最強の2人【短編】
拙いながら書いてみました!よければどうぞ!!
山麓の町、ファーニール。
緑溢れる自然に囲まれた町…と、言えば聞こえが良くなるから不思議だ。
有り体に言えば単純に何処にでもあるような田舎町。
そんな国の端の方にある町にも人が集まる賑やかな店がある
冒険者ギルドと呼ばれるそこは世界の殆どの都市、町、村にも出張所があるくらいに必要不可欠なものである
例えば採取が大変な薬草の在庫が切れた時、また例えば村が魔物の襲撃に遭っている時、更に例えば飼い猫が迷子になった時…
そんな個人の問題から村や町などの問題などもそこには依頼、として掲示されている
その様な依頼をこなしていくのが冒険者である
詳しくは割愛するが、田舎町であるファーニールの冒険者ギルドの一階である受付カウンター兼酒場は今日も大賑わいに真っ昼間から酒を搔っ食らうダメンズから今から依頼をこなしに行くグループなどでごった返していた
「おい、また山賊が出たってよ!今回は護衛付きの商人がやられたらしい」
「山越えの護衛依頼の報酬がかなり良くなってきてるみたいだな」
「うははー!飲め飲めさわげー」
「あ、また薬草採取の依頼出てるぜ!ついでに受けとくか」
「おねーさんエール2つ追加ー」
「また暗殺ギルドの『死神』が出たってよ」
「なぁ、そろそろ髪切ろうかなって思うんだけど、どう思う?」
「…いいんじゃない?」
そこらかしこで交わされる会話。その中には眉唾物もあるが、逆に有用な情報も多量に含まれていた
「おい!あの『魔導』と『六刃』が山賊退治に来たってよ!!」
そんな中、一際大きな声で話す男がいた
「はぁ?『魔導』っていやあの魔術師ギルド所属の世界最強といわれてる?なんでこんな田舎町に?」
「しらねぇよ!けど実際今町長のとこに話聞きに行ってるらしい」
「はぁん?それならギルドにも顔出すだろうよ。で?どんな奴等だった?」
「『魔導』は黒いローブを纏って手に木で出来た杖持ってて如何にも魔術師って感じだったぜ!『六刃』はかなり厳つい大男だったわ!背中にごっつい両手斧2本背負って腰に2本の手斧、腰背後に2本の大振りのナイフ持ってたぜ!『六刃』の名前通り六つの刃で戦うみたいだぜ」
「へぇ…中々ヤバそうな奴らだな」
そんな会話をしてその二人は別の話に変わっていく
「へぇ。『魔導』と『六刃』だってよ?」
その男達の話を聞いていた別のテーブルの男が対面に座ってジョッキに入ったエールを飲んでいる男に声をかけた
対面の男に話しかけた藍色の髪色をした男も特にそれほど興味はないが話のネタ程度に話題にあげつつ手羽先に噛り付いていた
「…山賊退治とは大変だね…」
ジョッキのエールを飲み干して話しかけられた金髪の男は呟く様に答える
「そうかー?俺からしたらただやればいいからそう言う討伐系の方が楽でいいけどなー?逆にカイのよく受ける遺跡調査とかの方が俺的には大変面倒訳わからんけどなー」
それに対して藍色の髪の男は心底面倒と言った風にボヤきながら木のボウルに入ったサラダの野菜をフォークで豪快に突き刺して口に運ぶ
「遺跡調査は知識の探求にもなるからね。それにまだ未発見の古代魔法なんかも発見出来るし…それに何より僕等には…特にシンには必要な事でしょ?」
カイと呼ばれた肩まで伸びた金髪の男は街ですれ違ったら10人中10人は振り返る程の美形で中性的な顔をしているが、現在はその整った顔を微妙に歪めて呆れた顔でそう返す
「いや、まぁそうだけどなぁ…」
シンと呼ばれた藍色の髪の男はアシンメトリーにされている自らの髪をガシガシと掻きながらバツが悪そうにそう返した
「大変、って言うのは単純に一網打尽にしてもアジトが判らないと捕まってる人なんかの救出も出来ないからね。討伐だけでいいわけでもないから、大変って話」
「ふーん?てかなんで捕まってる奴がいるって知ってんの?」
