堂々として
大聖堂の中に入って俺たちはすぐに異変に気付いた。
街中からこの大聖堂に出入りしている人を何人も見ていたのに、大聖堂には人影がまったくなかった。
「嘘・・・どうなってるの?」
イゼリアが薄暗い聖堂内を見渡し、人影を探す。
そのそばでユミナがなにやら考え込んで、俺に近づいて聞いてくる。
「ねえ、この状況ってジルが知っているものなの?その、ゲームっていうのかな?それの展開と」
なぜ俺にそんなことを、と俺は思ったが、そうか。
俺が既に知っている出来事であるかどうかが重要なのだ。
「いや、こんな状況は俺は知らない。だから、この世界にとっても俺の世界としてもこの状況は異常だ」
地下には魔王城があるとはいえ、大聖堂内は特に異常などなく、普通に人も存在したはずだ。
実際、俺が今装備している「せいなるゆびわ」もここでもらうはずだ。
しかし、この空間には、俺たち以外の気配を感じない。
まるで人なんて最初からいなかった空間として作られたものであるかのような。
「っ!」
突然、目の前にいたハルが頭をおさえる。
「どうした!? ハル!?」
ハルは大聖堂の奥を指さす。それは、ゲーム内で魔王城へとつながっている隠し階段の場所だった。
「あそこから、さっきすごく嫌な気配を感じました」
魔王城から来るということは、魔物か!?
<思ったよりも早く気付かれたね。さすがは王族だ。ま、どのみち僕から挨拶するつもりではあったけどね>
その時、頭の中で声が響く。
この声は、アラドか!
響いた直後、薄い霧が辺りを満たし、それは次第に人の形を作る。
その姿は、アラドだった。これは、幻影というやつだろうか。
幻影のアラドは薄ら笑いを浮かべ、俺たちの目の前に立つ。
<出迎える準備が終わってね。それを伝えに来たんだ>
それを聞いたイゼリアが前に出る。
「準備ですって!? どういうことよ!」
<言葉通りさ。今まで僕は準備をした上で堂々と君たちと戦わなかった。それを恥じていてね。僕は準備を終えた。あとは君たちが万全の準備をして正面から堂々と来ればいい。そしたら今度こそ気持ちのいい戦いができるというものさ>
正々堂々の勝負をしたいから?本当にそんな目的で俺たちのところにわざわざ幻影となって来たのか?
信用はできないが、今のアラドの態度には今までになかった自信に満ちているのがわかる。
どちらにしろ、警戒が必要だ。
<それでは、存分に準備をしてきてくれ。それでも僕には勝てないだろうけどね>
そういうと、アラドの姿は徐々に空間から消えていく。
気が付けば、俺たちは人が往来する聖堂内の真ん中に立っていた。




