最終話 現実の始まり
「ぜひ、お家で遊んでくださいね」
小悪魔な格好をしたお姉さんと別れた後、「唯人くん」と僕を呼ぶ声があった。直井さんだとわかったけれど、反射的に逃げた。そして信号は赤だとわかっていたのに僕は飛び出して、代わりに彼女が跳ねられた。
携帯電話を持っているはずなのに救急車を呼ぶなんてことは思いつかなくて、まわりにいた知らない人が救急車を呼んで、救急車が来たときに「君は恋人?」とかなんとか聞かれたけれど、首を振って、「ただのクラスメイトです」とだけ答え、救急車に直井さんが乗せられるのを見届けることなく、逃げ出した。
ゲームをしなきゃといつものように思考停止させて、帰路を急いだ。
【Switch Back〜転換〜】
このゲームは従来のアドベンチャーゲームとは違い、
RPGやサウンドノベル、ファンタジーといったさまざまな要素を持つ仕様となっています。初めてプレイされる方にも安心のサポート機能付き!(プレイをする方によって具現化するサポート機能は異なってきます。)
などなど……
——家に帰ると途端に疲労感と嘔吐感に襲われた。だって目の前で人が跳ねられて、血が、血が!!
体を引きずるようにそれでもトイレに精一杯のスピードで駆け込み吐けるだけ吐いた。まともなものなんて出てくるわけがない。こんな僕から……。
やっぱり外に出るんじゃなかったと考えた。(僕のせいで直井さんが)いやお姉さんにも会えたし(なぜか話せた)、きっとまだプレイ人数が少ない最新のゲームもゲットできたし(ネットでも見たことがない)、悪くなかったよ(悪くないどころか最悪だ!)、と記憶を上書きすることにした。
電源を入れたままのパソコンに体験版のDVD-ROMを入れる。ゲームを起動するとお決まりの注意書きがあった。
※本作は体験版のため、ゲーム進行やプレイヤーに支障をきたす場合がございますが、一切責任はおいかねますのでご了承ください。貴方の人生が変わりますよう、プレイをお楽しみください。
そして名前の登録画面が出てきて
【ユイ】と登録した。だって僕は唯我論的な考えで過ちを犯した。
ゲーム上でよくこの名前を使うのは戒めの意味もあった。意味はなしてないかもしれないけれど。
そこで意識は飛んだのか……? 眠ってしまったらしい。
僕は時間を確認するとあまり経っていないことがわかると、直井さんの家に電話をして病院の場所を教えてもらい急いで向かった。
直井さんの両親は久々に会う僕に優しくしてくれた。僕をかばって娘が跳ねられたというのに、無事で良かったと僕の心配までしてくれた。こんな僕より直井さんが助かるべきなのに……!
そう思っていると医者が出てきて「手術は大成功です」と言った。
僕は……直井さんに償うためにも頑張って生きてみようと決めた。
数ヶ月後
僕は今、退院したマナさんじゃない、愛とゲームショップに来ていた。僕は外に出るリハビリ、愛は体を動かすリハビリ。
「唯人くん、本当にゲーム好きなんだね。でも嬉しいな、また一緒にでかけられて。少しずつで良いから一緒にリハビリしよう?」
「うん。ありがとう、愛」
と、僕の方から手を繋いだ。
あのゲームはどの店、どの店員さんに聞いてもみつからなかった。家にもなかった。
でも、目の前にはあの黒猫が————
THE END.
【???】
初めましてが多いのかな。
僕にはどっちでも関係のないことだけど。
でも、君には関係があることじゃないのかな?
君だって疑似体験、既視感って少しは信じてるんじゃないかな?
あれは夢だっけ、現実だっけ
そう思うこと
あるだろぉォォォ!!?
さあ、これは君の夢なのか
どこかの誰かが記した物語なのか。
僕のことはクロネと呼んでくれればいいよ。
呼びたくなければ呼ばなくていいけどね。
唯人なんじゃないのかって?
僕は唯人であって唯人でなくて
君なんだよ。
ネコじゃないの? とかそういう頭の悪いことを言わないことを祈るよ。
僕にもわからないんだけど、君がどうしてこのセカイに紛れ込んだのか
君なんて……
とにかく君も僕も
イレギュラーな存在に違いないんだ。
この物語はもうオワッテイル。
お涙ちょうだいのハッピーエンドでもう終わったセカイなんだ。
まぁ唯人が僕やあの少女を思い出しても繰り返す可能性はあったんだけれど、少女の最期にしたい思いが掴んだ奇跡とでも言えば君は満足なんだろうね。
唯人は駄目な奴だよ。
何度も少女を見殺しにするし、挙げ句僕まで盾に使ったり投げたり、なんてことを駄目だなんて言ってるわけじゃない。
そんなのは大したことじゃないさ。
ツマラナイ人間に生まれ変わったから駄目なんだよ。
君みたいに多少はセカイを呪っている方が面白い。
バイバイ。