「それはね、「逃げて来た子がいるのさ。はい、エールおかわりおまち」…ってこと」
カイがシンの疑問に答える前に横からエールが並々注がれたジョッキを2つテーブルに置いた恰幅のいい中年女性が答えを告げた
「サンキューおねーさん。それにしても、子?子どもがよくまぁそんなとこから逃げられたもんだな」
シンが空になったジョッキを女性に渡しながら聞いた
「あぁ、なんでも乗合馬車が襲われてそこで親しくなった女性に助けられてなんとか逃げて来たらしい。この街の場所を口頭で告げられて「助けを呼んでほしい」ってな具合でね」
「ほー。それで?」
「で、なんとか街に辿り着いた子は事情を憲兵に話して保護を受けた。で、山に捜索、ってタイミングで来たのが」
「…『魔導』と『六刃』」
「そう言うことさね!まぁそっちの兄ちゃんも大層イケメンだけど、『魔導』もそれまたかなりのイケメンって話だからねー。楽しみだよ」
それじゃあ、と言って最後についでにイケメンと言われたカイに1つウィンクをして空のジョッキを手に戻って行った
「…。まぁ、殺された、ではなく連れて行かれた、とその子どもは証言しているみたいだからね。多分だけど…」
「奴隷、か?」
女性からのウィンクを受けて笑顔を引きつらせているカイを見て苦笑していたシンはその話を聞いてそう呟く。それを聞いてカイも小さく頷いたのを見てシンは小さく舌打ちを鳴らした
山賊などに捕まった人間は大体は殺されるか奴隷として売られる。男性は大半が殺されて女子どもは犯され殺されるか奴隷として売られる。もう殆ど定型化されている、と言っても過言ではない。
気の毒だとは思うが、それに関しては咎めるとすれば、事前に山賊や盗賊を、叩きのめすか、そもそもが奴隷制度を禁止している国に行くしかない…
「残念ながら表向きは奴隷制度を禁止してるこの国でも裏を見ればよくあることだけどね」
そう。この国では奴隷制度を禁止している。しかし、一度社会の裏側を覗いてみれば社会を回しているはずの貴族が多くの奴隷を保有しているのが現状である
つまり黙認されているのだ
「…腐ってるなぁ…」
「本当にねぇ…」
2人でしみじみと呟きながらエールを煽っていると突如として大きく音を立て、ギルドの入り口のドアが開いた
「『魔導』と『六刃』が来たぞっ!!」
誰かが叫び店内にいる人の視線がドアに集中した
そしてそこから現れたのは巨漢の男
腕や足はオークのように太く厳つい。ぎらりと睨みつけるような視線は何処か獣のように鋭い眼光が周囲を見回している
何処ぞの山賊の様な動物の皮を鞣して皮鎧の様にしており、腕や脚にも巻いている
続いて現れたのは真っ黒のローブを纏った男
ヒョローっとした体格に不健康そうな顔は残念ながら整っているとは言い難い。どちらかといえば病的な印象を受けるのは軽薄そうな笑みを浮かべているのも理由の1つではないだろうか。ローブから伸びたガリガリの腕には木を加工して作られた様な杖を手にしていた
「俺たちが山賊を退治しにきた『魔導』と『六刃』様だ!!」
そいつ、大男は大きな声でカウンターにいる受付嬢に向かって叫んだ
周囲からは「おおっ」とどよめきにも似た声があがる。
「は、はい。お伺いしております。今回のは緊急となりますので、山賊の討伐証明として山賊の首、または死体、若しくは身柄の引き渡しによって報告となります!」
受付嬢は若干吃りながら今回の依頼について説明をした
「おう!任せろ!!」
「…それで?報酬はいくらになるんだ?」
大男が豪快に承諾し、細男が報酬についてを尋ねる
「は、はい!山賊の壊滅となりますので、全てで金貨30枚の報酬となります」
報酬の話によって周囲のざわめきが一層大きくなった
因みに金貨が1枚あれば4人家族が半年は飢えることなく生活することができる
「ふぅん…まぁまぁか」
