接触、門番五匹
"陽炎一族"について知っているらしいフィオーナの知り合いの下僕たち(なっげぇ……)が続々登場。
果たして奴らの正体とは!?
俺の名前は北川ナガレ……
「何かしらの方法を以て"見極めて"やればよいのニャ!」
(堂々と言うほどのことじゃねーだろ……)
性別不詳な短毛猫ジッキンゲンの世迷言に内心呆れ返るゾンビ刈りの化け物だ。
そもそも俺は今現在、フィオーナ店長からの情報を頼りに彼女の"知り合い"の屋敷を訪れていた。
理由は単純明快、その知り合いとやらが俺の探している"陽炎一族"との接点を持っているからなわけであって……
当初の想定としちゃ今頃ぐらいにはどうにか目的を果たし、陽炎一族に少しでも近付けてるハズだったんだが、門をくぐり玄関へ向かおうって道中で屋敷の関係者――屋敷の主の下僕を自称する執事姿の狼男"アーネスト"――に足止めを食らっちまった。
当然、平和主義者の俺としちゃ無用な争いは避けてえのが本心なので交渉を試みる。結果、どうにか誤解は解けたものの相手には未だ疑われっぱなし。
こりゃどうすっかなと悩み始めたところで、ヤツの同僚らしき短毛猫の口から出たのが冒頭の名言ならぬ"迷言"ってワケだ。
(どこんでもよくいるよなぁ、そういう風に思考放棄してカッコつけてる勘違い系のバカはよ。
ただ否定的な意見を並べるだけで代案を出さず、具体的な代案を出せと言われりゃ『そんなもん自分で考えろ』『それが分からないからお前は無能なんだ』とか抜かす奴。
時と場合にもよりけりで一概に断言はできねーが……過半数前後は相手の自主性を尊重して成長を促してーとか考えてなくて、ただ楽して相手より大物・強者ぶってマウント取りてぇだけなんだろうぜ)
しかもプライドや欲求ばっかご立派で努力する気がねーもんだからまるで成長せず、勘違いしたまま気付けば戻れねートコまで追い詰められちまってたりするんだ。
あいつは猫だが……そういや飼い猫、特に"よくできた金持ちに飼われてる血統書付きの高級品種"なんぞは大抵、身勝手で傲慢な"猫だから許されてるレベルの外道"になりがちだとどっかで聞いたっけな。
(とは言えあのジッキンゲンとやら、アーネストの同僚っつーからにはフィオーナ店長の知り合いの部下なワケで、とするとあれで案外有能って可能性も捨てきれねえ)
主君が店長と親しくてかつ適応派なら、見た目可愛いだけのお飾り無能マスコットに要職を任せはしねえハズだ。
そう思っていたのだが……
「ほーう。なら"何かしらの方法"って何だコラ、具体的に言ってみやがれ」
「具体的に?そうさニャ……"何かしらの方法"とは、即ち"無数の選択肢の中から選び取った最適解"というコトだニャ!」
「説明になってねぇよバァカ!」
「ギニャッ!?」
真顔で堂々と小泉進次郎構文をぶちかますジッキンゲン、その脳天に棒状の何かが振り下ろされる。
(……角?)
暗がりでよく見えなかったが、何となくそんな気がした。
んで実際俺の予想は当たっていて、程なく物陰からジッキンゲンをぶん殴った角の持ち主が姿を現した。
「ジッキンゲン、てめーよォ~バカのクセして大物ぶろうと背伸びしてもダセーだけだっていい加減理解しろよこのボケがぁぁ~」
「ミギャッ!? ギッ、ギニャアアアアアッ!?」
頭を押さえながら悶絶するジッキンゲンを踏みつける、蹄の生えた足……その持ち主は、眉間から細長い一本角を生やした白い雌馬――ガラの悪い男子学生みてぇな喋りだが、声そのものは完全に女――だった。
(人狼に化け猫と来て次は一角獣か……いよいよファンタジーめいて来やがったな)
しかもその上、一角獣には更に異様な点があった。背に騎手を跨がらせ、しかもその脚は普通の馬より多く八本もあったんだ。
加えて背中の騎手ってのも大概妙なヤツだった。顔そのものは純白ロン毛&ぱっつんヘアの中性的な美人でスタイルもモデルかグラドル並みなんだが、赤いビキニアーマー姿の上、なんと首から上が無くてめえの頭を小脇に抱えてやがる。
(スレイプニル仕立ての一角獣に跨がるデュハランとは……些か属性過多気味なデザインだぜ)
まあ俺もヤツのことをあれこれ言える立場じゃないがね……なんて自嘲しつつ、どうにか逃げ出せないかとタイミングを伺ってはみるものの、奴ら一切隙がないんでどうにもなりゃしねぇ。
(といって逃げねーでいると確実にこいつらに襲われる……どんな武器や能力を持ってんだか知らんが、屍人より賢い奴が四体同時とかいよいよ地獄じゃねえか)
軽く絶望的な状況に内心頭を抱える俺だったが……
「――……グンヌゥゥゥゥ……――騒がしいのう、静かにせんかい……」
等間隔で響く微かな地鳴りを伴って聞こえた"五匹目の声"は、俺の絶望を加速させる……。
「よぉチャールズ老、こんな時間に珍しいな」
「水木のジッちゃんリスペクトで毎日最低十時間睡眠が大原則だろ~?」
「こんな時間に起きてていいのかよジジィ~」
