第一章 コレって現実……?③
「校内中を歩き回って仲間を探すしかないの?」
「答えて良いのか悩む質問だね」
「じゃあ、せめてヒントぐらいくれたって」
「ダメだね」
それきりクロネは何をいっても聞き流してしまい、会話にならなくなった。このぐらいのこと一人で乗り切れよ、そういわれてる気がして意地になる。そっちがそうならこっちだって頼らずにやりますよーだ。
とにかく同じ階にずっと留まる必要もないだろうと当初の目的だった階段がありそうな方向へ向けて歩いている。
だけど、水道を探しに行った方とは逆向き。何となく違うところを探索しようと思った。……違う、この手形足形のない場所を探したかっただけかもしれない。異臭もしないことからだんだんこの光景になれてきている自分が怖くて。一度立ち止まり、目をぎゅっと閉じ頭を振る。嫌なことを頭から追い出すおまじない。そっと開けた目にはやはり血を彷彿とさせる異様なペインティングが入ってきた。この光景を怖いと思えるように戻った自分に安堵した。
そうすると逃げたい気持ちが良いアンテナとなって、階段の存在を脳に知らせてくれる。駆け出すように階段へと。
「はぁ……はぁ……」
そんなに距離がなかったはずなのに息が上がる。埃で汚れている以外、取り立てて問題のなさそうな壁に背をつける。唯一動かせる目だけで階段の様子をうかがう。目線をあげると見えた3/4の文字。どうやらここは三階だったらしい。
廊下に窓はあったけれど、手を触れる気にはなれず、かといって外をのぞき見ようとするには血糊の手形がびっちりとついていた。見れていれば高さで予測はついたかもしれない。そんな余裕もそんな考えにも達せなかったけど。
「え?」
ちょっと待って。いつの間に三階になんて来てたの? いつからココにいるの?
わからない。
ただパソコンの前でゲームをしていただけなのに、どうしてこんなことに……。そういえばあのゲームの体験版のタイトルって何だったかな。
「うっ……」
頭が痛む。さっきまでの疑問は大したことがないように思えてきて、そこで考えることをやめた。
四階は三階とは違って血糊のペイントがなく小綺麗に見える。
埃が積っていようとも血液が付着しているようにしか見えないような廊下と比べれば、ずっとマシだと感じた。落ち着きは大分取り戻しつつあった。そしてこれが夢かどうか考えることもなくなっていった。
ワックスがかけられたのは一体何年前が最後だったんだろう。そんな風に夢想させる汚れきった廊下を生徒会室を探しながら歩いた。
そう歩かないうちに埃をかぶり読みづらくはなっているけれど「生徒会室」と書いてあるプレートを普段の視界より上に見つけた。
また開かないんじゃと思いつつ扉に手をかけると、鍵はかかっていないようで軋みつつも開けることができた。
「…………」
クロネはさっきから黙ってワタシをじーっと見ているだけ。変なことでも色々と言われている方がまだマシだと思うワタシがいる。
「失礼しまーす……」
一応小声で入室することを示すと、
「何か用か」
と、ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
ワタシは思わず嬉しくなった。だから今までのことを相手のことなど考えず、一気に捲し立てた。助けを求めた。ひょっとしたら泣いていたかもしれない。
でも相手のちぐはぐな反応に流していたかもしれない涙はすぐに引いた。
「三階の教室の鍵? だったら隣の職員室にあるから勝手に取っていけよ」
ワタシは話し方が悪かったのと思い、訂正しようと一呼吸してから切り出す。
「そうじゃなくて、家に帰りたいんです。こんなわけのわからないところにいたくないんです!」
「三階の教室の鍵? だったら隣の職員室にあるから勝手に取っていけよ」
生徒会の人らしき学ランを着た男子学生はさっきと全く同じ言葉を繰り返した。
からかわれているのだと思い、ちょっと怒った口調で繰り返し訴えてみても同じセリフが返ってくるだけ。
「ユイ、そいつはNPCだからそんなに熱くなっても無駄だよ。さあ、三階に戻ろう。仲間を見つけよう」
クロネがまたおかしなことを……。と、思いながらも口を訊いてくれたことに喜びを感じる。同時に違和感も襲う。
NPC……?
ノンプレイヤキャラクターだって?
それじゃまるで本当に“ゲームの中”に‘い’るみたいじゃない!?
NPCって要は制作側が用意したプログラミングされたキャラクターってことだから、生身の人間じゃないってことだから……クロネは何を言ってるの?
でも……どう話しかけても同じ返答しかもらえないのは変わらない。結局クロネの言葉に従う形で三階に戻るのだった。
〜調和 lack harmony〜
まだいるの?
xxxの記憶。
中学校には最初は制服が嬉しくて行った。それまで私服だった僕にとっては大人になったと感じさせるアイテムで。
でも普通と違うらしい僕は、おもちゃになる。
女の子なら遊んだことがあるんじゃないかな? 着せ替え人形。
文化祭で悪魔を模したコスプレをさせられてからヒートアップ。
僕は女子のセーラー服をみんなの前で着せ替えられた。
笑うみんな。
その中で彼女だけが困った顔で僕の気持ちを理解してくれていた。
そこからは——。