細男は報酬の金額を聞いてニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていた
「そ、それと、今回の依頼に発展した情報を持ってきてくれた子がそこに…」
受付嬢が付け足す様に伝え指を指すとその方向の人垣が割れ、1人の少女が現れる
少女を見た2人はそちらに近づいていく
少女はキョロキョロと不安そうな表情を浮かべていた
2人が少女の目の前に立つ
「安心しろ!俺たちがそいつらをぶっ潰してきてやる!」
「この魔導がこの街にいたことが運の尽きだったね」
2人は其々そう言い放ち、周囲の歓声を聴きながらギルドを後にした
2人の後を追い人がかなり減ったギルド内
「…いやはや、なんとも…」
周囲が浮かれた様に今の出来事を知り合い同士で話している中、カイがそう呟いた
「まぁ、悪党退治するならいい奴らじゃん。見た目は微妙だったけどな」
ははっと笑いながらシンは言った
「、っ!?大丈夫ですか!?」
突然聞こえた焦った声。発したのは先ほどの受付嬢でその腕に抱きかかえられていたのは
呆けた様に、しかし、確実に顔が青くなった少女
人が減っていたとしても他の客は先程の興奮が抑えられ無いらしく、見向きもしない。数人が気付いていても少し目を向けただけで、すぐに自分の事に意識を戻していた
少女は小刻みに震えながら小さく座り込んでいた
「どうしたよ?」
そんな少女に声をかけてきたのは、シンだった。
「自分の荷物くらい自分で持ちなよー」
その背後からは鞘に納められた一本の長剣を持ったカイが文句を言いながらも付いてきていた
「いえ、この子が急に…」
受付嬢は話しかけてきたシンとカイを見ながら答えた
「まぁ、まず飲め。ゆっくりな」
そう言ってシンは膝を折り少女と目線を合わせて先程あまり『魔導』がイケメンではなかったと残念がっていた中年女性からもらったレモン水の入ったコップを少女に渡す
キョロキョロと視線動かす少女に暖かな表情で笑いかけたシンを見た少女はゆっくりとコップの中身を飲み、1つ小さく息を吐いた
「…美味しい…」
「そっか。良かったな!おれもこれ好きなんだよなー」
少女の呟きを聞いたシンはニカっと快活な笑みを浮かべて少女の頭を撫でた
「…それで?体調は大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
カイが少女に声をかけると少し怯えながらもカイに頭を下げて答えた
「んで?なんであんな顔真っ青にして腰抜かしたんだ?」
「…実は…」
。。。
「ふぅん」
「あー俺嫌いだわーこーゆーのー」
少女から話を聞いた2人は口々に言いながらエールを口にする
ちなみに話をしようとするも突然少女のお腹がうねりをあげて自己主張を始めたのでカイが奢る、という名目で席に掛けさせて食事をしながら話を聞いた
少女は遠慮していたが牛肉のステーキがテーブルに運ばれた瞬間に我慢の限界がきたらしく始めはソロソロと、しかし、カイとシンのニコニコとした表情を見てからはしっかりがっつりと食べている
「それ、俺たちが依頼として受けてもいいぜ?」
「え?依頼、ですか?」
聞き返す少女にニヤッと笑ったシンが答えた
「そう、依頼。なんたって俺たちは冒険者だ。個人指名の依頼として受けるぜ?」
少女は少し考えた後、首を振った
「けれど、私、お金がありません…」
「あー…んじゃあさ、髪切れる?若しくは髪の毛結べる?」
「へ?」
少女はシンの顔をマジマジとみながら呆けた顔をした
「んー戦闘の時邪魔だからさ、前髪短くするか触覚みたいに結ぶか考えてるんだよね」
「…それなら横はそのままで前髪だけピンで留めればいいかと…ちょっといいですか?……はい。これで大丈夫だと思います」
少女はシンの方に寄り、顔を下げさせてポケットに入っていたシンプルなヘアピンを取り出してシンの前髪を後ろに搔きあげ、ピンを交差させる様にバッテンを作って抑えた
