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チョコレート・サイダー  作者: 大饗ぬる
8/11

最終章 コレが現実①

 生徒会室に入るなり男子生徒に褒められた。


「音楽室をキレイにしてくれてありがとう! 今度はすまないがどこかに置いてきてしまったファイルを取ってきてもらいたいんだ。鍵を預けるからよろしく頼むよ」

「わ、わかりました」

 また何か押しつけられてしまった。

「お題クリア。そして次のお題。がんばりな」

「なんかクロネ、投げやりじゃない?」

「…………」

「ネコちゃんたらわたしにヤキモチ?」

「お題は生徒会からの頼まれごとをこなすこと。ソレがクリア条件だよ。ま、仲間もいるんだし手分けするのもありかもだね」

 クロネの意見に猛反発したのがマナさんだ。

「嫌よ! わたしはユイちゃんと一緒に探すわよ、ね〜!」


 教室の鍵は各階ごとに同じもので開くらしく1本ずつしかない。あとはさっきの音楽室や理科室などの鍵がある。それでも10本以上はあるようだ。これを全部調べるのは大変だと思い、マナさんに相談しようとした。


「選択肢を与えるから選んでね」



▽教室から探し始め音楽室などは後回し

▽音楽室などから探し教室は後回し



「え? ネコちゃん何かこれって違いがあるの?」

「ワタシなら後者を選ぶかな」

「ユイちゃん、どうして?」

 不思議そうにするマナさんと、笑いを噛み殺すようなクロネが対照的だった。

「音楽室はマナさんと掃除したよね? その時にファイルみたいなものは見なかったっていうのもあるんだけど。理科室とかの方が多分ファイルみたいなものは数が少なくてあまりない気がするし、教室は数が多そうでファイルもいくつもありそうだから後回しにして、簡単そうな所から当たってみるのが良いかなってワタシは思ったんだけど……」

 説明しているうちに段々と自信がなくなってくる。

「じゃあ、それで決まりっ」



▽教室から探し始め音楽室などは後回し

▼音楽室などから探し教室は後回し



「あとから後悔しても僕は何の苦情も受け付けないからね」

 とりあえず、生徒会室から近い職員室は素通りし、図書室へ向かった。

「ちょっとちょっと! なんで職員室は探さないの?」

「ワタシがマナさんを見つけた3階の教室の鍵を、生徒会室に借りに行ったときなんだけど。あの男子生徒は職員室からその鍵を取ってきてたんだよ。だから職員室にファイルを忘れてたならその時に気づくかなって」

「でも、その鍵を取りに行ったときに忘れた可能性は?」

「手には持ってなかったし、制服の中に隠し持って職員室に入って、わざわざ置いてきたってことじゃない限りないんじゃないかと思う」

「じゃあ面倒なとこはすっ飛ばせるね、よしっ!」

 マナさんが私を引きずるように歩く。

「図書室でさくっと見つけてクリアしちゃうよ〜!」


 見た目は小さな少女なのに中身は私と同じ年だから違和感がやっぱりあるよ……。それにどこかでみたことがあるような、まぁ気にしても仕方ないか。それにしてもパワフルだなぁ。


 まず見通しのいい机の上から探し、次にイスの上、机の下、本棚に棚の上まで探した。

 途中、マナさんが「この本、読書感想文で読んだ!」と私に見せてきた。

 一度休憩ということで、マナさんが読み聞かせしてくれた。

 最初はふーんといった感じで聞いていたのにどんどんわくわくしてきて、最後まで聞いてしまった。


「次は理科室行こうか」

 そうマナさんが切り出して、図書室をあとにした。


 理科室は入るなり驚いた。

 実験途中のまま時間が止まったかのような錯覚に陥った。

 フラスコやアルコールランプが大きな机の上に散らばっている。

 ファイルらしいものはとりあえず見あたらない。


「ねぇねぇ、なんかラベンダーの香りがしない?」

「言われてみれば……理科準備室の方からかも」


 二人して理科準備室に移動した。

 ラベンダーの香りは理科準備室にあるメスシリンダーからしていた。床にはくるみが落ちていた。

 人体模型を見てきゃーきゃー騒ぐマナさんがいた。


「やっぱり不気味だよね。夜な夜な動いたりするのかな……」

「さ、さあ……」

「ここにアンモナイトあるよ! すっごーい」

「あ、本当だ」

 アンモナイトの化石が置いてあった。他にも三葉虫の化石もあった。昔こういったものが好きで親にねだって図鑑を買ってもらったのを思い出す。

「準備室にはなさそうだね、戻ろっか」

 しかし、見つからなかった。

「でも、ここにもファイルない感じするね」

「家庭科室に移動する?」

「そうだね」

 やっぱりマナさんに手を引かれたまま連れていかれた。



 家庭科室は今まで見た教室などの中で一番綺麗だった。あまりほこりも被っておらず、何より炊きたてのご飯の香りがした。

「ご飯の匂い……?」

「本当だ。なんかお腹空いたよ。何か作ろーか」

「え!」

「何で嫌そうなの。こう見えて家庭科得意なんだよ」

 えっへんと胸を張る。

 そういうことじゃなくて、この状況で料理? 確かにファイルなんてなさそうだけど。

「わぁ、冷蔵庫に食材あるよ、ほらほらっ」

「あ……」

 食べられそうに見えたらお腹が鳴った。この世界でもお腹は空くんだ。

「ユイちゃん、じゃあちゃちゃっと作っちゃうよ〜。ユイちゃんはじゃがいも洗って皮剥いてね」

「え? ワタシもやるの?」

「当たり前じゃん。働かざるもの食うべからず、だよっ」

 じゃがいもを水道で洗う。皮を剥くのはピーラーだっけ……? あれないや。包丁でやるしか。

「わわっ、ユイちゃん危ない! 指を包丁の前に出して剥こうとしたら危ないよ」

「あ、うん」

「だから、こうやってね?」

 マナさんが慣れた手つきで皮をするすると剥いていく。

「皮剥きはわたしがやるから、一口大に切ってくれる?」

「わかった」

 じゃがいもを一口大に……ってどう切ればいいんだろう。まぁ、適当にこうやって切れば

「添える手はぐーだよ! もう左手は添えるだけじゃダメだよ」

「う、うん」


 マナさんに教えてもらいながらなんとかいびつながらも一口大にじゃがいもを切っていく。その間にマナさんは卵焼きに鮭の塩焼きに味噌汁を準備していた。

 ワタシの手際が悪すぎるのか、マナさんがすごいのか。


「あとはユイちゃんのじゃがいもを味噌汁に入れたらオッケー」

 ワタシが切ったじゃがいもがおいしそうな味噌汁に入っていく。

 鍋の番をしている間にマナさんが食器を用意したりしてくれていた。

 それらに並べられていくおかずたち。これは……、すごくおいしそう。

「食べても良い?」

「だーめ、ちゃんといだだきますしてから」

「あ、うん、い、いただきまーす」

「いただきまぁす」

 お箸で卵焼きをつまんで食べる。おいしい。こういうご飯っていつぶりなんだろう。ちょっと泣きそうになりそうだったから、ご飯をがっとかきこんで食べたら、むせた。

「けほっげほっっ」

「だ、大丈夫? ご飯はおかわりあるから大丈夫だよ?」

「ううん」

 でも、おいしかった。味噌汁に自分が切ったじゃがいもが食卓にあるのもなんだか嬉しかった。


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