「ヌゥゥゥ……――善いわけがなかろう。」
ゆっくりのっそりと姿を現した"五匹目"……チャールズ"老"って呼び名や声、喋りからしてかなりの高齢と思しきそいつは、規格外の巨体を誇るゾウガメだった。
"適当な公園に横たわらせて足場でも増設すりゃ結構な遊具になるレベル"とでも言えば伝わるだろうか……ともかくデカいったらねえ。
「そこの馬ァ鹿めが騒がねば今も快眠できておったのにから……」
「わ、吾輩の所為と申すニャ!? 言いがかりも大概にしろニャギギギギギギギッ!?」
チャールズ老に反論するジッキンゲンの背中を、八本足の一角獣がぐりっ、と踏みつける。下手すっと背骨や内臓が潰れそうだが大丈夫なんだろうか……まあ、そういう扱いを受けるような立場ってことだろう。
「見事だセレスティア……ちょうどこの馬鹿めを黙らせてやりたいと思うとった所でのお……」
「だろ~? "アタシ"ってば近頃は特に冴えてっからさァ~」
「ほーんと冴えてるよなァ~。流石"俺"だぜっ」
ジッキンゲンを踏みつける八本足の一角獣"セレスティア"をチャールズ老に続き誉めそやすのは、ヤツの背にまたがるビキニアーマー姿の首なし女騎手……やけに声が似てる上、二人称がおかしかった気がするが、まあ今は些事だろう。
「してアーネスト、この状況は一体どういうことかのう。説明してくれんかい?」
「おうよ、言われるまでもねえ。……見ろ爺さん、不審者だ。なんかマスターに用があるとか抜かしてやがる」
『失礼だなあ、なんて雑な紹介だ。確かに俺は見た感じ不審かもしれねーが、君らや君らのマスター様に悪さをしようなんてこれっぽっちも思っちゃいねーんだぜ?』
臆した態度を見せたら付け込まれる……余裕っぽく見せつつも平和的に返すのが最適解と判断した俺は、あくまで誠意を持ってゾウガメのチャールズ老に語り掛ける。さてどうなるか……
「ほう、確かに確かに……これは不審者ではないか。それも、守衛たる者として紛れもなく迎撃せねばならん類のなあ……」
ウッソだろオイ、なんでそっからそういう話になるんだよ。
「だよな? 爺さんならそう言ってくれると思ってたぜ」
「当然よ。侵入者を前に戦う意思を見せずして何がマインデッド邸守衛隊か……まして人間並みの知能を持ち饒舌に言葉まで話す"返り血塗れのリビングデッド"なんぞが相手ともなれば、戦わぬ理由など見付かるまい」
「うっわ、マジかよ。リビングデッド? こいつが? いや見えねーって! 確かにヤベー奴感はあったけどリビングデッドってオメー!」
「ホンっト、信じらんねーな……確かにまともなイキモノって感じじゃなかったが、まさかリビングデッドとはよぉ~。
オイ、起きろジッキンゲン。いつまでもノビてねーでてめーも戦え。よりにもよって相手がリビングデッドだぞ」
「ギニャッ!? 貴様セレスティア、殴った挙げ句踏みつけておいてなんたる言い草ニャ……!
然しそれはそれとしてそこの不審者! 貴様リビングデッドだったのニャ!? どうりで喉に毛玉の残りカスが引っ掛かった状態で胃酸が喉へ逆流してきた時のよーニャ感覚を覚えるハズだったのニャ!」
かくして臨戦態勢の守衛ども五匹が揃って俺に敵意を向けてくるワケだが……それより何より驚くべきは俺に対する奴らの暴言だろう。なんだ、リビングデッドってそんな嫌われてんのか? 幾ら何でも嫌われ過ぎじゃねぇ?
(なんかちょっとショックだなぁ)
寧ろショックとか通り越してキレそうまである。
『なんだよ、随分言ってくれるじゃねーか。こちとらマスター様のお知り合い様にアポ取ってもらってまでここに来たってのによぉ……
ホントさぁ、怪しくねーんだって。ただこの館におられるお方、まあ要は君らのマスター様からちょっとした情報を頂ければと思ってるだけでさぁ~』
全く理不尽ったらねえ。どうしてこうなった。
正直怒りに任せて暴れたい衝動を抑え、あくまで余裕の態度で対応する俺だったが……
「ガルルルルルルル……怪しいヤローだ、テメーみてえな奴をマスターに会わすわけにはいかねーな!」
結局この始末。聞く耳持たずとはまさにこのことだろう。
『血の気が多いなァ~。ご主人様想いで忠誠心持て余してるのは結構だがよぉ、そんな血の気ばっか多いとモテねーぞぉ?』
「ほっとけ不審者ァ! おう皆ァ、このヤロー俺らを完全にナメてやがるぜ!
一丁地獄見せてやろうじゃねえか!」
「ニャッニャッニャ! 社会の厳しさってのを教育してやるニャー!」
「「ウマいこと逃れようったって、そうはいかねぇからなぁ!?」」
「我らに挑んだことを後悔させてやろう……!」
かくして俺は、屋敷の敷地内で妙な五匹を相手に大立ち回りを演じる羽目になる。
(いやほんと勘弁してくれや……)
次回、令和式小泉進次郎構文の使い手(?)こと"異次元猫ジッキンゲン"とナガレが対決!
一見ニャーニャー喧しいだけの単なるギャグキャラにしか見えない奴の実態とは!?




