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雪の日に流星群を探して

作者: しんしん

 夜深く、しんしんと降り積もる雪の中、一人の女の子がこっそりと家を出た。ここは少し田舎いなかで、少し都会な、そんな町。雪が積もるのも珍しいできごとだった。


 女の子の名前は『ゆき』という、綺麗きれいな長いかみをした5さいくらいの女の子。みんなには『ゆきちゃん』とか『ゆきっぽ』なんてよばれていた。


 ゆきっぽは、雪だるまみたいに服を着こみ、毛糸の帽子と手袋をしていた。それでも手が冷えるので、何度も手をこすり、時々「はぁ」と息をはいた。


いそがなくっちゃ」


 背負せおったリュックを「よいしょ」と直し、トテトテと走り出す。道にできた小さな足あとはできては消え、できては消えていく。ときどきれる家の光と街灯がいとうが、ゆきっぽの後を追いかけていく。


「りゅうせいぐん! りゅうせいぐん!! ひとつ、ふたつっ!」


 鼻歌はなうたまじりのその声は、もった雪の中へけていった。


**** 


「明日は100年に一度の流星群りゅせいぐんが見れる日です」


 テレビのお姉さんがうれしそうにそう言った。


「りゅうせいぐんってなあに?」


 ゆきっぽはママに聞いた。こんなにうれしそうにおねえさんがはなしをしているのは、きっとすごく楽しいことなんだろうと思ったから。


「お星さまがね。落っこちてくるのよ」


「ええ!! お星さま落ちちゃうの!! しんじゃう! たすけなきゃ!」


 その言葉を聞いたママは優しく微笑ほほえんで言った。


「助けてあげるとね、ねがいがなんでもかなっちゃうんだから」


「なんでもっ!」


「そう、そうなんでも」


 ゆきっぽは、新しいお洋服が欲しかった。もしお星さまを助けたら新しいお洋服がもらえるかもしれない。そう考えると。その日はワクワクして眠れなかった。


****


 ゆきっぽはせっせと走り続けていた。雪は桜の花びらが落ちるようにゆっくりと降り続いている。


「あそこの公園はきっと晴れているよねっ! 落ちてるお星さまを助けなきゃ!」


 家から少し離れたところに高台たかだいがあって、小さな公園になっていた。ゆきっぽもよく遊びに行く公園だった。


 せっせっせっ、ギュギュギュ。せっせっせっ、ギュギュギュ。はあはあ、ふうふう。


 静かな世界に小さな足おとと吐息といき。ようやく高台にたどり着くと、目下には光のつぶまたたいていた。


「あれがお星さまかな?」


 ゆきっぽは首をかしげた。こんなに一杯お星さまが落ちていたのになんで気付かなかったんだろう。しっかり考えれば、空にお星さまがいないのは、全部地面に落っこちてしまったからに決まっているのに。


「ちがうよ」


 声がする方を見ると、そこには二つの角を持った大きなトナカイが、ちょこんと座っていた。


「こんばんは、お馬さん。しゃべれるお馬さんなんだね」


「あれ? ぼくが見えるんだね。こんばんは。お名前は?」


「わたし『ゆき』。みんなはゆきちゃんとかゆきっぽって言うよ。あなたは?」


「ゆきっぽか、いい名前だね。僕はトナカイたろう。よろしくね」


「となか……いたろう? いたろう君もお星さまを助けにきたの?」


「名前ちょっとちがうんだけど、まあいいかな。えっと、お星さまを助けにってどういうことかな?」


「りゅうせいぐんで、お星さまが落っこちちゃったから、助けてあげるの。そしてお洋服もらうの」


「ああ流星群のことか。でも、お洋服をもらうってどういうこと?」


「助けるとなんでもお願いきいてくれるんだって。ママが言ってた」


 それを聞いたトナカイたろうは可笑しそうに笑った。


「それはウソだよ。助けても願いはかなえてくれないし、そもそもお星さまはここまで落ちてこないから、助けを求めてもいない」


「え? ママのおなはしってウソなの?」


「そうだよ」

 

 トナカイたろうは、少しイジワルな感じで言った。


 それを聞いたゆきっぽは顔をふくらませた。


「まったく、ママはまったく! でも、困っているお星さまがいないならよかった! あ、紅茶こうちゃ飲む? ママの紅茶はとってもあったかくておいしいよ」

 

 その反応にトナカイたろうは驚いてしまった。


「ありがとう……。ゆきっぽはやさしいね」


 イジワルなことを言った自分がずかしいと思った。


「そうかな? いたろう君は何でここにきたの?」


 ゆきっぽはピンクの水筒すいとうを取り出し、紅茶をコップに注ぐとトナカイたろうに手渡わたした。熱々の紅茶からは、大きな白い湯気ゆげが立っていた。ひづめを人間の手の様に使いながら、大きな口へと運んでいく。その姿を見ながら、ゆきっぽは上着うわぎ一枚脱ぎ、トナカイたろうのかたにかけた。


