つよさ
俺は話を終えて同行することになった女の子とともに砂浜で遊んでいるハルの元へ戻った。
「ジルさーん!お話、終わりました? あれ?その人は誰ですか?」
「ええと、ここの村の人が困ってるらしくてね。外れにある森まで魔物を退治しに行くことになったんだよ。そこで、この、えーと、まだ名前聞いてなかったね」
「イゼリアよ。この魔物退治に同行させてもらうわ」
うーむ、名前を聞けば知っている人物かと思ったがやはり思い当たりがない。
やたらとツンツンしているこの性格ならば一度ゲームで見れば覚えるだろうしなぁ。
「イゼリアさんですね!私はハルです! よろしくお願いします!」
「あなたの子ども?」
「ぶっ!?違うよ!?」
イゼリアの言葉に思わずうろたえる。
「え、自分の子どもでもないのになんで一緒に? 勇者のくせにそういう趣味が...」
「違う違う!その勘違いは本当に危ないからやめてくれえええ!」
◇
「ふーん、そういうわけで。どちらにしろ、私にとってはどうでもいいけど」
俺は必死に説明した。懇切丁寧に1から10まで。
こんなに緊張した説明は、重役前で行った新規商品プレゼン以来だ。
「と、とりあえずわかってくれたならそれでいいんだ」
「ジルさん、汗がすごいですけど...」
「だ、大丈夫...」
俺はハルに微笑みかける。おそらく力のない笑みだが。
「それで、勇者のあんた。ジルとか言われてるわね」
「あ、ああ、なにかな」
「私、魔法使いなの。救世の旅とかいう御大層なことされてる勇者の強さを測らせてもらいたいの。それを達成できるだけの強さが本当にあるのか気になるの」
強さを測る?どうやって?というか魔法使いであることと、強さを測ることに関係はあるのか?
頭の上に?が飛び交う。
「なによ、ピンと来ていないのね。ラシルブ知らないの? これを、人にかけると数値化された「つよさ」がわかるのよ」
「ラシルブで?」
ラシルブは知っている。宝箱の前で唱えるとその宝箱に罠が仕掛けられているかわかったり、道具や装備に対して唱えると隠し効果を持っているかどうかがわかる、物を調べる呪文だ。
しかし、人にかけることができるのは初耳だ。
そもそもグランワールドは主人公だけの一人旅だ。主人公の「つよさ」はメニューで見ることができるわけだし、誰かに対してかける機会なんかない。
「いまいちわかってないようね。じゃあ、私で試しにやるから見ていて」
イゼリアはローブの中から先端に宝石が埋め込まれた杖を取り出す。
そして自分の頭上で杖をふって呪文を唱える。
「ラシルブ!」
すると、光る文字が空中に走り始める。
その文字は俺がゲームで見ていたメニューの文字と一緒だった。
イゼリア
Lv 19
HP 55
MP 58
ちから 25
まりょく50
まもり 31
はやさ 34
センス 44
文字が走り終えると空中にイゼリアの「つよさ」、つまりステータスが表示される。
「どう?私、まだ17だけどその辺の兵士や傭兵よりは全然強いのよ。救世の旅をされている勇者さまはどうかは知らないけどね」
得意げに自分のことを語りつつも、俺のことを明らかに敵視してイゼリアは言った。
会って間もないから敵視されるようなことをしたとは思わないが、イゼリアには俺を敵視する理由があるのかもしれない。
「失礼ですよ!ジルさんはすっごくお強いんですよ!このあたりの草原の魔物だって傷1つ負わずに一撃で倒しちゃうんですよ!」
「このあたりの魔物でそんなこと言われてもねぇ」
「むー!」
ハルはイゼリアに対して抗議するがあしらわれてふくれっ面になる。
「ハル、ありがとう。でも大丈夫だよ」
まあ、多分、結果はわかっているから...
「じゃあやるわよ。ラシルブ!」
ラシルブをかけられ、空中に文字が走り始める。
やがて、全てのステータスが出てくる。
ジル
Lv 50
HP 255
MP 99
ちから 255
まりょく255
まもり 255
はやさ 255
センス 255
「は?」
俺の予想通りのカンストステータスと、予想外であったであろうイゼリアの間抜けな声が宙に浮いた。