「おお!頭振っても取れない!!」
シンはその場で頭をフリフリしながら確認をした
「いや、そんな無理する必要はないでしょ」
「いやいや!俺これくらい動くし!必要な確認じゃね?」
「…まぁ、たしかに…」
「…喜んでもらえてよかったです」
「よし、なら報酬先払いになったけどこの依頼は俺たちが受けさせてもらうわ」
溜息を吐くカイと少女に対してシンは首を振るのをやめ、あっけらかんと言い放った
「え!?」
「…まぁ。報酬先に貰っちゃったら仕方ないね」
ガタ、とカイも呟きながら立ち上がる
「つーわけで、俺たちが戻ってくるまでこのギルド…あの受付のねーちゃんのとこにいな?」
「でも!!」
「大丈夫。僕達、結構強いから」
「まぁまぁ、任せ給へー」
カイは先程の中年女性に少女に追加で適当に食べ物や飲み物などを持ってきてもらえる様に伝えて余分に支払いを済ませる
シンは余程気に入ったのか頻りにピンを触りながら出口に向かう
「報告、楽しみにね」
「んじゃ、また後で」
そう言って2人はあっさりと行ってしまった
この後少女の元に追加で注文された特大クリームパフェが届くまで唖然と店のドアを眺めていた
。。。
「がっはっはっ。上手くいったな」
「こうもあっさりとは…本当、世の中はバカばかりだね」
2人分の人影が会話をしている。付近は夜の闇に覆われており、辛うじて解るのは2人の体格くらいなものだろう
何とも凸凹な2人の人影は周囲の状況など、確認もせずに会話を続けていた
「それにしても、今回の作戦は完璧だな!」
「まぁ俺が考えた案だからね」
「まず、山賊として馬車なんかを襲わせ続けて、山賊に討伐報酬が発生した段階で俺たちが街に現れて有名な2人の人物になりきる」
「『魔導』と『六刃』か。奴等は名が有名だが、あまり姿を知っているものが少ないからな。成り切る際に大事なのは堂々としていることだ。不信感を与えずに堂々としていれば、民衆は有名人に会えたことで舞い上がり多少の違和感などに気が付かない」
「で、討伐報酬を確認した後、捕まえた捕虜の男どもを全員殺して街に戻る。俺たちは報酬を貰い、あの街の救世主として讃えられ、飯や酒も食える分だけ食え、酒も好きなだけ飲める。女だって抱き放題だぜ」
全く楽な仕事だぜ、と高笑いをする大男
これでまた金が手に入る、とにやにやと不気味にほくそ笑む痩せ型の男
「はぁ、やっぱり屑共だったなー」
「大体予想通りだったねー」
突如第三者の声が2人の耳に入った
「だっ!誰だ!!」
痩せ型の男はしきりに辺りを眺めその声の主を探す
大男も二振りの斧を背中から引き抜き構えた
「やぁやぁ御機嫌ようクソッタレ共」
ガサリ、と叢から現れたのは若い二人組
1人は爽やかな整った顔の金髪の中性的な男
もう1人は藍色の前髪をピンで留めている男だった
「悪いが、悪事もここまでだ。大人しく自首して囚われている人を解放すればこちらからはそれ以上のことは何もしない」
「まぁ、要するにさっさと捕まれってことだよ」
金髪の男、カイが淡々と述べ、藍髪の男、シンが飄々と告げた
「はぁ?お前らみたいなヒョロいガキ共に何が出来るっつーんだよ?てめーらブチ殺しちまえば何の問題もねーんだよ!!」
そう言って大男は手に持っていた斧を振りかぶりながら2人に向けて走り出した
「…まっ、そうだよなー。カイ!こいつは俺が貰うぜ!」
ガキンッといつのまにか抜いていた剣で振り下ろされた斧を受け止めたシンはカイにそう叫んだ
「了解。『風よ吹け』。…言っとくけど殺しちゃだめだよ?」
「うおっ!?」
「オッケー!そっちは任せたわ!」
カイがそう返すとかなりの体重があるように見える大男の身体がふわりと浮いて木々を抜けて飛んでいき、シンは短くそう告げて大男の後を追っていった
「…」
カイはシンが消えていった方向に目を向けているとその場から半歩下がる。すると直前まで立っていた足元に黒色の矢が二本突き刺さった
