幼馴染にチョロいっといわれて裏切られたので、幼馴染の天敵のハイスペック令嬢と手を組むことに決めました
「あ、ヤダ。シューヤのイベント忘れてた。うーん、でもなアイツチョロいし、まあいっか!」
「マヤ……!」
マヤの幼馴染の俺はとんでもない光景を目撃している。
いままで俺との約束を一度も破ったこともないマヤが、約束を破った挙句にかわるがわる別の男に会いに行っているのだ。
しかもマヤの中で俺はチョロい認定されているようだ。
「フ、シューヤ君! やっと気付いたようね!」
「あ、あなたはドエスバレリー……ハルナさん!」
気付くとドエスバレリーナのあだ名を持つ深窓の令嬢――麻黒遥奈さんが俺が隠れていてる電信棒の陰に出現していた。
彼女はことあるごとにマヤにちょっかいを掛けては、肉体的にも精神的にもボコボコにする気性の激しいボッチだ。
「見なさい、あの顔を。あれが欲望に飲まれた亡者の顔よ!」
遥奈さんは「シューヤへのお礼参りをサクリファイスして、次はトウヤとコウヤのダブルでいくか……!!!」と譫言を吐きながらニマニマするマヤを指さす。
おそらく遥奈さんの偏見も多分に入っていることに間違いは無いが、確かに俺にも邪悪なものに見えた。
まるでこの世の半分を手に入れてしまった何かのようだ。
「ハルナさん、あれがマヤの本性だって言うんですか」
「そうよ、あれが彼女の本性。男を見境いなく食い物にするのがあの女のやり方よ。アナタは今すぐあの女を見限って、近くにいるハイスペック女子に乗り換える必要があるわ」
「ハイスペック女子に乗り換え……」
乗り換え。
マヤに不義理を働かされた手前、どこか薄情な響きのあるその言葉に応じるのは抵抗があった。
「シューヤ君黙ってどうしたの……もしかしてハイスペックという部分に疑義が? いや、そんなはず……。でも……。ぐぬぬぬ! シューヤ君至近距離にいるロースペック女子とつきあわない?」
下の方からプライドが軋む音が聞こえつつも、やはり俺は『乗り換える』というのには乗り気になれなかった。
「乗り換えるのはできないな」
「シューヤ君どういうこと? マヤを殺せってこと?」
「そういうことじゃないよ、ハルナさん。 なんだか不誠実なようで嫌なんだ。できるならマヤとの関係をしっかりと精算してから、少し考えたいんだ」
「シューヤ君、不誠実が嫌とか言いながらコム〇ケイにちょっと口調が似てる気がするのがきになるけど。アナタがそういうのならしょうがないわね。マヤと関係を破断させてから考えましょう」
俺はハルナさんに話を通すと、覚悟を決めて電信棒の陰から飛び出した。
これには流石のマヤも気付いたようで目があった。
「シューヤ、どうしてここに、もしかして先の私の独り言聞いてた?」
「ああ、シューヤはちょろいのとこからバッチリ聞いてたよ」
「へ、へえ、そうなんだ。でもさあ私たち2人の中だし、許してくれるよね」
「そのことはマヤのことは好きだし、許すよ。でも関係はこれで終わりにしよう、マヤは他の男のことが好きだからな」
「違うよ」
「え」
俺がそう切り出すとマヤは先ほどまでどこかバツの悪そうな顔で遠くを見つめていたのに対して、今度はまっすぐこちらを見つめた。
その視線に重みというか、不思議な圧を感じる。
とてもではないが、高校生が出せる様な重みではない。
「違う。私の愛は一つじゃないの。だから私の好きは複数あって、ただ一人のことを好きになって、それ以外をバッサリと切断するということはできない。私はシューヤのことは嫌いじゃないし、他の男の子のことがシューヤよりも好きっていうわけじゃない。ただシューヤとは種類が違うだけなの。シューヤにとってはこれはダメなの? 私はあなたのことは愛し続けているのに」
マヤは続けざまに言葉を浴びせかけて来た。
彼女の行っていることは俺には未知の世界だったが一応の理屈は通っていたし、少しもやもやはするが俺の見える範囲でいままで通りならいいのではないかと思ってしまった。
歪んでいようと俺は今までのマヤとの関係に未練があるのだろう。
「ごめん……」
「何よ、それ。選べないから皆欲しいってこと。何様のつもりなの、あなた」
「げ、ドエスバレリーナ!」
俺が流され掛けると、ハルナさんが不平をいい陰から出てきた。
マヤはそれを見ると、しかつめらしい顔から一転バツの悪そうな顔に戻った。
それから小さな声で「どうして、こいつとのイベントはまだのはず」と訳の分からないことを呟いているのが聞えた。
「というよりもあなたの種類の違う愛ってどんなものなの。誰かを好きな気持ちって種類別にできるほど単純なものでもないし、そんな塩梅よく配分できるものでも無いんじゃないかしら」
「いやいや、それはハルナの意見でしょ? 私はそれができるから」
「口だけでしょ。さっきもシューヤ君との約束をすっぽかして、他との約束を優先したじゃない」
そこまで行くと俺も目が醒めた。
マヤは種類が違うだけで愛の大きさは同じだと言っていたが、その実俺との約束よりも他の男との約束を優先していた。
マヤの中では確実に優先順位が存在している上に、おそらくマヤの「チョロい」という言葉からして俺の優先度はかなり低い。
「マヤやっぱり俺たちもう金輪際関わるのはやめよう。お互い損するだけだ」
「ちょ、ちょっとシューヤ」
「シューヤ君よく言ったわ。あと二言言えばマヤの精神はボロボロにできるわよ。チャンスは今しかないわ!」
「それは遠慮しとくよ」
ハルナさんの悪魔の囁きを流すと、マヤの元から離れた。
こちらが距離を開ける間、マヤは悔しそうな顔をして、俺とハルナさんをねめつけていた。
前までのマヤはおっとりとしたタイプだったので、その形相にぎょっとした。
あの様子では近々なにかしてきそうだ。
少し心配だが、マヤの天敵であるハルナさんがいるし、何とかはなるだろう。
帰り道、途中まで道が一緒ということで共だってあるいていると、彼女は俺の袖をひぱった。
何事かと振り向くと、
「……返事は?」
彼女が少し不安なそうな顔で訊ねて来た。
完