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旅立ち

「私を救世の旅に連れて行ってください」


「なぜ、そんなことを...」


「私のお母さん、今はいなくて私がここで待っていることはさっき言いましたよね」


俺は頷き、ハルの話に耳を傾ける。


「実は長い間、お母さん帰って来ないんです。仕事だって言って私を預けていきました。それから、ずっと会えていないです...私が8歳のころだったのでもう2年になります」


そんなに長い期間、母親と離れているのか。まだ子どものハルには、辛いだろうな。


「ここの宿屋のご夫妻や村の人たちも良くしてもらっています。でも、私はやっぱりお母さんに会いたい!会いたいんです!助けてもらったジルさんにまたお願いするのは失礼だとわかってます!それでも、どうか私を旅に連れて行ってください!」


ハルの必死な訴えに俺は面食らう。相当に寂しかったのだろう。訴えかけているハルの目には涙が浮かんでいる。その様子を見て、俺は承諾しそうになる。


「ごめんね、連れて行くことはできない」


「やっぱり、ダメ...ですか...」


俺はハルの目を見て深く頷く。

この先、俺の旅路がどうなるかはわからない。この世界もまだ来て間もないからどういったことがあるかなんて尚更わからない。だが、危険な旅にはなることはわかる。

そんな不確定で危険な旅にハルを連れて行くことはできない。


「ごめん、でも俺が旅の途中でハルのお母さんに会うかもしれない。その時は真っ先にハルに教えに戻ってくるから。それじゃあ、ダメかな?」


ハルは無言で俯いたまましばらく考え込んでいた。簡単に納得するのは難しいだろう。

でも、わかってほしい。


「お母さんの名前はメリル、王都ロレドニアで魔法の研究をしていると宿屋の人に聞きました」


「ハル...」


「お母さんのこと、よろしくお願いします!」


ハルは頭を深く下げる。


「ああ、任せてくれ」


「...はい」



話が終わり、ハルは部屋を出た。

出る時にハルの顔は曇ったままだったのが気がかりではあるが、わかってもらえたようだ。


早いかもしれないが明日にはこの村を出よう。

この世界に来てやらなければいけないことができた。できるだけ早くハルを安心させたい。


そうと決まればもう寝てしまおうか。

明日の準備もしておこう。装備品をポーチの中から取り出して、立てかけておいた。


ついでに、俺はポーションを取り出す。これの味が気になってしまい、俺はつい手にとってしまった。


液体の色は緑色で、見た目は綺麗だ。

俺は蓋を開けてグイと飲んだ。


これは...質の悪いチューハイという表現が当てはまる。甘い味の中に薬くささがあって、低い品質のものを飲んでいる感じがありありと感じてしまう。これで本当に回復できるのか?


うーん、当たり前だがこれはあまり味を求めて飲むものじゃないな。


まあ、1つわかったからいいだろう。俺は瓶を置き、寝ることにした。



翌朝


「本当にもう行かれるのですか?」


「はい、一刻も早く自分の役割を果たしたいので」


「そうですか、それならば仕方がありません。ハルも勇者さまにお世話になったようで、本当にありがとうございました。またいつでもお立ち寄りください」


「はい、そうさせてもらいます」


村長さんと話し終わって周りを見渡す。ハルの姿はない。


「世話になっというのに見送りもせずにハルはなにを...申し訳ございません、私の方から叱っておきますので」


ハルも、色々と思うことがあるんだろう。


「いえ、お気になさらず。それでは、ありがとうございました」



カマクの村を旅立ち、俺はネタスの村へ向かう。


草原の魔物たちは「ゆうしゃのけん」の前に成すすべなく真っ二つになっていく。

この調子なら順調に歩みを進められるな。


まずは王都をめざ...


「だ、だしてくだーさー」


!?

なんだ!?いきなりどこかから声が!?



するとポーチが勝手に動き出す。どうなっているんだ!?


おそるおそる俺はポーチを開けた。

開けた瞬間、なにかが飛び出す俺は腰を抜かす。


しかし、それをよく見ると知っている人物だった。


「ハル!?」


「いてて、出ることができてよかったですー」


「なんでポーチの中になんかいたんだハル!?」


「私、ジルさんに食事を持っていこうと戻って来ていたんです。そこで、明日の支度をしているジルさんがポーチの中から入りそうにない装備品の数々を出しているのを見たんです」


しまった。見られていたのか。


「最初は信じられなかったです。でも私、思いついたことがあって、このポーチに入ることができれば気づかれることなくジルさんについていけるって。だから、ジルさんが寝たところにこっそり入ったんです」


「それで...」


そんな無茶をしてまで俺に着いてきた理由はまず間違いなく...


「ジルさん、改めてお願いします!私も旅に連れて行ってください!もう待っているのは嫌なんです!」


そうだろうな。それほどまでにハルはお母さんに会いたいんだ。

俺は覚悟を決めた。


「そこまでするのなら、わかった」


「本当ですか!?」


「ただし、危ないと思ったらすぐに戻ること。それに、俺の目の届くところにいつもいるようにしてくれ」


目の届く範囲であればなんとか守れるかもしれない。また断って無茶をするよりはマシだろう。


「はい!」


満面の笑みでハルは元気いっぱい返事した。


こうして俺はハルとともに王都ロレドニアを目指して旅をすることになった。

こんな展開もちろんゲームにはない。


先は見えないが、せめてこの子だけは守ろうと俺は心の中で誓った。


次に向かうべきは、ネタスの村だ。


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