ハルの決意
「君たちが僕へ対策をしているなんてわかり切っていたからね。だから、その内容を知るためにもわざと通る方法が別にあるなんて言って君たちの危機感を煽った。不安になった君たちはまんまと例の霧まで来てくれてこんな場所まで来てくれた。僕は君たちの後を追ってここまで来たというわけさ」
アラドはニヤニヤと底意地の悪い顔を見せながら俺たちに語る。
「し、しかし、拘束の魔法陣には確かにかかったはず...!」
フィアナ王女の言葉をアラドは一笑に付す。
「見えているものだけを信じるのは甘いですよフィアナ王女さま。あれは魔王からもらった力の1つによって作り出した僕の分身です」
分身...!魔王からもらったって...
最早この男は建前としても勇者として見ることはできない。
アラドの額には目玉があった。
この男は、魔王の使いだ。
「ご理解いただけましたか?それでは行きましょうか」
アラドの手がフィアナ王女へ伸びる。
俺は、すぐさま駆け出しフィアナ王女の前へ立ってアラドへ剣で斬りつける。
「ダメですジルさん!それはアラドさんじゃありません!」
ハルが俺に叫んだ時には遅かった。
俺が斬りつけたアラドは煙のごとく消え去る。
「見えているものだけを信じるのは甘いと先ほど言ったはずだよ」
気づけば、俺の背後へ回り込んだアラドがフィアナ王女を掴んでいた。
しまった、これも分身か!?
「君には、様々な屈辱を晴らしてやりたいけど今回は王女さまをお連れするのが仕事だ。僕はもう行くよ。勇者にはやることがまだまだあるからね」
アラドが光に包まれ始める。
俺はすぐにフィアナ王女へ手を伸ばす。
「させんぞ坊ちゃんよ!」
「行かせない!」
「あたしもいるんだよ!」
「お母さん!連れてかないで!」
エラクス、イゼリア、ユミナ、ハルも必死にアラドへ駆け寄る。
アラドは光の中から心底見下した目で俺たちを見た。
そして、俺の手は空しく空を切る。光の中にいた2人はとうに消え去っていた。
「お母さん...う、うわああぁぁぁ」
事実を受け止めきれないハルが絞るような声で泣き出す。
久しぶりに母親に会えたっていうのに、すぐにまた離れ離れになって、しかもこんな別れ方だなんて...
俺は伸ばしていた右手を悔しさのあまり、強く握りしめる。
「ハル...」
俺はハルの頭に手を置く。今の俺にはこんなことしかできない。
アラドによってもたらされた緊張した空気は、アラドによって鉛のような重さの空気へと変貌した。
「あんの野郎、いつの間に転移魔法なんて...」
エラクスが拳を震わせながら言う。
おそらく、勇者のみが覚えるというシフトの魔法だろう。これだけは勇者のみが覚えるとされる魔法で一度行った街や村なら瞬時に移動できるという魔法だ。
エラクスが知らないのも無理はない。
...一度行った場所?
俺はロレドニアまでの街と村を思い出す。
「誰か!世界地図持っている人はいないか!」
俺は思わず周りへ叫び出す。
「こ、こんなときにあんた何言い出してるの?」
イゼリアが少しイラついた口調で俺に言ってくる。
「もってるよ」
ユミナがイゼリアを手で制して、俺に世界地図を渡してくる。
俺はそれをすぐにその場で広げる。
地図の内容は...説明書に付いているのと一緒だ!
そして俺は、ロレドニア以降のシフトで飛んでいける場所を手でなぞる。
アラドの状況を考えると、恐らくここだ。
聖王が鎮座する場所、オルディネ大聖堂だ。
「アラドは、オルディネ大聖堂にいると思う」
「な、なにを根拠にそんな!」
イゼリアが反発する。しかし、ハルは地図をじーっと見つめてこくりと頷く。
「私も、そうだと思います」
「ハルも!?どうしたっていうの!」
ハルは泣いたのがよくわかるほど真っ赤な目をしていた。
しかし、今のハルの目からは強い光を感じた。
「もう一度、お母さんを迎えに行きます。もう、待っていたくはありません」
そのハルの言葉に俺は強く頷いた。
「ああ!行こう、オルディネ大聖堂に!」




