなく水晶体眼――要するに人間はじめ脊椎動物の他、巻貝や頭足類みてーな眼ってことだ――になっているんだから気持ち悪いったらねえ。
(しかも色んな動物の水晶体眼集めてやがるせいで余計気持ち悪いんだよなー)
加えてオパビニアとしての触手の先端部に格納式の目玉を備え、エビの尻尾みてーなアノマロカリスとしての触手の背面にも複数の目玉が連なり、背と腹にも等間隔でバカでかい目玉が並び、エラだかヒレだかと言われる部位にさえ目玉状の模様がある始末(といってこれは単なる模様の可能性もあるが)。どんだけ目玉好きなんだよ。言っちゃ何だがデザイナーが病んでたって逸話があってもおかしくねーぞこれ。
≪キゥギギィィーッ! キュィィギギーッ!≫
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
≪フュキュグュルルルァゥグァ……!≫
「よしよし、これにて全員揃うたな……待たせたのう、リビングデッドよ。
さあ、力の限り戦り合おうではないか……!」
『……ジジイ、てンめェ~加減ってもんを知らねーのか』
場所は不得手な水上で、今乗ってるロボは壊れかけ。代替機がいつ届くかもわからねえ……そんな状況下で尚、わけわからん(そして多分やたら強いであろう)バケモン三匹を相手取らなきゃならねーなんざ、冗談抜きに絶望だ。
「なに、案ずるでない。現状我が同時に操れるゴーレムは三体迄な上、身動きも取れんのでなァ」
そんな俺の心情を知ってか知らずか、ジジイは軽々しく言い放つ始末。
いやいや、何が"案ずるな"だよこの変温動物が。ゴーレム三体もいる時点で案じまくりなんだよボケが。
(やっべぇな、どうすんだよこれ……)
ディノカリダは知らんが、あとの二体は高火力の飛び道具持ち。防御を装甲そのものの耐久力に依存してる上、試作段階なもんで盾や障壁みてーな防御技もねぇ総理大臣に防ぎきれるとは思えねぇ。さりとて避けるにしても攻撃範囲が広くて無理だろう。
どうすることもできなくなった俺は、思わず滞空したまま黙り込むしかなくなる。
(といって、幾ら低燃費とはいえ"MRF"の燃料も有限なら、水没むのも時間の問題だろうがな……)
絵に描いたような"詰み"の状況……だが当然、だからといってチャールズ老が俺に慈悲を見せるなんてことはない。
「……攻めて来る気になれんのならば、こちらから攻かせて貰おうか……
エレクトリック・プリシオソー、フォーカセッド・ライトニング・キャノンボールを特大サイズでくれてやれい!」
≪キゥギギィィーッ!≫
「ジオサーマル・カルカロクレス、ギガ・ラーヴァエナジー光線のチャージを始めい!」
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
「グレア・ディノカリディダ、速射型・殲滅魔眼邪光弾の発射準備だっ!」
≪ヴォァア……グョロゴヴァォォッ!≫
意気揚々とした命令のままに、ゴーレムどもは各々必殺技の予備動作に入り……
「いざ、撃ていッッ!」
≪キゥギギィィーッ!≫
≪ヴグョルラッゲァァァァッ!≫
≪グルヴォォォォォッ!≫
『づおわああああああああっ!?』
ゴーレムども渾身の一斉射撃でもって"謎数多武闘派総理大臣"は爆発炎上、木端微塵……
「ィ良し、勝ったァ……!」
≪ギギギィィィィッ!≫
≪ヴョルラッゲェアアアアッ!≫
≪ヴォッボォ! ヴルォッゴォォォォッ!≫
チャールズ老は勝利を確信。歓声にも似たゴーレムどもの雄叫びは、ジジイの内情を代弁するが如く燃え盛る水面に響き渡るのだった……。
ナガレ、まさかの惨敗!
果たして彼は無事なのか!?




