規格外の難敵が顕現し"謎"が襲い来る
正直こいつ出すためにここまで長引いたようなとこはある……
俺の名前は、北川ナガレ。
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrriiiiiippppllllllllllllllllllleeeeee!!』
「なんですの、アレ……」
『俺が知るかよ』
夜明け前の山ん中で今までに見たこともねぇような敵と出くわした、ゾンビ刈りの化け物だ。
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRRRiiiiiiiiippppllllllllllllllleeeeeeeeeee!!』
「……なんだか、『レジデント・イヴィル』を思い出しますわね」
『何で英語版タイトルなんだよ。普通に「バイオハザード」でいいじゃねえか。まあ確かにあの見た目はバイオハザードの管轄ぽいけどよ』
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRRRIIIIIIiiiiiippppPPPPLLLLllllllllllleeeeeeeeeee!!』
アテもなく怪音を出し続けるそいつ――どういうわけか、俺らの存在を認識できていないらしい――の姿は、今まで見てきた人外どもの中でも一際異様だった。
まずとにかくデカい。つーか高くて長いって方が妥当だろう。
拒食症になったカニみてえな八本足と、その中心にある異様に小さな中枢部。つまるところは……
「……クモみたいですわね。今は亡きルイーズ・ブルジョワの彫刻"母蜘蛛"にそっくりですわ」
『ああ、森美術館とかカナダ首都の国立美術館に置いてあるヤツな。確かによく似てやがる。腹に卵を抱えてる風には見えねえから、ワンチャン盲蜘蛛って可能性もあるが』
「ザトウムシって、『ミクロキッズ3』に出てたアレでしたかしら?」
『……だからなんでそういう誰も覚えてねぇようなネタがサッと出てくるんだよ。確かに「ミクロキッズ3」にザトウムシ出てきてたけど……普通そこは第八使徒とかじゃねえか?』
「生憎ヱヴァンゲリヲンには詳しくなくて……」
『……まあ俺も全く知らねぇけど』
なんてくだらねー会話を繰り広げながら、俺たちは物陰に潜み"巨大ザトウムシ"を観察する。
(ナルホドね……そういうことか)
物陰から目を凝らし、細部をじっくりと観察する。
立ち姿は現実のクモやザトウムシよりゃお嬢の言ってた"彫刻蜘蛛"に近く、中枢部の合体節を高所に据える姿勢が基本のようだ。高さは8~9メートル前後で、歩脚一本は短くとも十数メートル強。触肢と鋏角らしきもんは見受けられねえ(或いは距離の関係で確認できんだけかもしれんが)。
(然しまさかあんな構造になってるとはな……)
(何ですのあれ……まるで芸術家気取りのシリアルキラーが作った不謹慎なオブジェみたいな……)
更なる観察の末、俺たちは件の"巨大ザトウムシ"に関する驚きの事実を知っちまった。まずそもそも奴は異様に細く歪な形をした八本の歩脚と、それらによって支えられる透き通った球状の、クモやザトウムシでいう合体節に相当する中枢で構成されている。
んで"中枢"にはどうやら触肢や鋏角どころか口や目玉、肛門らしきものすら見当たらず(よって今現在奴がどの方角を向いているかもわかりゃしねぇ)、ただ透き通った球体の中で内臓と呼ぶのも烏滸がましい"三つの青い球体を繋ぎ合わせたような不自然な何か"がゆっくりとした動きで不規則に回転していた。
……とまあ、これだけでも大概おかしな風貌だが、細部を観察するといっそ異常としか言いようのねえ特徴が明らかになった。
(いくら何でもそりゃ反則なんじゃねーか?)
言っちまうと要するに"歩脚がヒトの死体でできてた"んだ。しかもその死体、状態や特徴を見るにどうやら屍人化してるらしい。
(巨大ザトウムシの歩脚が屍人の集合体って、そんなのアリかよ……)
自慢するほどでもねえが、俺は今まで色んな屍人を見ては、そしつらをほぼ残らず刈り尽くしてきた。
その殆どはオーソドックスなゾンビ然とした奴らだったが、中には人間以外の死体が変異した奴だったり、人間の死体ベースでもなんか化け物っぽい姿になった、所謂"変異体"ってのもいた。
だがどんなに妙な姿形だろうが大まかな基礎は生前のまま、ベースの形態を著しく逸脱するようなパターンなんてありゃしなかった。まして、屍人を粘土か何かみてーに無理やりひっつけて何かしらのデカブツにするだなんて、今までの原則からしたら有り得ない話だった。
(ま、俺の知識・経験不足と言っちまえばそれまでだがね)
さて、ともあれヤツがどうやら敵らしいと(暫定的にだが)確定した以上、排除しておくに越したことはねえワケだが……
(とするとどう殺っか、だよな。屍人かどうかに限らず、あの風貌なら何かしらとんでもねぇ能力の四つや五つも持ってそうだしよ……)
必然、対処をどうするかの問題が出てくる。
既に述べた通り屍人には色んな"変異体"がいる。やたら身体能力が高かったり、仲間との連携や集団の指揮から武器攻撃までこなすほど賢いなんてのは序の口で、火炎放射や生体発電、滑空・飛行にジェット噴射での高速移動、武器状に変化した身体や仲間での攻撃と、まさしく挙げればキリがねえ。
まして今回の相手は規格外、何から何まで謎だらけなもんだから何をしてくるんだか全くわからねぇ。迂闊に動くべきじゃねえだろう……そう判断した俺は、一先ず身を潜めながら策を練る。
(さて、どうやってヤツを倒すかな……)
次回……戦闘開始!