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チョコレート・サイダー  作者: 大饗ぬる
9/11

最終章 コレが現実②

 家庭科室で休憩した後、他に確認していなかった保健室などなどを次々に探した。だけど見つからない。ワタシもマナさんも疲れが出始めていた。


「すぐ見つかると思ってたのに……」

「そう簡単にはいかないよ。寄り道もしちゃったし」

 これが失言だったと気づいたのはマナさんの声が怒気をはらんでいるのを聞いてからだった。

「唯人くんはそうは思わなかったの?」

「…………」


 それきり会話が途切れて二人とも無言になってしまった。探さなきゃいけないとわかっていてもどちらも口を開くことができない。

 あんなにもさっきまで楽しかったのに、このゲームが“楽しくてたまらない”と思っていたのに。不用意な一言でぶち壊してしまった。


「どうしてファイルがどんなものか聞かないの? どこでなくしたのかとか。僕には不思議でたまらないよ」

 けらけらと笑うクロネに腹が立つ前に、なるほどと納得していた。

「クロネありがとう! マナさんもう一度生徒会室に戻ろう。ファイルについて聞き直そう」

「うん、そうだね。じゃあさっそく行こう!」


 ちょっと仲違いしかけていたけど、クロネのヒントで仲直りどころかまた絆が深まった気がした。喧嘩をしても手を離さないマナさんはすごいなと心の中だけで呟いた。


 再び、いや何度訪れたかわからない生徒会室。ワタシがノックをする前にマナさんが入っていった。


「なくしたファイルってどんな大きさで何色? どこでなくしたの?」

 食らいつくように質問攻めにするマナさんにいつもの調子で返す男子生徒。


 よ〜く見ると胸には「生徒会長」のバッジが! この人、生徒会長だったんだ……。


「ありがとう! 絶対見つけるねっ」

「頼んだ」

 生徒会長だった男子生徒にマナさんは挨拶し生徒会室を出た。ん……? 何か違和感を感じる……気のせいかな?

「あのね! A4サイズでどこかの教室に忘れたかもだって! これって大ヒントじゃない? 先に教室ならヒントなしでどのファイルか困ったかもね」

「う、うん。それじゃあ3年生の教室から回ろうか」


 3年1組。鍵はやっぱりかかっている。鍵を使って開けると机にイスが上下逆さに乗った状態で右と左に分かれていた。ここもやっぱり掃除の最中みたいにも見える。

 マナさんと手分けして探すもやはりみつからない。


「ネコちゃんは楽そうでいいなぁ」


 クロネはまたふわふわと空中で丸くなり羽をたたみ眠っているように見えた。このお題にも介入はしないつもりらしい……けど、ヒントはくれた。クロネは私たちの味方なのかな……。

 三年生の教室にはないことがわかり二年生の教室へと向かう。


「ねぇ、マナさん」

「なぁに?」

「二年の教室は手分けして探した方が見つけやすくないかな?」

「嫌よ! わたしはユイちゃんと一緒がいいの!」

「じゃあせめて探すときぐらいは手を離してくれない? 手分けしても同じような範囲しか探せないし」

「……わかった。でも同じ教室じゃないと嫌だし、ファイルが見つかったら離れるのはなしだからねっ!」

 どうしてそんなにくっつきたがるのかワタシにはわからなかった。


 階段を下り二年生の教室へ。

 2年1組。ここは机もイスも普通の並びだった。ワタシはロッカーを探し、マナさんは黒板や教壇の方を探した。ロッカーの中は意外にも物が少なかった。入っていたとしても定規やリコーダー、体操服にボールに鞄が各ロッカーに散らばるようにあるだけ。ファイルすらみつからない。


「あった! 見つけた!」

 嬉しそうにファイルを掲げマナさんはそういった。


 ワタシは次の瞬間青ざめていた。真っ赤な血の塊のようなヒトガタの異形がマナさんとワタシの間に突如として現れたから!

 嫌な予感がして天井を見上げれば目の前の赤い塊が這ってきたような跡がある。もしかして初めから教室に潜んでいた? そんなことよりっ!!


「マナさんっっ!」

「ユイちゃん……」

 ファイルを胸に抱き、がくがく震えている。……そうか。

 マナさんが私に執拗にくっついて離れなかったのは遊びでも何でもなくて()()()()からだったんだ。どうして今になって気づくのか……!


