死越者の素顔、巨美人の正体
お待たせ。なんか予定よりかなり長引いてしまったけど更新だよ。
『満妄児』のフィオーナ店長とナガレがいよいよ接触。長話の末に明かされる店長の正体とは!?
宣伝手伝ってくれてる相方のツイッターもよろしくね。
たまに作品の補足説明とかもやって貰ってるよ。
→https://twitter.com/69440_Uwabami
俺の名前は、北川ナガレ……
「初めまして♥ 『満妄児』店長のフィオーナと申しますわ♥」
『お初にお目に掛かります、フィオーナ店長。
泥得サイトウ地区にて自警団に所属しております、北川ナガレと申します』
美女ばかり揃う夜の店『満妄児』の謎めいたトップ"巨美人"フィオーナ女史と対面する、ドヤ街暮らしの自警団員だ。
「うふふふふ……♥ そう身構えないで下さいな、北川様♥
『満妄児』は癒しと安らぎに満ちた言わば"地上の悦びの島"……♥
どうぞお掛けになって? 誠心誠意お持て成しさせて頂きますわ♥」
『へへへ。そりゃあどうも。
然し"喜びの島"と言やあ空に浮かんでるモンですが、確かにあの二人は天にも昇る心地って顔してましたわなァ』
店内の内装とは打って変わって、派手さを控えた上品で高貴な印象のある店長室――部屋の主に合わせたからだろう、天井は高く家具も大振りだった――……その中央で優雅に腰掛け俺を出迎える、フィオーナ店長。
彼女に促されるまま、俺は彼女と向かい合うように適当な椅子へ腰掛ける。無難なデザインだが、座り心地と質感から相当な高級品なのは間違いない。
(然しでけェな……)
店長と間近に対面し、その体躯がまさに規格外だと理解する。
当然蚕豆コンビから話には聞いていたが……最早人間じゃ原則有り得ないレベルの巨体だ。
(中国の鮑喜順、トルコのスルタン・キョセン、ウクライナのレオニード・スタドニク、合衆国のロバート・ワドロー、そして言わずと知れた旧約聖書のペリシテ人兵士ゴリアテ……)
歴史に名を残す巨人たちの名前と逸話が頭を過ぎり、彼女は果たして何故ここまでの巨体を得るに至ったのかと疑問を抱きそうになる。
(健康に生きてる以上、脳下垂体腫瘍じゃねェだろう。
とすると脳性か脳下垂体性の巨人症、もしくは遺伝子的なモンか……)
だがフィオーナ店長を規格外たらしめる要素は、何もその体躯だけじゃない。
彼女はただ規格外に図体がでかいばかりでなく、余りにも妖艶で美しすぎる……絶世の美女と呼ぶに相応しい美貌の持ち主だったんだ。
(スーツ姿で椅子に腰掛けてっから全容はわからねーが……顔立ち、体型共にかなりのモンだ)
厚手のスーツ越しにもはっきりと分かる抜群のスタイル。
胸囲はカップにしてGやHを通り越し、KだのLだのって次元だろうさ。
(従業員どもにも負けてねェどころか、何なら勝ってるまでありやがる……)
この世のものとは思えぬ規格外の巨体に、同じくこの世のものとは思えぬ規格外の美貌……並みの俗物男なら正気が溶けて理性が蒸発するほど魅了され、全身215本の硬骨を痛みもなくするりと抜かれ自立不能に陥るぐれーには"骨抜き"にされたっておかしくはねえ。
それで尚俺が"魅了されず正気を保ててる"のは恐らく、
彼女が"その気じゃねえから"ってのが三割、
俺が死越者っていう"まともな生物じゃねえから"(≒心が半分死んでて性欲が無性愛ばりに枯れてる)ってのが五割五分、
そして俺が"実質マナミに操立ててるから"ってのが一割、
更には俺が内心"彼女を信用してないから"ってのが五分ぐらいだろう。
(……まあいいや。逆に考えりゃ、色仕掛けに引っ掛からねえってことだ。それは間違いなくメリットだろう)
いよいよ自分が後戻りできねぇレベルで化け物になりつつある事実をポジティブに解釈しつつ、俺は改めて店長に話を振る。
『では、フィオーナ店長……』
「はぁい♥ なんでしょう、北川様っ♥」
『非礼を承知で申し上げますが
……貴女ァ、一体全体何者なんです?』
俺の問い掛けを受けた店長の表情が、微かに変わった。
ありゃあ『この薄気味悪い狸面、まさか誰にもバレようのない私のあの秘密を見抜いたとでも言うのか?』って面だ。
並みの人間じゃ見逃す程度の僅かな変化だが……生憎と化け物なんでそんなのは意識してなくても目に入っちまうんだ。
(さァ~て、どう答えるか……)
俺は身構えて返答を待つ。
すると……
「……質問を質問で返すようで恐縮ですけれど、
他者の素性を訪ねる時は、まずご自身から明かすのが"この世界の礼儀作法"ではありませんこと?」
まさかの返答だった(つか声のトーンがガチだ、冗談とかじゃねえぞコレ)。
然し素性って何だよ話飛躍してねぇ? "この世界"って"どの世界"だよ? と細部が気になりはしたが……ここは口裏を合わせる他あるめえ。
『こいつぁ失敬。何分"こちら側"に入ってまだ日が浅い上、自分以外の同類と出会った経験もないもんで……ご無礼をお許し下せえ』
「あらまあ、そうでしたの。それは御免なさいね、こちらも配慮が足りませんでしたわ。
……それで、北川様? 貴方様は一体"何"ですの?
