散歩
ほぼ一週間ぶりの投稿となりました。毎日投稿を頑張りたいのですが、なかなか難しいですがなんとかやれたらなと思っています。
翌日の昼過ぎにメフィストフェレスは約束通り、牢獄から出してくれた。ただし、厳重な枷をつけて。
「似合っているよ。プリンセスにふさわしい装飾品だ」
小気味よく笑うメフィストフェレスの声にいらだちながら、自分の格好を改めて見る。走りにくくする足枷、手を自由に動かすことを阻止する手枷。ここまではいい、私でも納得できる。
「これは何かな、メフィストフェレス?」
首回りが拘束され、違和感を覚える代物―――首輪である。その上、ペットを散歩に連れて行く時に使うものといていて、リードまでついている。もちろん、そのリードは目の前の悪趣味男の手に握られている。こんなの、絶対に注目の的になる運命だと一目で分かる。私だったら、二度見するかもしれない。
「君は囚人だろう?これがなきゃ逃げ出しそうだからね」
と、いいながらリードを見せつけるように揺らす。
「いつか、仕返ししてやる」
「ここから出られら、考えてあげてもいいよ」
生まれ変わったとしてもこの悪魔とは仲良くなれそうにない。
「俺のことはローエンと呼んでくれ。今の名前さ。メフィストフェレスなんて呼ばれていたらみんな驚くだろうし、そう読んだら君が極刑ものさ。この忠告だけは素直に聞いておいた方が身のためだ、リリス」
牢を出る前に念入りに注意された。
♢♢♢
予想通り、注目の的だった。
巡回中の兵士や仕事中のメイド、はたまたコックまでこちらを凝視していた。そして、みんな口々に言ったのだ。どうして王子が囚人を連れ回っているのか、と。けれど彼は飄々としながら、この子が図書館に行きたいって言うからつれていくだけさ、と答えていた。
「ローエンって王子だったの!?」
人の通りが少なくなった廊下で耳打ちをする。
「正しくはローエングリンだけどな。リリスに言っていなかったっけ?」
「聞いていないよ」
ヨハンよりも位が高いとは言っていたけれど、まさか王族だとは思わなかった。そもそも王子様があんな牢屋に来ていいものか、という半分くらいあきれと諦めが混じっている。この男なら、自分のしたいことのために生きるだろうから当たり前と言えば当たり前の行動のように思える。
「これで俺の正体が全部君に知られた、ということになるな。というわけだ。リリスと前世のように呼ぶのもいいが……ここは一つ、君の今の名前くらい教えてもらっても罰は当たらないだろう?」
嫌みたらしく口角を上げるローエンは、私の顎に指先を添えてくいっと持ち上げた。仲良くなれない悪魔とは言っても、憎らしいほどに顔だけは整っている。だからこそ、動揺しないものにも動揺してしまう。けれど、愛すべき後輩が名付けてくれた大切な名前を口にすることは忘れなかった。
「ガーベラ」
「もう一度言ってごらん。あまり聞こえなかったな」
目の前にいるのだから、聞こえなかったらよっぽどの難聴か頭のネジが数本緩んでいると思う。
「聞こえていたでしょ、ガーベラよ」
ローエンは何度か小さく『ガーベラ』とつぶやき、その名前を飲み込んだ。
ローエンに連れてきてもらった図書館はとても立派だった。中央の受付があるエントランスが吹き抜け構造になっていて、5階建ての建物が一つの空間を共有している。ローエン曰く、これは一部に過ぎず、大半は地下書庫に眠っているという。生まれた国の図書館には入ったことがなかったし、そもそもこの世界に転生してから本をまともに読んだのがあの牢なので、興奮がすさまじい。
枷をしているので、ローエンには渡しの手足として動いてもらうことになった。この大量の本からお目当ての本を見つけるのは相当に苦労しそうだ、と取り組む前から弱気な気持ちになってしまった。
思っていたよりもローエンはきちんと動いてくれた。てっきり放置されるものかと思いきや、一応は囚人、目を離されることはなかった。
「お目当ての本だったか?」
片っ端から転生についてや記憶保持についての内容が書かれた本を読んでいったけれど、いまいちピンとこない。著者たちが頑張って書いているのは分かるのだけれど、どれも結局の所憶測に過ぎない。そして、そろいもそろって二つの前世の記憶持ちに関しては言及さえされていないのだ。これでは完全にお手上げ状態である。
「全然お目当ての本がない……」
私は図書館の閲覧室で大量の本に囲まれながら頭を抱えた。
「息抜きしないか?」
頭を抱えている私をローエンはのぞき込んだ。
「息抜き?」
「この城には王族専用の庭園があるんだ。頭を休めないと、見つかるものも見つからないと思うんだが」
この誘いを私は受け入れた。このあとに思いも寄らぬ人との再会で、即堕ち2コマ展開()になるとも知らずに。
ラストの即堕ち2コマ展開()ですが、そういう方向にはならないですよ?次の話でお話の主軸となるメインキャストの皆さんが出てくる予定です。正直、ヨハンの思い出すシーン、ローエンのお散歩()シーン、次の話に出てくる人との出会いのシーン、そしてある意味のラスボスさんとの交流を書きたくて書き始めた話なので……頑張って書いていきます!