最終章 コレが現実③
〜希望 I was saved miraculously〜
少女姿のマナさんと二人きり。ワタシ、……いや僕より先にマナさんが口を開いた。
「ネコちゃんの言ったとおり、唯人くんは忘れちゃってるんだね……。この姿、覚えがない?」
泣きそうな顔で笑った。
「あ……」
小学生の頃の姿……、直井さんの小学生の頃の姿だ。
「横断歩道の話、好きだったな。……わたしはね、もう何度も唯人くんとこのゲームをしてるの。気が遠くなるほど長い間。唯人くんは覚えていないと思うけど……見捨てられたこともあるんだよ? でも今回は助けてくれたから赦してあげる」
何の話しか信じられないという表情がでていたんだと思う。
「信じられないと思うけど、このゲームの世界では本当なの。わたしはね、数え切れないぐらい繰り返すうちにココロが負けちゃったの。……この世界の住人になることでしあわせを手に入れようとして——」
「じゃ、じゃあ現実のマナさんは!?」
「唯人くん、唯人くんは知っているはず。ううん、覚えているはずだよ。唯人くんは目覚めなきゃ。わたしみたいに過去にすがっちゃだめ……。現実で叶えなきゃ」
僕は少しずつ思い出していた。
——久々に出た外でマナさんに出会ったんだ。
でも色々言われるのが嫌で「唯人くん」と名前を呼ばれでも止まらず逃げて……
道路に飛び出した僕を、マナさんは僕を助けようとして…………
撥ねられた。
僕は受け入れられず立ち尽くすのみ。
誰かが救急車を呼んで、僕は……逃げた。
「大丈夫だよ……唯人くんのせいじゃ……ないから」
ってマナさんは言ってくれたけど————
「ああああぁぁっ! 僕は……僕はなんてことを……身勝手に逃げた僕のことを! マナさんは気にかけて……声をかけてくれて……! そんな自分のことしか考えてない僕を助けてくれたのに!!!」
「泣かないで大丈夫だよ。思い出してくれてありがとう。これでわたしもこのゲームから解放される……」
マナさんはキラキラ光って粒子みたいになって……さらさら空気に溶けて——
「行かないで……僕は僕は……」
まだ謝っていない、という言葉は嗚咽でまともに言葉にならくて、もう触れられないマナさんを抱きしめようと手を伸ばした。
マナさんは最高の笑顔でもう一度、「大丈夫」と言って僕に口づけして消えた。僕だけを残して。
しばらくぼうっと膝を抱えて座っていた。頭が壊れそうだった。 むしろ壊れてしまえば楽になれるのに。
だめだ。
マナさんが命をかけて助けてくれたのに、僕がここでまたゲームの世界に逃げたらそれこそ本当に最低だ。僕は現実の世界に戻らなきゃいけない!
僕は全てを思い出し理解していた。これは僕のための世界だったんだ。マナさんもクロネも僕のために。
僕は僕の名前を呼んだ。
「唯人!!」
叫ぶように呼ぶとクロネが現れた。
「マナからすべてを聞いて思い出したみたいだね、もう一人の僕。さぁ、さようなら」
「さようなら、もう一人の僕」
と応えると、目の前が真っ黒になった————
目を開けると僕は病院にいた。手術室の近くのベンチに腰掛けて眠っていたようだった。
隣には直井さんの両親がいた。僕はなんて謝ったら良いのか、どうしたらいいのかわからなかった。
僕のせいで直井さんは……。
手術中のランプが消え、中から医者が出てきて簡素にこう言った——。