魔術師の鬣は、黄昏に煌めく……?
ヘキサ・カバルスの第一形態、メーン・メイジが襲い掛かる!
俺の名前は、北川ナガレ。
『よぉどうしたヘキサ・カバルスぅ!? お前らの絆はそんなもんかぁ!?』
「クッソが……」「まだ終わりじゃねぇぞォッ!」
強敵"真・人馬一体ツインズ"改め"六鬣馬人ヘキサ・カバルス"との激闘を存分にエンジョイする、聊か賢めなリビングデッドだ。
『なら来てみやがれヒーローホース! この怪人ゾンビを倒しによぉ!』
〈◎Ⅲ◎〉 VS ∈×^ミ┬┬~
「手加減無しで行くぜぇ!」「消し炭になれェ!」
「「四子式・集束降雷撃!!」」
『ぅおおおっぉとぉ!? 詠唱も無しにデカいの撃ちやがって容赦ねーなオイ!』
時は遡ること暫し。戦う前から迫力満点勢い十分、まさに強敵然とした"ヘキサ・カルバス"との戦い……その初陣を飾ったのは"才に溢れし魔術師の鬣"こと"メーン・メイジ"っつー形態だった。
「なるほど早ぇ……こりゃ苦戦必至だぞセレスティア」
「ああ全くだなフィロミーナ。狙いはよく定めねーとダメらしい……」
「……チキショウ、やっぱ魔術絡みはジッキンゲン使わねえとキツいか?」
「弱気になんな、逆に考えろ。『あのバカに頼んねえでも魔術で戦えるようになれるチャンスだ』ってよぉ~!」
(なるほど訓練不足乍ら装備や当人たちのスペック自体は高ぇか……)
"魔術師"って名前通り魔術の使い手で、大振りでスキはデカいがその分ド派手で破壊力抜群な火炎や電撃なんかをバカスカ撃ってきやがるから油断ならねぇ。
『よぉどうした、それっきりかぁ?』
「あぁん!? なワケねーだろぉ!」「締め潰してやらァ!」
「「長子式・捕縛京蛇幹!!」」
『ぬうお!? 樹の幹っ!?』
雷撃に続けて撃ってきた魔術は地面から触手が如く無数に伸びる樹木の幹……果たして魔術に属性なんてあるのかは知らんが、さっきのが"雷"ならこっちは"土"とか"木"って印象だ。
『でぇい、クソ! しつけーな、このっ! ッシャアアッ!』
植物の早回し映像かってぐれーの勢いで迫り来る幹は一見かなりの脅威。だが所詮植物、プラズマ・ノダチで叩っ斬っちまえば捕らえられる心配はねぇ。
「やっべーぞセレスティア! あいつ長子式の木を切り刻みやがった!」
「落ち着けフィロミーナ! 木が軟弱ならもっと強くすりゃいいだけの話だ!」
「おっ、おお! そうか、アレか! わかったぜ!
――ならこいつでっ!」「目一杯育ちやがれ!」
「「三子式・強壮激烈水!!」」
奴らの発言を聞いた俺は、迫り来る幹を切り伏せながら後の展開を予測する。
(技名から察するに幹の合間を縫って水の弾丸か、束縛用の流水触手ってトコか?)
そう踏んでた俺だったが、予想に反して"奴ら"の手元に発生した水の塊は弾丸や触手に変化するでもなくゆっくり落下。そのまま地面へ染み込む形で姿を消し……次の瞬間、樹木の幹が目に見えて姿を変える。それまでは精々指先程度の太さで樹皮も比較的ツルツルしてたのが、いきなり拳ぐらいの太さになって樹皮も松を更にエゲつなくしたみてーにゴツゴツだ。
『オイオイ、こりゃまさか……』
「ご名答」「さっきの奴ぁ」「「液体肥料の魔術だぜっっ!」」
『技名詐欺甚だしいなチキショーがぁ!』
確かに『目一杯育て』とは言ってたが、それにしたって『強壮激烈水』なんて聞いたら攻撃技のイメージしか沸かねえよめんどくせぇな!
(でぇい、とにかく戦うしかねぇ! 技名詐欺も見抜けなかった俺の落ち度!)
てなワケで迫り来る幹を切り伏せながらどうにか攻撃の機会を伺ってたんだが……
『ズぇりあっっ! どラァ! これで、どう――だわあああああ!?』
予想外の展開に、度肝を抜かれる俺。
なんとプラズマ・ノダチで切り伏せた幹どもが、切り口から二倍になって再生しやがったんだ。
『ウッソだろオイ、ハイドラじゃねぇんだぞ!?』
「いいや、ハイドラだぜぇ!?」
「確かに"捕縛京蛇幹"は単に無数の木の幹を操る魔法だが!」
「"強壮激烈水"でパワーアップしたこの"那由多水蛇幹"は再生能力も備わってんだよぉ!」
『なぁ~るほど、なっ!
にしたってっ!
焼き切られても再生するってのはっ!