「マナさん! すぐ行くから!」


 赤い塊の横を抜けようとしたところ、腕でなぎ払われ、机に体をぶつけ大きな音をたてて倒れた。それでもと起き上がった頃には遅かった。マナさんは赤い塊に捕まえられていた。

 首を腕で押さえられ声が出せないのか、声は聞こえなくても口の動きが「たすけて」と懸命に言っているのがわかる。

 イスを持ってマナさんが捕らわれていない側を狙う! 殴る! 弾かれ飛ばされ机を盛大にこかす、全く歯が立たない。痛いし何でこんな目に……。逃げられるなら()()()()

 そんな弱い心が読まれたのかもしれない。


「ユイ、前の選択肢を覚えているかい?」

「教室は後回しっていうの? 今そんな場合じゃ——」

「忘れているようだから思い出させてあげるよ。選択肢は二つ。一つ選べばそこでもう一つは選べなくなる」



▽嫌な現実や自我を捨てこのままゲームの世界の住人として残る。

▽ゲームをクリアし現実世界に戻る。



「自我を捨てれば嫌なことなんてなくなるし、汚い現実にはさようなら。ゲームをクリアするには色々な手順がまだ必要かもしれないけど、今すぐクリアして現実に戻してあげよう。さぁ……どうする?」

「……マナさんはどうなるの?」

 選択肢について考えきれずマナさんのことを聞いた。

「これはユイにとっての選択肢だからね」


 ということはマナさんは……。

 ワタシは————。


 今度は机を持って赤い塊に殴りにかかった。その拍子にマナさんを捕まえている腕の力が緩んだらしくマナさんは無事逃げ出せた。


「どうして……」


 ()がマナさんを助けたのが不思議だったみたいだけど、そんなのはあと。まずはこの赤い塊を倒さなきゃ! ワタシはロッカーにあったものをとにかく投げつけた。そのすべてを赤い塊は全部、体の中へと飲み込み、そして吐き出してきた。とっさにマナさんの背中に覆い被さりかばった。精一杯の行動で自分でもどうしてそんな行動に出られたのかわからなかった。


「っっ!!」


 脚に定規が刺さったみたいだった。怖くて見れなかったけど、熱いような痛みでわかった。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


「選択肢はどうする?」


 ノンキにクロネがそう聞いてきた。ワタシに痛みを吹き飛ばすぐらいの大声で言った!


「どっちも選ばない! ワタシはマナさんを見捨てたくはないし、自我も現実も捨てない!!」

「…………」


 クロネは黙ったままだった。悩んでいたのか面白がっていたのかはわからない。


「了解。これもまた初めてのパターンで嬉しいよ。良かったね」

 良かったねと、マナさんに言ったのが気になったが、いつの間にか脚の痛みは消え赤い塊も消えていた。

「早くお題をクリアしちゃいなよ」

 少しおかしそうにクロネはいい、私の下ではマナさんが赤くなっていた。あ、まだ上にかぶさったままだった。慌ててどくワタシ。


「ご、ご、ごめん!」

「う、ううん大丈夫。それよりも……助けてくれてありがとう。怪我とかしてない?」


 心配をかけたくなくて、大丈夫だよと答えた。そのあとはマナさんとまた生徒会室にファイルを届けに階段を上がった。


「そうだよ! そのファイルを探していたんだ、ありがとう。助かったよ」

 と、生徒会長は言った。それだけ聞いて生徒会室を後にした。


 赤い塊と対峙したあとからマナさんはくっついてこなくなった。やっぱり逃げたいと思ったのが伝わっちゃったのかな……。

 でも、とにかくお題はクリアしたはず。


「お題クリアだね、そろそろ良いかな」

「うん」

 マナさんが悲しそうな声で答えた。


 クロネの言葉に反応するマナさん、妙な空気が流れる。何の話……?

 クロネがぶつぶつ何か言うと私は……現実の姿に戻っていた。


「え? どういうこと?」

 状況を飲み込みきれない。

「最後のお題は簡単だよ、マナと話すこと。それでユイは現実世界に戻れる」

 でもマナさんの姿は少女のままで現実の姿に戻っていない。

「それも僕からじゃなくマナから聞くんだね。じゃあ、終わったら僕の()()を呼んで」

 そう言い残すとクロネは姿を消してしまった。

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