"たいらのおおつちぐも"
サブタイトルは「こいつに標準和名をつけるとしたら?」の回答例……
俺の名前は北川ナガレ。
延々続く戦いに終止符を打つべく頼れる相方と奮起する、ゾンビを刈るゾンビの化け物だ。
『よっしゃ、行こうぜお嬢ッ!』
「ええ行きましょう北川様。ヤツめは最早臨戦態勢、寸刻の猶予さえありませんわッ!」
『rrrrrrRRRRRRRRRRIIIIIIIiiiiiii……――!』
へし折られ引き千切られて僅か二本になった歩脚で尚も直立する大蜘蛛は、そのまま極太光線の発射態勢に入る。
ヤツの光線は迸るエネルギーを球状に収束させ圧縮、形成された十柱戯玉大の光球を砲口に放つもので、俺たちが見た限りではヤツが有する唯一の遠距離技かつ、最大級の破壊力を誇る攻撃手段と言っていい。
『――……iiiiiiiiiii……――!』
「さあ北川様、お乗りなさい! 光線発射まで時間がありませんわ!」
『おうよぉ~……っと、乗ったぜお嬢! さあ投げてくれっ!』
「わかりましたわ! では行きますわよっ……セイッッッ!」
『ダァッ!』
ヨランテの腰から伸びる二本のロボアーム、救世七星と地獄学級名誉担任の投げに渾身の跳躍を挟む形で、俺は空高く跳び上がる。
『――……』
高度何十メートルかの、少なくとも山のどんな木より高い空の上での、束の間の無重力状態……トラックに跳ね飛ばされた多芸な歌手よろしく逆さになって浮いてみりゃあ、運良く身体が東を向いてたんで日が昇りかけた夜明け空を眺めることができた。
『――……いい眺めじゃねえか……――』
思わず言葉に出てしまうほど、感動的な絶景だった。夜明けの空なら何度も見たが、生身じゃ到達できねぇ高度で、かつ上下逆さってなるとそう経験できるもんじゃねーからな。多分二度とできねぇ体験だろう。
……ってな感じで感傷に浸るのもそこそこに、俺は無影黄昏と鏖麗茨姫を起動……全自動で変形した二つの試作品は、瞬く間に俺の身体へ装着される。
『――……二十五秒経過。そろそろ落下り時か……』
徐々に重力が戻りつつあるのを察知した俺は、すぐさま攻撃態勢に入る。
[Activate Sleeping Beauty's posture control system.
Target acquisition complete.
it's right under you.
Continue the free fall while maintaining the slashing stance.]
(和訳:鏖麗茨姫の姿勢制御システムを起動。
標的捕捉完了。
真下に居ます。
斬撃姿勢を維持したまま自由落下を続けてください。)
『了解した』
無影黄昏の指示通り、プラズマ・ノダチを構えた俺は、鏖麗茨姫の要求と重力に身を任せる。
――『PLLLLLLLLLLLLLllllllllllllllllll!!!!』――
――「負けるものですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」――
ヨランテと光線の撃ち合いを繰り広げ互角に渡り合う大蜘蛛……
(歩脚を構成する屍人どもの"目玉"で全方位を見張れるだけに地上からじゃ死角なんざねぇだろうが、顔面が横向きばっかなんだから流石に真上は見えねえよなァ~)
つーか、目の前のヨランテを相手にするので精一杯なんだろう。
だがお陰で、透き通った丸っこい、如何にも柔らかそうな中枢部は無防備だ……
(トドメ刺すには丁度いい……)
ここまで来た以上、一先ずやるしかねえだろう。
[Now. Slash.]
(和訳:今です。斬撃を。)
『――ッシャあッッ!』
地上数メートル。
無影黄昏の指示通り、獲物を振り抜く。
『――rriPP!!??』
熱帯びて光る刀身は透き通る球状の中枢を叩き斬る。
『Ri――pp――le――?』
真っ二つに両断された中枢部から、中身が抜けていく。
『.....e e . . . . . . 』
内部に満たされていた透明な"液体"が、裂けたゴミ袋から流れ出る廃油よろしく流れ出し……
『 r , i . . .p...?』
青い球体を三つ繋げたような"内臓モドキ"が、生の卵黄か魚の浮袋みてーに"でろり"とこぼれ落ち……
『 l e 』
「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
中身を失った"中枢部の抜け殻"は、当然光線なんて撃てるハズもなく、ヨランテの仙亀頭蓋によって消し炭にされ、本体を失ったもんだから残る二本の歩脚も機能停止……取り壊された廃墟の柱よろしく、力なく崩れ朽ちていく。
そして……
『 R . i . p . p . l . e . 』
残る青い"内臓モドキ"――完全な憶測だが、多分大蜘蛛の核に相当するそれ――もまた、蚊の羽音より微かに弱弱しく例の怪音を鳴らしたかと思うと、
イラついた地引網の漁師がアスファルトに投げ捨てたアカクラゲみてぇに動かなくなり……
『 』
程なくして、死んだ。
いやまあ、確証はねーけど、多分死んだだろう。
つーかもう面倒だから、死んだってことにしておこう。
(哀れだな……どうしてそうなったのか知らねえがよぉ……)
ど派手に出てきた大蜘蛛の最期は、いっそ切ねぇぐれーに呆気なかった。
次回……ヨランテはその後どうなったのか!