接近中
「う、ううん。はっ!?」
俺は馬車が揺れる中で目を覚ました。
出発して、ユミナと馬を引く役を変わったのは覚えている。しかし、出発してからすぐの記憶がない。
「寝ちゃってたか...」
「随分長いこと眠ってたわよ」
イゼリアの声が俺の頭上からする。なんで頭上...? それに、馬車は木製で硬い床の上で寝たはずなのになぜか柔らかい感触がする。
俺は上に目を向けて気づいた。イゼリア、膝枕してくれたのか!?
「えっと、イゼリア?どうして俺にこんな...」
俺も男だからもちろん嬉しいとかの感情が強かった。でもそれ以上に、俺との接触に慣れていなかったイゼリアがこんなに密着させるようなことをして無理をしていないか心配な気持ちが勝ってしまった。
俺が高校生くらいだったらもう少し、素直に楽しめたのかなぁ。
「べ、別に、特別な意味はなくて、あんまり寝てないだろうから、移動中でも眠れるようにできることしようと思って。そ、それに...少しでもあんたと近づくの慣れてみようかなって」
イゼリアの顔は真っ赤だ。そうか、俺のためにがんばってくれたんだな。
かなり寝てしまってたみたいだし、これ以上無理することもないだろう。俺は起き上がる。
「ありがとう。おかげでよく眠れたよ」
「そ、そう。それならよかった。ま、また寝たくなったらいつでも、大丈夫だから!」
力みながらもイゼリアは腕を広げてさあ、来い!と言わんばかりに構えた。
「しばらくは大丈夫だよ。だからイゼリアも楽にしていたらいいさ」
そう俺が言うとイゼリアはプシューっと空気の抜ける風船のように力を抜いていく。
「というかハルは?ハルも俺と一緒であんまり寝てなかったような」
昨日はいつもより夜が更けた後で寝たから、一緒にいたハルも寝ているかと思ったが姿が見当たらない。
「わぁぁぁ!」
「うわああああ!?」
背後からの大声に俺は飛び上がる。心臓も飛び出すかと思った。
「えへへー!大成功です!」
振り向くとピースサインしているハルとそのまた後ろでユミナが後ろを向いて同じくピースサインをしていた。これは、2人の仕業か...
「ハル、起きていたのか?」
「私は早起きさんなのです!」
エッヘンと胸を張る。感覚的には結構深夜に寝たんだけどなぁ。俺よりも早く起きて元気いっぱいだ。子どもってすごいなぁ。
「私がハルを膝の上に乗っけといて、ジルからは見えないようにする。んで、ジルが起きた時を狙ってハルが背後から驚かす。シンプルながらも完全な意識外からの強襲はびっくりしたでしょー?」
ユミナが嬉しそうに今回の作戦を語った。
トウシンでも思ったことだけど、ユミナってサプライズとかそういう人を驚かすことが好きだよなぁ。
「もう!ハルがユミナの方に行った時、変だなって思ったら!」
イゼリアはハルとユミナを叱る。
だが、ハルとユミナはお互いに作戦の成功をたたえ合っていてイゼリアの言葉なんてどこ吹く風だ。
「ゆっくり休ませてあげなさい!ジル、よ、よかったら...も...もう一回休む?」
イゼリアは散々悩む様子を見せながらも最終的には覚悟を決めたようで、またさっきみたいに全身の力を入れて腕を広げ正座をする。
こ、ここまでされると断りづらいな...
「え、えーとそうだなぁ、ん!?ペネリート山に着いたぞ!」
どういう答えをするべきか悩んだ俺は何気なく外の景色を眺めた。すると、ペネリート山がもう目の前にあることに気がついた。
イゼリアもユミナもハルも前の方に目を向ける。
「へーこれが。お、傾斜はそこそこきついけど道幅は広いから馬車で行けそうだよ」
ユミナが言った通り、馬車でも道幅が余るくらい、山道は広い。
ゲーム内でもそんなに道幅が極端に狭くなることはなかったから大丈夫だろう。
そもそも、ここの中間地点にはゲーム側が補給地点として村があるし、王都への道は基本的にこの山を越えていくしかない。そんな山なら道を通りやすくするために人の手はそれなりに入ってると思いたい。
とにかく、次に目指すはこの山間部にあるマヤマ村だ。
俺たちはゆっくりと山を登り始めた。




