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チョコレート・サイダー  作者: 大饗ぬる
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第二章 現実はどこにでもいる①

〜解析 analyze the data〜

思い出してきた?


xxxの思い。


 彼女に憧れていた。

 淡い恋心があったかもしれない。

 優しくて思いやりがあって、何より可愛くておシャレで。

 ちょっとしたヘアピンの使い方や先生に目をつけられない程度の制服の着崩し方。

 それだけじゃない、()()の女の子として過ごせるスキル。

 

 本当は、僕と、変わりなんか、ナイクセニ……!!

 壁を通り抜けてクロネが入ってきたけど何とも思わなかった。むしろ彼女じゃなくてほっとしたぐらいだった。


「ゲーム内では、現実とは違う性別や体格が選べるからね。確か……この展開は三十二——」

「もういいよっ! もう嫌なんだ、そういうのも全部! だから、だから僕は」

「ゲームの世界に逃げた。僕はユイのことなら知ってるよ。だから選択肢をあげる」



▽嫌な現実や自我を捨て、このままゲームの世界の住人として残る。

▽ゲームをクリアし、現実世界に戻る。



「今すぐは答えられそうにないだろうから、この選択肢はいつ答えてくれても構わない。ただし」

 クロネの瞳が()()の猫の目がたまにそうなるように緑に光った。


「取り消しやリセットなんてものはない。一度きりの選択。ノーヒント。逃げるか戦うか二つに一つ。僕はどちらでも楽しませてもらうよ。そろそろ彼女も来そうだしね」

「……え」


 選択肢の話を反芻できないうちに次から次へと頭に言葉が刺さる。

 僕はいつから……

 僕はいつから外に出なくなったんだっけ……

 確か——



 暖かな陽気の春。

 期待をふくらませての進学。

 待っていたのは

 泣き虫で男らしくない僕への意地悪なクラスメイト。


 すぐに登校拒否。

 正しい逃げ方。


 それからネットでゲームを買ったり、出前を頼んだりして、一人暮らしを満喫。

 お金だけは鍵っ子の僕のために置いておいてくれたから。生きることは可能だった。


 直井さんは小学校からの幼なじみ。

 だからか何度も家に訪れては、外へ引きずり出そうとした。

 僕を否定する世界へと。


 いつ以来、外に出ていないのか結局思い出せない。

 それなのに高校に在籍中の僕。


 何のために?



「唯人くん〜。いるんでしょ? 入っちゃうよ?」


 彼女が来た! こっちへ来ないで!


「唯人く、きゃあっ!」


 悲鳴と大きなバリバリという音がした。そんなハプニングで僕の願いは叶う。彼女は大丈夫かな……なんて思う()()()()()()()()()。でも僕は……。

 また無意識に、縋るようにクロネを見ていた。クロネは僕を見ちゃいなかった。ふわふわとまた空中で丸くなり寝ていた。本当に寝ているかは疑わしいけど。


「唯人……くん……来ちゃダメ……死んじゃ……う」


 多分、きっと彼女の言う通りだ。

 でも彼女は、直井さんは、苦しそうな声でそれでも僕を心配してくれていて……僕だって!!


 涙を乱暴にぬぐい、ドアをわざと勢いよく開け、まだ見ていない敵を引きつけようと思った。案の定、敵らしいツノの生えた青色のマッチョなモンスターは、僕をギロリと一つしかない目で見据えてきた。

 青い一つ目は、彼女の首を遊ぶように絞めていた。彼女をポイっと投げ捨て、僕へと向かってくる!

 身近にあった……ペーパーを投げる。モップで殴る。折れる。他のモップを掴み殴る。そしてまた折れる。

 よく見ると入り口のドアが破られている。あれがさっきのバリバリ音の正体……。なんて怪力なんだ。彼女はそんな奴から攻撃を受けて大丈夫なの……? 目線を向けると一応大丈夫そうには……心配そうにこっちを見つめる彼女の視線とぶつかった。

 青い一つ目は手をぶんぶんと振り回して、単調な——威力抜群そうな——攻撃を繰り出してくる。破った扉を武器に使われていないだけマシだと考えれば良いのか、武器がなくても一撃で死を与えてきそうな強さに泣けば良いのか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「直井さん逃げて、ここは僕が」


 蛇口に取り付けられたままのホースで水をかけて、注意を僕に更に向けさせる。


「ぐげギギャぎャアッ!」


 え? き、効いたっ!?

 水に弱いとわかった僕は、そのまま水をかけ続け何分か何十分か。長くも短くも思える時間が過ぎると、青い一つ目の姿はどんどん小さくなり、最期には溶けて消えていった。


 それにしてもアドベンチャーゲームの領分超えてない? 青い一つ目は消えてくれてよかったけど……命がけだなんて聞いていない。

 彼女は大丈夫かなと壊れた壁とドアは見えるものの、彼女の姿は——見つからない。まさか……と、悪い考えが過ぎる。

 ふにゅと柔らかい感じが急に僕の体を包んだ。柔らかくて温かくてほっとするこの感じは何だろうと呆ける僕。少女姿の直井さんに無言でぎゅうっと抱きつかれていた。この姿って姉妹に見えるかなぁ——という現実逃避——とか考えたりして。僕だってこれでも中身は男だから、この状況は良くないと思い直して、頭を撫でた後になるべく優しく引き剥がした。

 また何か音楽が聞こえだす。今までとは違うやや軽快なメロディライン。そこへクロネがででんっと胸を張って登場。


「ユイもなかなかやるね、仲間ゲットでクエストクリアだよ。次のお題は——」

「ちょっ、ちょっと待って! クロネ、仲間ってもしかして直井さんのことじゃないよね?!」


 泣いていて更に小さく見える直井さんを見る。僕の胸の辺りよりも下に頭がある。


「他に誰か()るかい? とにかくおめでとう」

「直井さんももしかして僕と……ワタシと同じゲームの参加者なの?」


 クロネは答えなかったけど、眼がそうだと言っているように光っていた。


「クロネ、改めて聞くけど。ここはゲームの中、ゲームの世界何だよね?」


 クロネは何も答えずワタシを見ている。それでも何か言って欲しくて、トイレから廊下に場所を変えつつも続けた。その間も直井さんはワタシの服の裾を掴み続けている。


「だからワタシはこんな女の子姿でいて、何だかわからないゲームをクリアしなきゃいけなくなってるんだよね? 直井さんもゲームの体験版をもらったの?」


 クロネも直井さんも答えられないという風に、何も教えてはくれなかった。自分で確かめろというようにクロネは次のお題を告げた。


「仲間も増えたことだし、その状態でもう一度生徒会室を訪れてみよう。そこで次のお題がわかるはずさ」

「唯人くん、がんばろ?」

「……ここではユイって呼んで欲しい」

「ならわたしのことはマナって呼んでね。よろしくユイちゃん」

「よろしく、マナさん」

「マナちゃんって呼んでよ〜」


 直井さん……もといマナさんも体験版を手に入れたのは()()()()()()()。ワタシはどうやって手に入れたんだっけ……?


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