「僕はね、大事な人とけんかをしちゃったんだ。なんか全てがどうでもよくなってしまって、ここでボンヤリ街を見てたんだ」


「けんかは悲しいね。仲直りできるといいね」


「うん……。ゆきっぽは……、お洋服がもらえなくても……お星さまを助けようと思ったかい?」


 どうしても聞いてみたいと思ったことだった。


「うん。死んじゃうのはかわいそう」


「そうだよね」


「でも……」


 ゆきっぽは何やらモジモジとしていた。


「でも、やっぱり、お洋服は欲しいな……」


 それを聞いたトナカイたろうは、大きな声で笑った。そして、ゆきっぽの頭を思いっきり撫でた。優しく、これでもかと。


「そうだよね。その気持ちはどちらも間違っていないんだ。僕はね、その大事な人と、心とモノではどちらが大事なのかでケンカをしたんだ。物で心を満たすなんておかしいってさ」


「なんだかむずかしいね」


「そうなんだ。とても難しい。だから仲直りしようと思う」


「それがいいよ! きっと喜ぶよ!」


「うん。ところで、ゆきっぽはどんな服が欲しいんだい?」


「えっとねえ、ピンクでたくさんヒラヒラがついてるの!」


「分かった。いい子にしてたらクリスマスに持ってきてあげる」


「ほんと!! やったあ!! 」


 ゆきっぽは飛び跳ねて喜んだ。


****


 そのあと、二人であたたかいお茶を飲み、持ってきたチーズケーキを食べながらお話をした。その空間だけは暖かく、降った雪がすぐに溶けてしまうほどだった。


「さて、そろそろ帰ろうかな」


 そう言うと。トナカイたろうは立ち上がった。


「帰っちゃうの? また遊びにきてね」


「もちろん。そうだ! 僕を助けてくれたお礼に流星群を見せてあげる」


「りゅうせいぐん!! でもみんなお星さま落っこちてるよ?」


 ゆきっぽは目下の光のつぶを指さした。それは街の光であったが、ゆきっぽには、相変わらず落ちた星に見えていた。


「僕がお空に一緒に連れていくよ」


 トナカイたろうの体はフワリと浮き、少しずつ空に昇っていく。そして、街の光は、それに引っ張られるように空へと舞い上がった。そして、雪がやみ、あつい雲が少しずつ晴れていった。


「いたろう君! またねー!」


 少しすつ小さくなるトナカイたろうに向かって、ゆきっぽは力強く手を振った。


 どんどんと雲が晴れていく。星が一つ二つと姿を現していく。そして、トナカイたろうが見えなくなってしまった後には、無数むすうの星たち残った。


「流星群はね。星たちがおどっているんだよ」

 

 トナカイたろうの声が聞こえた気がした。

 

 おおいぬ座にオリオン座、おうし座、こいぬ座、ふたざ座にかに座。月明りのない晴れ渡った夜空に、たくさんの星座達が喜びのダンスを踊る。街の光たちも参加して、夜空は一層いっそうにぎやかになった。そして、一つ一つの星たちは、宝石のようにまたたいて、右へ左へめぐる。ここは星たちのダンスフロア。


「うわぁ!!!! すごいきれい!!!」


 一つ、二つとゆっきぽは流れ星を数え始めたが追いつかない。


「すごくキレイね。こんなにたくさん見れると思わなかった」


 となりを見ると、ゆきっぽのママが立っていた。


「あれ? ママいつ来たの?」


「何をいってるの? ずっと一緒じゃない」


 ママはくすくすと笑った。


「パパもいるよ」


 反対側にはゆきっぽのパパもいた。


 ゆきっぽは不思議に思った。パパとママに見つからない様に、こっそりと家を出たのになんで一緒なんだろうと。でも、それ以上に、パパとママと流星群を見れたことが嬉しかった。

 

 パパに抱っこされながら、ゆきっぽは星たちのダンスに歓声かんせいを送り続けた。

読んでいただきありがとうございます。暖かく優しい気持ちになっていただければ幸いです。

※1/3フリガナを追加しました。また誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いたろう君という呼び名、かなり良いのではと、違う方向でツボってしまいました。 良い子にしていたらクリスマスにプレゼントをくれると言ったくらいなので、彼はサンタさんときちんと仲直りするのでしょ…
[一言] ゆきっぽの優しさに思わずにっこり。 5歳というのは夢と現実の狭間をただようことができる年齢なのですね。お母さんの優しい嘘を信じて出かけてしまう純粋さ。真実を知って怒るのではなく、傷つく星た…
[一言] ゆきっぽ可愛い! トナカイさんも。 素敵なお話ですね。
2020/12/22 14:28 退会済み
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