剛腕二つと"影無き黄昏"
厄介な試作品の実態とは……
俺の名前は、北川ナガレ。
これからついさっき知り合った相方の使ってるステキな武器の解説を始めようと思ってる、ゾンビ刈りの化け物だ。
『『『『『『ナァァァントロクッセェェ!』』』』』』
「ヒャォッ!」
『ミナゲェ!?』
「シャォーゥ!」
『シスコォン!?』
「ヒャォン!」
『ウッダァ!?』
「シャゥォ!」
『シタジキィ!?』
「ヒャョーッ!」
『コバエェ!?』
「ヒョワォーゥ!」
『オキモノォ!?』
とまあこんな具合に、今現在ヨランテが仙亀頭蓋と併用する形で使ってる武器……その見た目は腰部分から伸びる二本のロボットアームだ。青みがかった銀色で仏像を思わせる"右腕"と赤黒く怪物じみたデザインの"左腕"からなるそれらは元々別の武器で、全く異なる機能を持つ。
(……ただどっちも"カメラやマイクが搭載されててAIで自動的に敵を察知・攻撃できる"って特徴を持ってはいるがな)
「奥義『岩山両斬波がただの手刀なワケないでしょう常識的に考えて撃』ィ!」
『『『ジャアナンナノオォォオオオ!?』』』
仏像、それも仁王像の腕よろしく神々しく逞しい"右腕"の正式名称は"救世七星"。攻めに特化した設計がされていて、AIで対象の弱点を探り当て効率的な破壊方法を瞬時に導き出し、それを寸分違わず迅速に実行できる優れものだ。
「奥義『ダメな実写化をも無理して容認するような作家は落ちぶれて連載も長続きしなくて当然ですわよ波』ァッ!」
『『カンケェナクネェェェッ!?』』『『ソレハイワンデアゲテェェェッ!?』』
対して怪物……それも罪人を罰する屈強な獄卒よろしくおっかないデザインの赤黒い"左腕"の正式名は"地獄学級名誉担任"。AIでもって索敵と攻撃を自動でやってくれるのは先の救世七星と同じだが、こっちは汎用性や柔軟性に重きを置いた設計がされている。攻撃絡みの性能でこそ救世七星には及ばないが、その分索敵や防御といった装着者をサポートする動作なら断然こっちが優れてるってワケだ。
「奥義『アニメ漫画ゲームその他諸々を実写化する者はフィリップ・ラショー様ぐらい徹底して漸くスタートラインに立てるのですわ拳』ッ!」
『イヤソンナン!?』『ムチャブリ!?』『ヤンケェ!?』
「奥義『それだけの努力をする覚悟もなくただ話題性で手軽に収益を得ようなどと浅ましい考えでアニメ漫画ゲームその他諸々の実写化を目論む者は如何なる大御所であってもそれらに着手する資格も権利も持ち合わせるわけがないのですわ撃』ィ!」
『ホンナラ!?』『ゼンジンルイッ!?』『ダレモ!?』『ナニモ!?』『ジッシャカ!?』『デキヒンヤンケェ!?』
「秘技『そんな真似するぐらいなら原作もなくリメイクでもない完全オリジナル作品で勝負なさいよそれができないならクリエイターをやめてもっと楽して効率的に成り上がって稼げる何かしら適当な仕事にでも就けばいいんじゃないですの波』ァァァァァァァァ!