「ほう?これを避けるとは、中々やるな」
見ると痩せ型の男が両手を広げて尊大な態度で言い放った
「…只の『闇の矢』ですよね?闇属性魔法初級の…」
「ふっその様な態度を取っていられるのも今のうちだ!『闇の力よ。我が名においてその力を具現し、我が敵を打ち穿て!闇の槍』!!」
痩せ型の男が長々と呪文を詠唱し終わると男の少し上に二本の黒い槍がフヨフヨと浮いていた
「…」
「ははは!!中級魔法を見るのは初めてか!?だがもう遅い!ゆけ!我が敵を串刺しにせよ!!」
男が高笑いをし、命令を下すとカイに向かって槍が発射された
「…」
カイが静かに手を伸ばすとカイの前にバカでかい光り輝く剣が現れた
「なっ!?高度な技術の詠唱破棄!?それも適正者の少ない光だと!?更に上級魔法の『光の剣』!?」
カイが伸ばした手を振るうとそれに併せて大きな剣が振るわれ、槍が叩き折られてその場で霧散した
「…いくつか訂正だけれども…」
カイが男に向かって歩きながら呟く
「まず一つ目。詠唱破棄じゃなくて無詠唱」
「っ!?」
パチン、とカイが指を鳴らすと男に突如現れた鎖が巻きついた
「二つ目。光魔法じゃなくて今のは神聖魔法」
何かを告げている男だったが口にまで鎖が巻きつけられ言葉を発することが出来ない
「そして『剣』じゃない。正しくは『刃』。ブレードだ。間違って覚えていたのならもう一度学園に入り直せ」
カイがもう一度パチンと指を鳴らすと男の背後から首に禍々しい刃が添えられた
「それは闇魔法最上級の『死神』。まぁ知ってるだろうけど…」
男は理解した
目の前の中性的な男の正体を。
光の上位互換である神聖魔法を使い、土属性の鎖を操り、闇魔法の死神を従える。更に先程大男を吹き飛ばしたのは風魔法。
少なくとも四つの魔法を無詠唱で行使し、更には魔法使いの目標とも言える上級魔法をサラッと使い、夢とも言える最上級魔法を扱える様な存在はこの世界に2人しかいない
1人は『賢者』と呼ばれる者だが、奴は女。となるともう1人は…
「わ、わるひゃっひゃ!おまへはまひょふほはひゃにゃひゃっひゃんひゃ!!」
「何言ってるかわかんないよ」
バキッと男の顎から聞こえてはいけない音がしたと思うと男は吹っ飛びそのまま白目を剥いて倒れた
「後、『魔導』は一応近接戦闘も出来るんだよ」
死神がふよふよとカイの目の前に何か言いたそうな顔をして浮いていた
「…ごめんって。シンに言ったこと忘れて思わず君を使っちゃったんだ。良ければこいつの記憶を頼りに捕まっている人の場所を見つけてほしいな」
死神は不服そうにも頷き、男の前に移動したかと思うとすぐにカイの方を向いて移動を始めた
「…ほんと優秀。骸骨なのに表情豊かだね」
男を土の鎖で地面に磔にした後、早く来いよ、とばかりに戻ってきた死神の後を追って森の闇に消えていった
。。。。。。
「ふん!」
大男の大振りによって近くの岩が粉砕した
それを横に避けたシンは更に薙ぎ払われた斧を見てステップを踏む様に後ろに飛び下がった
「くっ!はぁはぁ!!威勢がいいのは初めだけか!?避けてばっかりじゃねぇか!!」
「いや、俺そこまで馬鹿力じゃねぇし、殺さない様に倒すって中々面倒なんだよな」
「舐めるのも大概にしろよ!それじゃあ何か!?てめーは俺を殺すのは簡単だと言ってんのか!?あぁ!?」
「あぁ、まぁ、そりゃ楽だろうね」
「この六刃様を舐めんじゃねぇぞゴラァァ!!」
襲いかかってきた斧をひらりと躱すシン
「あー、そうそう。そもそもおっさん『六刃』の意味知ってんの?」
「ぁあ!?そりゃ六つの刃を自在に操る男の事だよバカタレ!!そこらのガキでも知ってるわ!」
「なるほどねー。やっぱそう広まってんのかー」
めんどくせぇ…とシンは呟き、こう言った
「あのさ、ならせっかくだから本当のとこ教えてやんよ。本物の『六刃』をな」
