異次元猫ジッキンゲン、その底力
驚異の18連勤、事実上の19連勤を終えて奇跡の復活。
お前ら待たせたな。
ナガレVSマインデッド邸守衛隊四番勝負編、堂々開幕だ!
俺の名前は、北川ナガレ……色々あって、とある屋敷の守衛を務める化け物どもとの交戦を余儀なくされた、嫌われ者のリビングデッドだ。
「さて、不審者野郎っ。このマインデッド邸へ不法侵入をかましやがったてめえは、これから俺らに徹底迎撃されるワケであるが……」
『ああ、嫌だなあ。想像しただけで気分が悪くなってくるぜ。出会って半日と経ってねえ相手から袋叩きにされるなんてよ、悪夢以外の何だってんだ』
半ば諦めちゃいるが、それでもせめてお気持ち表明だけはしておこうってコトで一応てめえの心中を吐露しておく。
とは言えあのアーネスト、疑わしい相手にゃ出会い頭に背後から草刈り機の刃なんざ投げて殺そうとするようなヤツだ。加えて他の奴らからも『リビングデッドだから』ってだけで徹底して嫌われてるもんだから希望なんてありゃしねえ。
(何とか仲違いか同士討ちに持ち込んでその隙に逃げ出さねえと……)
すず屋で体勢を立て直し、再度店長に相談した上で出直すしかねえだろう。今後は武装マシマシで。
(最悪はお嬢に頼んで同伴して貰うか……)
なんて具合に作戦を練っていたワケだが……然し端から諦めていた俺に対し、アーネストは意外な言葉を投げかけてくる。
「オウ不審者野郎、てめえ何を勘違いしてやがる」
『あぁん? どういうこったよ餡掛炒飯』
「ンの野郎、微妙に古ィネタかましやがって……!
俺らがてめえを囲んで袋叩きにするなどと、いつ言ったんだっつってんだよッ!」
俺のボケが癪に障ったか、アーネストは聊かキレ気味に吠える。
「俺ら誇り高きマインデッド邸守衛隊! たかがリビングデッドの一匹風情を囲んで袋叩きだのと、ンな掌握派や革命派のクソどもみてーな真似ができるかっつーのよ!」
『へぇ、掌握派や革命派はたかがリビングデッド一匹にもビビって大勢嗾けて来んのか。参考になったぜありがとうよ』
「おうともよ! 掌握派の奴らァ性根が腐りきったクズばかりだし、革命派なんぞ頭蓋骨ん中チンコ詰まってんじゃねーかってぐれぇエロしか頭にねえ破綻者の集まりだからなァ!」
頭蓋骨にチンコ詰まってるって想像したらすげー地獄絵図だな。革命派ヤバ過ぎだろ。
「だが適応派の、つーかマインデッド邸守衛隊の俺らは違ぇ……戦うのはあくまで一人ずつ、正々堂々真正面からてめえを消すぜ……! どんな汚ェ戦法使ってでもなァ!」
『汚い手使ってる時点で正々堂々とは言い難いじゃねーか……ま、要人警護者としちゃそれが最適解だろうがね』
察するに"一匹ずつ戦う"ってのは、戦力を分割して息切れを防ぐ意図があるんだろう。
(長期戦に持ち込みつつそれぞれ戦術傾向の違うであろうメンバーを順番にぶつけて堅実に戦いつつ確実に始末しにかかる……サブカル的なカッコつけと思わせて案外合理的な作戦かもしれねェ)
宛ら『冒険王ビィト』の七つ星魔人か、さもなきゃ『ウルトラマンメビウス』の暗黒四天王ってトコか。どっちもさほど詳しくねえが……。
「てェ~ワケで不審者野郎、最後の慈悲だ。好みの死に方を選ぶがいいぜ。具体的には戦う順番を選ばせてやるぜ」
『嫌な慈悲だなあ……つーかお前らのこと何も知らないのに選べとか言われても困るんだけど』
「なら手始めに各メンバーの自己紹介タイムでも設けるか?」
『いらねーよ。なんだよ各メンバーの自己紹介タイムって。アイドルグループみてーな言い方してんじゃねーよ気持ち悪いなァ。だれがどの順番で戦うとかそっちで決めちまってくれよ』
「そうか。そんならこっちで勝手に決めるか。
てワケでオメェら、ここは俺が出て一瞬でカタつけてくる。問題ねぇな?」
『ははは、言うじゃねえか。大した自信だな……』
一歩前へ出たアーネストの台詞は一見単なる傲慢野郎のカッコつけだったが、表情と声色からは守衛頭としての責任感と仲間に苦労をさせまいと身体を張る自己犠牲精神が見て取れる。