更に続けて絶技『ジャック・マンデルバウム氏は「シティーハンター」を美しいコミックス、2019年のフランス版実写映画を強引で醜い映画とまで言い切るならどこがどう美しくてどこがどう強引で醜いのか具体的に細かく説明してみせなさいそれができないなら映画評論家をやめなさい拳撃波』ァァァァァァァ!」
『『『『『イクラナンデモイイスギィー!?』』』』』『『『『『ツカサッキカラワザメイナガァァァァ!?』』』』』
俺のそれより遥かに長ったらしい――恐らく、つーか確実に彼女の本音が反映されたであろう――お嬢の必殺技でもって屍人どもが吹き飛ぶ様はいっそ芸術的とさえ言えた。
『若さってなァいいもんだなァ……』
『ヴァアアアアアッ!』『ヴオオオオオオッ!』
『シぇアッ!』
『『ヅベアッ!?』』
その見事さは彼女より(一応は)屍人刈り歴が長い筈の俺をして思わず年寄り臭い台詞を口にせざるを得ないほどだ。自ら戦闘型を名乗っていたし、純粋な戦闘能力と戦闘経験は俺を遥かに上回ってるだろうことは想像に難くねえ。
(そうと決まりゃ当然俺も頑張らなきゃイカンわけであるが……)
俺は手元の充電器を確認する。残り約十五分……『ついなちゃん』のボイスドラマ前半部分一本分てトコか。
(となると、もう少し"こいつら"で踏ん張らなきゃイカンだろうな)
てなワケでこっからは俺が今現在使ってる"厄介な武器"について解説させて頂こう。
『おらァ!』
『ヴアア!?』
『せりァ!』
『ヴオォッ!?』
『はッッ!』
『ヴゲエエエ!?』
俺が今現在装備・使用している武器は二つ……併用を前提として開発・製造され実際確かな性能を誇りながらも、一方未だ粗も多く改良の必要がある"試作品"だ。
『貰ったッ!』
『ゴェェ!?』『ゲボェ!?』『グバァァ!?』『ギピィ!?』『ガベェェ!?』
『これぞ名付けて「虚空弾」ってか? ……いや、なんかダセェな。別の名前を考えよう』
一つ目は"無影黄昏"。
右眼に対応したAI搭載の単眼式ヘッドマウントディスプレイと、右肩に装着する小型キャノン付きの肩当、それらを操作するキーボードからなる代物だ。画面で周囲の状況を探知、AIがその都度起こすべき行動の最適解を幾つか提示してくれたり、視線と連動して動く小型キャノンから打ち出す圧縮空気弾で敵を狙撃できたりする……
『ヴォアアアアア――』
『ちっ、来やがったか。ぶち貫け……発射ッ!』
『――アアアアアアア!』
『あり!? 外れた!? 何でぇ!?』
[Sorry. The attack failed due to being out of range.]
(和訳:申し訳ありません。射程圏外のため攻撃に失敗しました。)
『射程圏外だぁ!? そういうのは照準合わす段階で言えよコラァ!』
[...... Zundamon]
(和訳:……ずんだもん)
『クッソ! 誤魔化すが如くエラー吐きやがって!』
……てな説明だけで終わったら単なる非の打ち所がない完璧武器だっただろう。だが悲しいかな、無影黄昏にも欠点が存在する。まず、小型キャノンの有効射程は思いのほか短く、それに伴って威力も実弾を撃てる銃に比べりゃ控え目だ。そんで搭載されてるAIも(少なくともGoogleなんかよりはずっと)高性能で音声ガイドとかもしてくれるが、聊か丁寧すぎるっつーか過保護なトコがあってどうにも肌に合わねえわ、さっきみたく肝心な所でポカやらかしたりするわ、何より音声が英語なんで結構やり辛い(一応ディスプレイへ和訳した文が表示されはするが……)。
『言語の本質を知らねえ文科省の官僚どもが設定した"欠陥英語教育"の被害者世代にこの仕様は辛ぇってのよ。早川さんも何考えてこんな仕様にしたんだか……』
まあとは言ってもこの無影黄昏、あくまで砲撃は補助機能であってメインは索敵とかその辺だ。よって戦闘でのメインを担うのはもう一つの"試作品"になる。
その武器が何かってえとまあ……察しのいいヤツなら名前くらいは想像つくんじゃねぇか?
(わかんなくても大丈夫、次回はそっちの解説だ)
次回……より厄介な試作品が登場!