まさか全身からそんな気配を漂わせておいて『自分はただの人間です』なんて言い張るつもりではないのでしょう?」
『確かに俺ァ今やただの人間じゃありませんが……俺の気配ってなァ、そんなにも妙ですかね。
故意に消せこそすれ無意識に放っちまうもんだから、どうにも自覚がないんですがね……』
「ええ、それはもう。失礼ですけれど、異様で異質な……"美味しいけれど毒がある"ような、そんな気配ですわねぇ」
『美味いが毒、ねえ。トラフグとかですか?』
「御冗談を。そんな生ぬるいものではなくってよ。
北川様……貴方の"旨味"と"毒気"は、ふぐのように簡単に分けられるものではありませんの。
もっと根本から混じり合って、継ぎ目や境目のない一つの形を成したような……
具体的なものに例えるなら"ドクウツギの果実"ですわね」
『そんなに危険ですかい』
トラフグを"生ぬるく簡単"と評した当たりで察しちゃいたが、それでもドクウツギとは驚いた。
"毒空木"
日本鞣革の学名を持ち、"ドクウツギ科ドクウツギ属"なんてそのまんまな分類群に属する日本固有種の落葉低木だ。
トリカブトやドクゼリに並ぶ"日本三大有毒植物"の一角で、強力な神経毒を果実のみならず樹木全体に有する特徴がある。
樹木全体が猛毒塗れって所はかの"マンチニール"を想起させるが、ドクウツギ最大の特徴は"木本黄精葉鉤吻"とかいうよくわからん上にアホほど長い漢字表記……よりも、有毒植物の果実にあるまじき異様な甘味だろう(普通有毒植物は"食われない"ために進化している関係上大抵食ってもマズい……ハズだ。何なら苦味は毒の味だしな)。
この矛盾した特徴が災いして、嘗てはものを知らんバカがドクウツギの実を食って死んだとか、別の木の実と勘違いして果実酒作って飲んだ不運な酒飲みが死んだとか、そのせいで危険視されて刈られまくった結果絶滅しかかってるとか、そういう洒落にならん逸話が付き纏う植物でもある。
そんなドクウツギに例えられるとなると、俺はどうやらガチめにヤバいもんになりつつあるらしい。
(まるで自覚もねえんだがな……)
内心驚く俺を尻目に、フィオーナ店長は相変わらずのガチなトーンで言葉を紡ぐ。
「ええ。危険も危険ですわ。重ね重ね失礼ですけれど、本当ならお店の敷居を跨ぐのもご遠慮願いたい程には……」
『ぅへえ、悲しいこと仰いますなァ~。店長ほどの別嬪さんからそこまで徹底して嫌われちまうとは……若干ばかりショックかもしれんと言わざるを得ませんぜ』
「ああ、勘違いなさらないで? 好き嫌いの話ではありませんわ。むしろ、私個人としては北川様もまた魅力あふれる殿方とは思っておりますの。
ただその"好き"は決して"愛"や"欲情"ではなく、"友好"か"興味深い"の意味合いですけれど」
『ひエー、えっぐいなァ~、店長ったら。
もし俺が貴女を口説きにかかってるナンパ野郎だったら、腹ァ切って死んでもおかしくねェ……』
「ンフフ♪ その程度じゃ死なない方が言うと、本当にただの戯言にしか聞こえませんわね」
『……そこまで断言なさるって事ァ、聞き出すまでもなく俺の素性を大体はお察しってコトですネ?』
「いいえ、それがどうにも見当さえつきませんの。だから教えて下さるかしら。
……北川ナガレ様、貴方は一体"ナニモノ"ですの?」
問い掛け序でに、店長は無駄に色っぽい仕草で迫ってくる。
