空中庭園の主、巨老亀チャールズ
三回戦"老ゾウガメ"チャールズ戦はイレギュラー尽くしの開幕!
俺の名前は、北川ナガレ。
「良かろう若造! あくまで我と破壊き合いたくばそうするがいい!
往けい、ヴァイブレイト・ケラトプス! 貴様の荒ぶる剛力を以て、あの死人めを土に還してやるがよい!」
≪クギャアアアアアオオオオオオッ!≫
『へっ、やってみろや鈍間ァーッ!』
色々あって空の上で巨大ロボに乗り込み怪獣と戦う羽目になった、リビングデッドの化け物だ。
果たして何故こうなったのか……上手いこと使えるカメのアスキーアートはなかったが、回想ってテイで説明させて頂こう。
~ 〈◎皿◎〉。о〇(死越者回想中) ~
『これで二連勝……次はゾウガメのジジイだったか』
八本足一角獣セレスティアと首無し騎手フィロミーナの"真・人馬一体ツインズ"を辛くも撃破した俺は、身を隠したまま出てこない最後の相手……巨大ゾウガメのチャールズとの対戦を控えていた。
(今のうちにズラかろうにも、今までのパターンからして逃げ道塞がれるだろうし逃げねえのが正解だろう。仮にジジイを捲けたとして番犬野郎に刈られかねん)
――〔「……逃げずに待つとは律儀なものよ。感心したぞ、リビングデッド」〕――
一先ずその場で待機してると、虚空から奴に話しかけられる。
『ああー……まァ~、そりゃーなァ。あんま出てこねえから一旦逃げて出直そうかとも思ったんだけどさ、今までの感じからしてあんたら俺のこと逃がす気ねーだろ? 威嚇だ撃退だなんだって割に攻撃が殺す気満々だもん。なら待つしかねえじゃんよ』
――〔「堅実な選択であるな、リビングデッド。やはり貴様、ただの死体ではないらしい。なればこそ、我が園へ招くべき傑物であろうて」〕――
『なに、我が園だと?』
――〔「左様。自慢にもならぬが、我が戦法は出力と射程に限れば邸内でも首位に食い込むほど。なれどその絶大な出力故、一割どころか五分ほど使っただけでも屋敷を半壊させかねんのでな」〕――
なんだそりゃ。守るための力で守るべきものを壊すなんざ本末転倒もいいとこじゃねえか。
――〔「故、平素は単なる威嚇等に留めねばならず……天文学的確率乍ら、貴様のような傑物を相手取らねばならんとなれば、その際は問答無用で"相応の場"へ招くと決まっておる」〕――
てなワケで招かれた"相応の場"ってのは……なんとまあ驚くことに、上空約25キロメートルの成層圏――丁度オゾン層の密度が一番高い辺りだ――に設けられた、宙に浮く陸地だったんだ。
しかもその高さで気温は暑くも寒くもなく、地表には植物が生え小動物がうろつく始末だ。恐らく魔術的なもんだろう。
『まるで天空城だな』
「天空島と呼ぶがよい。あちらを参考にしたのでな。ただ、亀の形にはなっておらんが……」
『作り主が亀だから釣り合いは取れてるワケか。いいねえ、悪くねぇぜ。
……さあ、戦ろーか? お互い壊れて殺られるほどに』
「是非も無し。
来るがよいリビングデッドよ、我はマインデッド邸守衛隊最古参、庭園管理総指揮チャールズ。
我が異名"壊蹂壮侵睨亀"の由縁、骨髄の深奥に至るまで教え込んでくれようぞ」
『ほう、言うじゃねえか……!』
俺は思わず身構える。
眼前の老体は俺が今まで見た中でも規格外の巨体を誇る"質量のバケモノ"だ。
そんな相手が、しかも古の怪獣映画みてーな異名を持ってるとなりゃ、そら戦慄の一つや二つして当たり前だし、必然的に距離を取らずにいられねぇ。
「ふむ、距離を取るか……まあ好かろうて。
……さあて、手始めはやはり"お主"であろうよなあ?」
俺の跳躍を気にも留めず、老齢の大亀は"俺以外の誰か"へ語り掛けるように言葉を紡ぐ。
「――億と半億の永眠より目覚めしは原始の嚇怒。
その身に詰まる剛力、戦意のままに荒ぶりて、俗世の愚物どもを瓦礫の波にて消し潰さん。
かの者の名は神罰に焼かれし大国に非ず。その名は願いである。
栄華を極めし三神獣を、超越せよとの悲願である。
その願いを宿し、いざ再臨せよ。
古代剛体王、ヴァイブレイト・ケラトプス」
≪キシャアアアアアアアアオオオオッ!≫
『なんだありゃあ、冗談キツいぜ……』
芝居がかった詠唱(?)に呼ばれる形で地中から姿を現したのは、ただでさえデカいチャールズ老より一回りか二回りほどもデカいトリケラトプス風の化け物だった。
トリケラトプス風と言ったのは、そいつが明らかに現実のトリケラトプスとはかけ離れていたからで……
具体的には全身外骨格風の鱗に覆われてたし、鼻先の角は目の上の角と同じぐらい長ぇ。