反、則だろー、がぁっっ!』
本家ギリシャ神話のハイドラは"首を切り落とすと二倍になって再生する"っつー厄介な特性の持ち主だが、傷口を焼かれると再生できねぇ弱点があり、相対したヘラクレス(の甥っ子)にその弱点を突かれる形で敗北を喫してる。
そして俺のプラズマ・ノダチは刀身内部に満たされたプラズマの高熱でもって対象を焼き切る武器だ。
(つまりあの木が如何に高い再生能力を有してようが焼き切っちまえば同じなハズだが……まあ、植物細胞は細胞全能性の関係上動物細胞より柔軟っつーし、魔術由来の植物なんだから何でもアリか)
とは言えこのままやられっぱなしも癪なんで、いっちょここらで新武器のお披露目会と洒落込ませて頂こう。
(火にすら耐えようが魔術由来だろうが所詮は植物! しかも普通に切断できる程度の強度ってんなら、こいつがお似合いだ!)
幹の猛攻を躱しつつ"ジャケットの背中部分"から取り出したのは、蜂っぽい意匠のあるライフル"明けぬ夜空の郵便蜂"だ。
『チィッ、片手じゃ操作し辛ぇが……食らいやがれっ!』
結構な反動を伴い発射されるのは、麻酔弾風の弾丸。うねる幹の隙間を上手く搔い潜ったそれは、幹の根本部分へ音もなく突き刺さり、決して麻酔薬なんかじゃない"中身"を注入していく。
「なんだぁテメー、鉄砲なんか取り出しやがって!」
「銃弾なんぞがこの"那由多水蛇幹"に効くわけねーだろ!」
とまあ奴らは息巻いていたが……奴らの言動が"青ざめた奴らのそれ"と化すのにそう時間はかからなかった。
というのも……
「な、なんでだっ!?」
「"那由多水蛇幹"がっ……!」
「「ものの見事に枯れてやがるぅ~!?」」
俺が撃った弾丸の"中身"……色々あって世話になってる化学者の澤幡先生が開発した除草剤"O-986"がものの見事に作用してくれたからだ。
("0-986"こと通称"マクハリ"……植物のみに作用する"人畜無害な除草剤"ってコンセプトで開発されたものの、毒性を危惧して封印された"禁断の劇薬"……
何日か前に挨拶へ伺った時、半ば押し付けられる形で受け取っちまったんでとりあえず"郵便蜂"専用の弾丸に詰めたのを幾つか用意してたが……まさかこんな所で役に立つとは思わなんだぜ)
全く世の中何がどうなるんだかわかったもんじゃねぇな。
「チキショー! これなら絶対上手く行くと思ってたのにな゛ん゛で゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!」
「落ち着け! 藤原竜也みてーに泣き喚いてる暇ぁねーぞフィロミーナ!」
「……おう、そうだな! なら次はこいつで行くぜ!」
「死体なら死体らしく火葬されちまえ!」
「末子式・炎翼弾!」「続けて二子式・支燃気塊!」
「「姉弟併合式・灼熱旋風聖火蹴球!!」」
やたら名前の長いその合体技は、フィロミーナの放つ火の鳥をセレスティアが発動したであろう支燃性ガスの塊で強化した代物らしく、何故か炎でできた特大のサッカーボールに姿を変えながら猛スピードで飛来する。
(惜しいなぁ~、順序が逆なら「イナズマイレブン」だかの必殺技ぽくなったろうに)
内心茶化しつつ、俺はプラズマ・ノダチを引っ込め別の武器に持ち替える。
(訓練通り上手く行きゃいいが……)
覚えたばっかの居合の構えを取った俺は、迫り来る炎球目掛けて手にした刀を抜く。
『シィェアッッッ!!!』
振り抜かれた刃は迫り来る炎球を見事両断、効力を失ったらしい攻撃魔術は、そのまま跡形もなく消滅した。
「なっっ、なにいいいいい!?」
「灼熱旋風聖火蹴球をっ、斬って無力化だとおおおお!?」
向こうの反応からして、どうやら魔術を斬るってのはわりかし有り得ねえレベルの真似らしい。
まあ俺も精々"真空を伴う斬撃で炎を切断後、可能ならできた隙間を耐火装備で潜り抜ける"ぐらいにしか考えてなかったから完全消滅したのは確かに驚愕だが……
(さりとてこの好機、利用しねえ手はねえよなぁ~)
慌てながらも更なる魔術の発動を試みるヘキサ・カバルス目掛けて、俺は強欲警官を構え引き金を引く。
『吹っ飛べ』
「なっ!? ば、バズーカ!? やべーぞセレスティア、早く魔術っ!」
「わかってらぁ、ちっと待てやさっきの結構消耗デカかったんだかr」
「「どわっばああああああ!?」」
もたついてた所為で魔術発動は間に合わず、榴弾はヘキサ・カバルスに突撃……無防備な所へ特大のダメージを食らったからか、奴らの変身と合体は強制解除されたのだった。
次回、更なるフォームチェンジを見せるヘキサ・カバルスだったが……