さて、そうなると他の奴らの反応は……
「いや問題大ありだろボケ」
当然、こうなる。然し"首無し騎手"の返答はアーネストにとっちゃ予想外だったようで……
「……なんだフィロミーナ、文句があんのか?」
「おう。あるぜ文句。何なら文句しかねえよ」
「リーダーよぉ、てめー何一人でカッコつけよーとしてやがるんだぁ?」
「我ら守衛隊の切り札にして邸内でも五指に入る猛者の肩書に酔って大劇団の花形役者気取りか。若造風情が片腹痛いわのぅ……」
「切り札の主な仕事は大物ぶって敵を威圧し心を折ることニャ。少々他より賢いだけのコスプレ好きなリビングデッド如き、吾輩らに任せておけばよいのニャ」
「……」
皮肉交じりな嫌味の数々に、アーネストは辟易した様子でクソでかい溜息をついて一言……
「しょーがねぇなぁ、このバカタレどもが。
やるなら精一杯、徹底的にやってこい。俺は面倒見ねえからな……」
雑に吐き捨てたまま、振り向きもせず闇夜に消えていった。
(へぇぇぇ……見せつけてくれやがってよぉ……)
いっそハラ立つほどに王道で正統派な少年漫画的友情ムーヴメント……これじゃどっちが主人公側なんだかわかりゃしねぇ。
(ま、何が起ころうと俺は俺……やるべきことをやるだけだ)
さて、そうなると初戦の相手は誰になるかが問題だが……
「さて、順番を決めねばならんニャ」
「"アタシ"らは二人で一つだから」「実質一人扱いで、最大三回勝負か」
「あのリビングデッド、恐らく只者ではあるまい……最小限の被害で効率的に仕留めねばならん以上、戦う順番は慎重に決めねばならん。
ということで一番手は我が頂く。こと破壊力、取り分けあの手合いによく効く大規模な"面"攻撃となれば我を置いて右に出る者はない」
てな感じでゾウガメのチャールズ老が立候補したわけだが……
「ジジィよぉ~抜け駆けはよくねーんじゃねーかぁ?」
「ジイさん、確かにあんたは攻撃の規模と単純な火力だけなら邸内最強だ。だがあんたの技はどれも燃費が最悪で短期決戦特価じゃねーか」
「俺らの見立てじゃあのヤローは見るからに素早え。面での攻撃だって回避不能じゃねーんだ、避けまくられて持久戦に持ち込まれたらどうしようもねーだろ」
「よって一番手はこのアタシ、セレスティアと」「この俺フィロミーナの"真・人馬一体ツインズ"こそ相応しいってモンだぜ」
すかさずそこに"八本足の一角獣"セレスティアと"ビキニアーマーの首無し女騎手"フィロミーナの"真・人馬一体ツインズ"がこれに対抗。
「貴様ら! 吾輩を差し置いて一番争いとは十世紀早いのニャ! ここは守衛隊随一の奇才たるこの"異次元猫"ジッキンゲンに全てを委ねるべきなのニャ! 吾輩の魔術をもってすればあのようなリビングデッド如き一撃で仕留められるのニャ!」
すると当然、性別不詳のアホ猫ジッキンゲンも割って入らずにはいられない。
化け物四匹の言い争いは俺そっちのけでヒートアップしていったが……
「我だ。我にやらせい」
「俺らだ!」「アタシらこそ適任だ!」
「何度も言わすでニャい、吾輩こそ至高であるぞニャ!」
「「「だったらまあ、どうぞどうぞ」」」
「フフン、勝ったニャ……!」
伝説のトリオ芸人よろしく、初戦の相手はジッキンゲンに決定した。
(本家の展開を思うとフラグにしか見えねえが……まあ油断は禁物だわな)
さて、そんじゃまずは第一回戦行ってみよう。
▽(=ω=)▽
「リビングデッドよ、名乗ってやろう! 我輩こそはジッキンゲン! マインデッド邸守衛隊が参謀"異次元猫"のジッキンゲン! それこそ貴様に二度目の死を与える者の名ニャァッ!」
ジッキンゲンは声高に名乗るが、如何せんビジュアルはわりかしただの雑種猫なもんで迫力の一つもありゃしねぇ。
(つーかこいつが参謀とか何の冗談だよ。マインデッド邸守衛隊ってなぁ五人組のお笑いグループかぁ?)
