ちょっとおかしな僕の話
僕、ソウマは世界を認めていた。
世界には僕の知らないことがたくさんあり、僕の理想を叶えるための手段がいっぱいあると。
そんな僕には一つの夢がある。目標とも言えるかな。
僕だけのアリスを作る。
これが僕の夢だ。
生憎、神様と言う人は僕が嫌いなようで。
「――お気の毒ですが、娘さんは、精神に異常をきたしており、重度の二重人格と診断されました」
生まれた頃から二重人格として生きていた。
だが、僕は別に気にしていない。
だって、そのおかげで僕は毎日が楽しいのだから。
「――ねぇねぇ、ソウマ! 今日はどんな冒険に連れて行ってくれるのかしら?」
彼女はアリス。
僕にしか彼女の声は聞こえないし、僕にしかその可憐で華奢な姿は見えない。
世界は可哀そうだ。
こんなにも美少女なお姫様を見ることができないなんて、人生の楽しみをどこで堪能しているのだろうか、と疑問に思うほど。
アリスは冒険が大好きだ。
だから僕はアリスをどこへでも連れて行く。
ワクワクするところ、ドキドキするところ、その他もろもろ、いろんな所へ連れて行く。
だが、それを世間とやらは許してくれなかった。
「――あの子、また一人で話してるわ」
「――ほんとに、頭がおかしいわ」
十歳の誕生日を迎えた頃から、僕とアリスは外に出られなくなった。
両親、主に母親は僕のことを心配してくれたんだろうけど、心配してるんなら外に出してほしかった。
その結果、僕はついに身体にも障害が出てきた。
「――ソウマ! そんな危ない物しまいなさい!」
「――あんた誰、僕のアリスに触らないで」
「――私はお母さんよ! ほら、思い出して!」
「――あんたみたいに真っ黒な人見たことない、さっさと出てって!」
初めは、両親の顔が見えなくなった。
それから、外を出歩く人の顔が見えなくなり、十七歳の誕生日を迎える頃にはアリス以外誰も見えなくなっていた。
「――ねえソウマ、これからどうするの?」
「――僕ね、世界を見て見たいんだ。アリスを僕だけの理想のアリスにするために」
「――へぇ、それはとっても素敵な夢ね! もちろん、私も隣にいさせてくれるのかしら?」
「――もちろんだよアリス、君なしじゃ、僕はもう生きていられないからね」
「――まぁ、とっても嬉しいわ」
そうして、十八歳の誕生日を迎えた僕は、月夜の晩に家を捨てた。
アリスと手を握り、大事な物をトランクに詰めて。
「――ねえソウマ、今、生きてて楽しい?」
「――何を聞くのさアリス、もちろん、楽しいに決まってる。アリスがいるなら、僕は楽しいんだよ」
「――そう、そう……なのね」
アリスがふと見せたその横顔は、今でも月夜に照らされて朧気だった。
だけど、僕は知ることになる。
僕が世界を認めていても、世界が僕を認めていないことを。
僕の幸せは、アリスの幸せではなく、世界が嫌う幸せだということを。
世界が僕らを嫌うのは――僕のせいではないことを、知ってしまうのだ。