奪いし力
「勇者って、ジル!?」
イゼリアが立ち上がる。
フィアナ王女はイゼリアを手で制して否定する。
「いえ、ジルさんがこの世界に来る前から存在していた勇者、救世の旅などと虚偽の銘文を掲げて人々を騙し続ける偽りの正義です。彼の名はアラド」
やはり、俺がトウシンで出会った元々いた勇者のことを偽りの正義であると指し示していたのか。
「アラドは魔王と手を組みました。アラドは魔王を倒すことで名声を、魔王は名声を得たアラドを裏から支配することで世界を思いのままに操ることの契約を交わしました」
「ねえ、アラドは名声が欲しかったみたいだけどさ。そもそも勇者っていう大層な称号があるのにそんなことまでして望むものなの?」
ユミナが顎に手を当てて言う。
俺も、これだけ回りくどいやり方をしなくても名声なんてのは既にあるものばかりと思っていた。
「そうですね。その勇者が本物であるのなら名声など望まなかったのかもしれませんね」
に、偽物!?
およそ勇者らしい人物ではないと思っていたが、偽物ってどういうことだ!?
俺は問いかけるようにフィアナ王女を見つめる。
「アラドは自分の友人であった本当の勇者の力を吸い出して強引に勇者へとなりました。そのような方法でなったために、勇者という称号を褒め称えられても自分のことのように感じられず自分を褒め称える名声が欲しかったのかもしれません」
フィアナ王女は悲しげに語る。
「この目の力は、過去をも見通せます。アラドの過去には、友人への嫉妬の感情が常にドス黒く渦巻いているのが見えました」
「その目って、ハルも持っているのですよね?」
「はい。アラドと魔王はこの力によって見通せられることを恐れています。だから、同じ力を持っているであろうハルももしかしたら狙われるかもしれません。私は、まだ力を発現していなかったハルならば見つからないと考えてハルを連れていくことはしませんでした」
そうか、だからハルは詳しい事情も聞かされずにあの村で残っていたのか。
「アラドは勇者の力を吸い取ることができたように私のこの目の力も奪うことができます。アラドはいずれ私を追ってここに来るでしょう」
フィアナ王女の力を勇者が手に入れる…?
そこで俺は気づく。なんてことだ。なんで気づかなかったのか。俺がゲームを操作していた物言わぬ主人公。あの主人公こそ、この世界にいるアラドだったんだ。つまり、俺がゲームで追っていた勇者の物語は偽物の勇者の物語だった。




