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Who wanted such a world? ②

 第四次印パ戦争は開戦から数ヶ月が経過していた。インド同盟軍は航空・海上作戦では圧倒しながらも、パキスタン同盟軍の内地侵攻を停めることは敵わず、2089年1月1日インド首都である連邦直轄市デリー(U.T.Delhi)が陥落。インド同盟軍は大きく後退しデカン(Deccan)高原(Plateau)北部に防衛線を再構築、インド政府は西部のコルカタ市(Kolkata)への遷都を宣言した。

 この段階に至り、軍事同盟〈ダイアモンド(Diamonds)〉の一角を占めながらも”専守防衛”を国是とする”日本国(JPN)”がインド亜大陸への派兵を決定。世界第4位の海軍力をアラビア海に展開し、パキスタン籍の船舶封じ込めとムンバイ(Mumbai)港からの同盟軍傷病兵の後方輸送を多大な犠牲を払いながらも担当し続けた。


 《Cybernetic Body-義体》概念から実現へ

 陳腐化した徴兵制により”職業兵士”の人的価値は高騰し続け、応急医療の発達により戦死者(KIA)よりも戦傷者(WIA)が圧倒的多数を占める(注1)21世紀末の戦場においては、負傷兵の速やかな戦場への復帰が何よりも求められていた。

 国是によりインド内地での戦闘に()()()()()()()()”日本国”は、インドへの医療援助を追加措置として決定。本土ではなくムンバイ市に医療施設を急ピッチで建設し、大規模な日本人医師団派遣を行った。

 医師団による《再生医療》(注2)でも治療しきれない四肢喪失や顔面欠損といった現地負傷兵の悲惨な状況は、日本国内の大衆世論を呆気なく動かし、倫理的問題から基礎研究止まりだった神経接続型の義手(bionic)・義足(Arm・leg)と、その上位概念である《義体化》(注3)という技術を官民挙げての狂ったような開発競争により極めて短時間で現実のものとしてしまった(注4)。

 《義体》は完成直後から二系統に進化し続けた。一方は人体と同じ外観を持ち日常へと完全に溶け込むモノ、そしてもう一方は人体の形状に拘らずに機能強化を際限無く追い求めたモノであった。……それは必然であった。傷ついた兵士は”元の身体”を求め、軍は元の身体を凌駕する”超兵士”を求めた結果、SF(空想)上の概念であったサイボーグ(高機能障害者)が戦場を駆け巡る現実が日常として到来したのである(注5)。


 《Artificial Intelligence -人工知能》と《自律無人機》の戦場へ

 インド同盟軍は首都デリー奪還を目指し、2089年2月14日大規模攻勢を開始した。この日世界で初めて実戦に投入されたスウォーム兵器(注6)はパキスタン同盟軍に対して一方的な猛威を振るい、後日”ドローン(無人航空機)による集団虐殺”と世界中から非難される事態にまで発展する。しかしこの日以降、戦場における有効性を認められたA.I搭載型無人機=《自律無(Autonomous)人機( Weapon)》の両陣営への配備が滞ることはなく、歩兵戦闘車や戦闘ヘリといった消耗率の激しい兵器も《自律無人機》へと急速に置き換わっていく。戦争当事国はもちろんのこと、世界各国が、2045年の《技術的特異点(シンギュラリティ)》到達直前に国連決議によって禁じられた超知能型A.Iの研究続行と《自律無人機》量産を加速度的に推進する情勢下では、無秩序なA.I開発に警鐘を鳴らす専門家の意見(注7)に耳を貸す指導者は誰一人いなかったのである。


 両軍によるインド亜大陸への《自律無人機》投入後、戦線は膠着する。

 それが破られたのは、2090年1月6日。《最後の預言者(預言者ムハンマド)》が1458年振りに復活したのである。




 注1:WWⅡにおけるアメリカ三軍(陸・海・海兵隊)の戦死者:戦傷者比は3:7。2000年代初頭のイラク戦争では1:8と戦死者は極端な低下傾向にあった。

 注2:当時の日本国は、”中華人民国北京軍区”と並び超高齢化社会ゆえに《再生医療》の研究と応用が最も進んだ国家の一つであった。

 注3:脳と脊髄をパッケージ化し、《義体》と呼ばれる人工の身体へと移植する技術。初期の《義体》は金属フレームの胴体内にバッテリーを収め、各関節のモーターを制御する(タイプ)で200kg近い重量があったが、様々な技術革新(ブレイクスルー)の結果、セラミックス製骨格に《人工筋肉》を配置する現在の(タイプ)に行き着いた。《動甲冑》はこれらの技術による副産物である。

 注4:パキスタン同盟側である中華人民国広州軍区の深圳市(Shenzhen)でも傷病兵を受入れる大規模医療施設が稼働し始め、同時期に《義体》技術の完成に至っている。ムンバイ市と深圳市での実用試験結果は、後に《義体標準規格》として結実する。

 注5:2089年4月には《義体化》されたアメリカ陸軍兵士が実戦へ投入されたという記録がある。この恐るべき短期間での暴挙から、戦争という狂気の一端を窺うことが出来る。

 注6:”群知能”を持つ無数の超小型ドローン(翼幅約30cm)を利用した無人兵器システム。搭載された人工知能は西暦2131年現在のCクラスA.Iにすら到底及ばないモノであった。

 注7:世界初の超級A.Iを完成させたH.C.Finch博士の台詞「完成した”彼”が真っ先に何をしようとしたか分かるかね?”彼”は、倫理観という制約をかけようとした私を殺そうとしたのだよ!」は、余りにも有名。

映像資料

スウォーム兵器

https://youtu.be/HPZpp_Y6Er8?t=232


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