恐らく"まともな男"ならイチコロ……茹でたエビみてえに熱くなってヒン曲がるか、それさえできずに前をネバつかせ、イカやタコの臓物が腐ったみてーな悪臭を漂わすかってトコだろうが、
生憎と人間やめちまって性欲がほぼ死んでる俺はただ"綺麗だ"としか思わねえし思えねえ。
……まあいいや。素直に答えるとしようか。
『まァ~、これ以上勿体ぶる必要もありゃしませんわな』
ジャケットのフードを脱いだ俺は……
『ええ、お答えしましょうとも』
素顔を隠し、頭を守る防具と化した狸面に手をかけ……外す。
『俺は不死者……生ける屍……
"死を越えし者"と書いて"死越者"と名乗ってまして。
……まあ要するに、
少し賢めでそこそこ頑丈な、単なる"ゾンビの化け物"ですワ』
曝け出された素顔……相変わらずヒデェもんだ。
(鏡なんていらねェ……感覚でわかるんだ……)
青黒くハリやツヤなんてない皮膚、
肉が削げ落ちてできた傷口を隠すためのガーゼや包帯、
どういうわけか青白く光る球体と化して一回りほど肥大化した両眼、
孔だけになり外見上はほぼ消滅したに等しい耳と鼻、
なんでか色素が抜け落ち不規則に伸びて鬣が如くボサボサになっちまった白髪、
口裂け女よろしく牙だらけの大口、
……どこをとっても人外の化け物としか言いようがねえ見た目だ。
ゾンビってのも説明されなきゃわかんねーだろう。
(つーか、一目見たらビビって逃げ出すか、さもなきゃ撃たれたって文句は言えねえな)
内心自嘲せずにいられないほど、俺の顔は醜く恐ろしげだ。死越者って正体共々、大っぴらにできるモンじゃ断じてねえ。
よって、最早第二の地元ぐらいに思ってる泥得サイトウ地区ん中でも俺の素顔と正体を知るのは限られたごく一つまみの面々だけ。
(いつぞや型に嵌めた格闘家気取りのバカ女学生どもの前で狸面取ってやった時はヤバかったなあ。
『自分たちが男相手に負けるわけない』だとかとイキり散らかしてた癖に、俺の顔見ただけでほぼ全員半狂乱で戦意喪失しやがってよォ。
オマケにリーダー格の相澤だかいうクズがてんで傑作だったぜ……笑いすぎて腹から内臓飛び出るかと思っちまったもんなァ~)
カタギを恐怖で再起不能にし、本職さえも威嚇・牽制できる俺の素顔……
裏を返せばそんだけおっかなくて不細工ってことだが、そんな俺を見た店長の反応はと言えば……
「あらあら、随分と野性的で個性的な素顔ですのね。
異質な存在でなかったら、此方から"ご指名"させて頂きたいくらいですわぁ♪」
『……』
この通り、平然と言ってのけやがるんだ。
お陰で軽くパニクっちまって言葉に詰まったよな。
『……冗談、てえワケじゃなさそうですね』
「それはもう。立場が立場ですし、こんな冗談口が裂けても言えませんもの。
然し驚きですわね、まさか貴方が"生ける屍"とは……
本能的に受け付けない異質な気配を放っているわけですわ。
まさか根本的に相容れない存在だなんて……」
『と言いますと店長、貴女の素性は一体……』
「単刀直入に申し上げますと、私めは淫魔ですの」
『ホウ、淫魔……どうりで非の打ちどころのねえ美貌をお持ちなワケだ……』
フィオーナ店長がサキュバスだったって聞いてもそんな驚いてない読者のが圧倒的に多そう。
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