などと独白で毒づく俺だったが、といって猫の癖して二足歩行で人語を喋る時点でヤバい相手なのは確実だ。下手に刺激しねぇよう、幾らか気を配る。
『そうかい。そりゃありがてえ。なら三度目の死はあのスレイプニルとデュラハンに、四度目はゾウガメの爺さんにでも頂くとしよう』
「我輩の本領を知って尚、軽口を叩いておる余裕があればよいがニャぁ……」
やけにムカつく――超能力者のガキか、さもなきゃそれこそチェシャ猫みてーな――薄気味悪い笑みを浮かべるジッキンゲン……奴の足下に妖しく明滅する橙色した光の線みてーなのが走り、何かの図形を描いていく。
やがてそれは文字列と図形を円で囲ったような……所謂"魔方陣"の形になる。要するに恐らく、奴も魔術の使い手なんだろう。
(魔術つったら『オーバーラブ&バインド』のクソ女とかが使ってたっけなァ……)
魔術ってだけにその効果は色々あるが『発動には特殊な技能や道具がいる』『魔力やそれに代わるエネルギーを消費する』『威力が高いほど発動までに時間がかかる』『強力なヤツは詠唱がいる』とかそういう共通点が見受けられる代物だ。
ヤツの使う魔術がどんな代物であるにせよ、守衛隊の参謀などと呼ばれるぐらいだから相当な実力者には違いねえワケで……
「リビングデッドよ、せめてもの慈悲として貴様は我が最大の切り札でもって始末してやるのニャ!」
(なに? 最大の切り札だあ? 畜生め、いきなり厄介なもん使いやがって……!)
避けなきゃやべぇと直感した俺は、咄嗟に真上へ跳躍する。これで発動までの隙は稼げた……と思ったが、どうにも俺は認識が甘かった。
「吾輩を魔術師と見抜いての距離を取る選択をしたその判断は褒めて遣わすニャ!
然しその認識はあまりにも甘いのニャ! どのくらい甘いかと言えば『ノーモア★ヒーローズ3』の難易度SWEETぐらいの甘さニャ!」
(あれ途中で一気に難易度上がるから実質他より鬼畜じゃね……?)
なんてごく一部にしか伝わらなさそうな比喩と共に、ジッキンゲンは魔術を発動……奴の掌(?)から放たれた黒い球体は高速回転・肥大化しながら俺目掛けて急接近……
『やべえなんだこれ、回避しきれねぇっ!?』
「喰らうがよいニャ! 我が最終必殺大魔術! 『暗黒異次元毛糸玉』ァ!」
『いや、名前ダッセぇなオイ!? それが最終奥義に付ける名前かy――
迫りくる漆黒の"毛糸玉"に飲み込まれ……
『 ―― ―― 』
……この世から完全に、消滅しちまったんだ。
「どうニャ、見たかニャ! これが吾輩の、異次元猫ジッキンゲンの底力ニャあっ!」
ナガレ、まさかの消滅!?
アホの癖してやたらと強いジッキンゲンにどう立ち向かうかとかそれ以前の問題だぞこれ!?