そう言ってシンは手に持っていた剣を地面に突き刺した
「はっ!てめーみてぇなガキが『六刃』?本物の?そりゃつまんねぇよ!ガキがぁ!!」
再度吠えて襲いかかってくる大男
直後、シンの腕に着いたブレスレットが光った
ガキンッ
大男の斧を受け止めたのは何処から出したのかわからないほどシンの身丈ほどの大剣
「っ!?」
ブォンとそのまま振り切られ大男は吹き飛ばされた
見ると手に持っていた斧は真っ二つに切り落とされていた
「くっ!?…いない!?」
手にあった斧を投げ捨て腰から大振りのナイフを二本取り出し、追撃に備えるとそこにシンはおらず、
「遅い!」
背後から声が聞こえて振り向くと細身の二振りの片刃の剣を持ったシンが男に向かって刃を振り下ろす所だった
「ぐっ!!」
一本の斬撃をナイフで受け止めるももう一本が大男の脇腹を斬りつける
傷口を抑えながらシンの方を向くと先ほどの剣ではなく槍斧と言われる所謂ハルバードを手にしていた
三日月の斧である部分には透し彫りがされており、精巧な作りをしていた
「『六刃』は『無刃』。数百、数千の刃を扱える。ただ、6本目の刃で大体敵は死んじまうから『六刃』なんて呼ばれるようになっちまっただけさ」
一般人では到底振回すことなど出来なさそうなサイズであったがシンは片手でそれを振り回して大男が身につけている皮鎧を粉砕、ついでに石突きを使用し大男の肋骨をも粉砕した
「ぐぉぉお!」
大男は痛みに耐え切れずにその場に膝をついた
「あと二つ刃が残ってるけどどうするよおっさん」
シンはハルバードを肩に担いで大男の前に立つ
「わ、わかった!悪かった!自首する!勘弁してくれぇ!!」
大男はその場で頭を下げ命乞いを行った
「…はぁ。わかった。なら縄で一応拘束させてもらうぞ」
シンが頭を掻いて一歩大男に近づいた
「ぐっ!しねぇぇぇええ!!クソガキがぁぁぁぁ!!」
大男がガバッと起き上り手にナイフを持ってシンに向かって振り下ろす
「…はぁ…」
が、それをいつのまにか持ち替えていた両刃の精巧な装飾が施されたロングソードで受け止めた
「ほんっと悪党って奴は考えることが一緒なのな。このシチュ何度もやり過ぎてちょっと飽きてるわー」
「なっ!?」
「まぁ、名前騙ってたわけだし、慰謝料って事で、いっぺん死んどけや」
一瞬で大男の脇をすり抜ける
「ぐはっぁ!!」
直後大男は全身にいくつもの切り傷を作り倒れた
「…殺したらダメらしいから…まぁこんぐらいなら大丈夫だろ…多分…」
ふぅ…と一息ついた後、大男は気絶しており、その巨体を運ばなければならない事に気が付いたシンは再度深い溜息を吐くのであった
。。。。
「お姉ちゃん!!」
「あぁ!よかった!!無事だったんだね!!本当に!本当に良かった!」
カイとシンの前では少女と女性が抱き合っていた
2人がそれを眺めていると少女達はカイ達の前に並んで頭を下げた
「本当にありがとうございます!」
「お兄ちゃん達ありがとう!」
「いえいえ、僕達も報酬は貰えたので」
「それに、俺はこれ貰ったしな」
シンは頭に付いているピンを指差して言った
「つかこれすげぇな!マジで激しく動いても全然外れなかったし!」
「もういっそのこと丸坊主にしてあげようか?」
「いや、それはマジで勘弁して下さい…」
ふざけあうカイとシンを見て少女はにこりと笑った
。。。
「さて、次は何処に向かうよ?」
「うーん。その事なんだけどね。ラヴィから連絡が来たんだよね」
「うえっ。あいつってことは…学園かぁ…」
「あはは…。うん…ねぇ、シン?」
「一人で行くとか言うなよ?俺は…大丈夫だ」
「…わかった。じゃあ次は学園都市に向かおうか」
「まぁ、いつも通りのんびりだらだらいこうぜー」
「いつも通り、だね」
行き先を決めた二人は学園都市に向けてのんびりと出発したのだった
これは神に愛された最強と神に愛されなかった最強の話