あと後頭部の襟巻は老齢個体より更に角張っててどことなく横倒しの三日月風に反り返ってて……
まあ要するに化け物っつーか、所謂"怪獣"っぽい見た目をしてたワケだな。
「さあ来るがよいリビングデッド。このチャールズ逃げも隠れもせぬ故、どこからでもかかってくるがよいわ……!」
≪クギャアアアアアオオオオオオッ!≫
なんて具合に啖呵を切られたワケだが、俺としちゃ反応に困る話だった。
『ンのジジイぃ~、てっきり肉弾戦軸に攻撃魔術でも絡めてくると踏んでたら、まさかの召喚士タイプかよ! しかもてめえもガッツリ前衛で戦うタイプの!』
青くてめんどくせー二号ライダーって聞いたから不破諫か深海兄を想定してたら海東大樹が出たようなもんだ(全員めんどくせーのベクトルが違う? そりゃそうだろ)。
もしくはバスコ・ダ・ジョロキアがラッパ抜きでもアホみてーに強かったとか(いやこれが実際インチキかってレベルで強ぇんだマジで)、あるいはグローザ星系人やデスレ星雲人がレイオニクスやってるって例えでもいい。
『チキショー、あれじゃ並みの装備じゃ歯が立たねぇ。"最強悪魔"を連発できりゃまだ勝ち目はあるが……』
……いやダメだ。小回りが利かねえ。つーか無い物強請りしてもしょうがねえっつー話だよ。
『ったくよぉ~、スケールが違うってんだよなァ~「ワンダと巨象」や「地球防衛軍」じゃねーんだからよぉ』
例えるならまさに"怪獣と人間の差"だし、しかもそれが複数だってんだから始末が悪い。
(宛ら『モンスターハンター』の超大型クラス……蛇王龍とか峯山龍・豪山龍、老山龍って程じゃねーにせよ、骸龍や浮岳龍、覇竜・崩龍ぐれーはあるぞアレ)
『バイオハザード』や『ノーモア・ヒーローズ』、『デビルメイクライ』に『ベヨネッタ』、『ゴッド・オブ・ウォー』なんかにもあのスケールの相手はいたような気がする。
んで、これら六作品の主人公どもはそういった規格外のデカブツどもを大抵己の身一つで撃破しているワケだが……残念乍ら奴らは俺より遥かに有能なエリートや超人どもだ。
(『モンハン』の"狩人ども"は言わずもがな奴ら自身が怪物だ。
洋画のモブ軍人を瞬殺し、DCやマーベルの勇敢不憫苦労人が苦戦し自己満足狂人偽善者共でやっと楽勝の小型鳥竜を刃物の二、三振りで細切れにするからな。
『バイオ』の連中も大概やべぇ。古参のゴリラは言わずもがな、一見非力に見える何故か影薄いベレー帽や元警官の色男他諸々もあれでいて頑丈だ。顔面手抜きパパなんて言うまでもねえ。
『ノーモア・ヒーローズ』のトラヴィスは有識者間じゃ『DMC』の便利屋に匹敵する強豪だそうで、その便利屋やら『ベヨネッタ』の変態子持人妻が毎作ごとに規格外の戦いっぷりを披露してるのは周知の事実。
それで言うと『GOW』の亡霊なんざそのものズバリ神なワケで……)
一方俺はそこそこ頑丈で再生能力がアホほど高いとは言え結局はただの"人並みに賢いゾンビ"でしかねえ。
よって……
("スケール合わせ"が必要だな)
一先ずこっちも向こうの土俵に立たなきゃ話にならねぇってワケで、早速早川さんに連絡を入れる。
そして……
「ほう、不可思議な獲物の使い手とは言え……よもやそんなものまで用意するとは……」
『おうよ。こっちもまさかこんなん使う羽目になると思ってなかったが、何せ同じ土俵に立たなきゃ話にならねぇんでなァ~』
程なく空中庭園に"飛来"したのは、学ラン姿で頭に鉢巻、日本刀を背負ったゴリゴリに厳つい竜人風の巨大ロボ"謎数多武闘派総理大臣"だった。
「他に幾らでもやりようはあったであろうに、あくまで我らに合わせて来るとは……」
『気に入らねえかい? 若しくは「あくまでリアル志向だと思ってたら巨大ロボって何だよ」的なよ……』
「何を申す、気に入らぬ訳が無かろう。寧ろその、敢えて大胆かつ泥臭く、効率や手間を度外視して"大袈裟なほど派手に"在らんとする貴様の姿勢、大いに気に入ったぁ……!」
≪クギャアアアアアオオオオオオッ!≫
『そいつぁどうも、お褒めに預かり光栄だぜ亀御老体ィ~!』
そうして場面は、冒頭に至る……ってワケだ。
「良かろう若造! あくまで我と破壊き合いたくばそうするがいい!
往けい、ヴァイブレイト・ケラトプス! 貴様の荒ぶる剛力を以て、あの死人めを土に還してやるがよい!」
≪クギャアアアアアオオオオオオッ!≫
『へっ、やってみろや鈍間ァーッ!』
さぁて、イッチョ大規模に暴れてやろうか!
次回、次から次へと迫りくる"怪獣的古生物"軍団と巨大ロボを駆るナガレの激闘!




