砂漠を抜けて
「おおーこれは楽だね」
ユミナが馬車の中で寝転がる。馬車の中は砂漠の殺人的な日差しを避けることができて快適そうだ。
俺は、馬車を引いているから、どのぐらい快適かわからないが。
「ジルさん!無理したらダメですよー!」
ハルが馬車の中から顔を出して俺の様子を心配する。
俺は笑って大丈夫だと手を挙げて示す。
「あんた、一人旅をしていたのに馬車なんて引けたのね」
「いや、引いたことなんてなかったよ。ただ、パトロンが賢くていい子なだけだよ」
イゼリアが褒めるが、実際は俺が言ったようにパトロンによるところが大きいだけだ。
馬車をもらって嬉しいことは事実だった。だけど、引ける人がいないことに俺は気づいた…
ハルはもちろんのこと、イゼリアは引けたとしてもまた砂漠の日差しを浴びさせることは避けたかった。
残るはユミナだが、引けたとしてもトウシンからペネリート山まではかなりの距離がある。
1人に任せるのは荷が重いだろう。俺は頭を悩ませた。
すると、ターグさんがこの馬は人に懐きやすく、馬車を引いたことがなくても引くとこができるだろうと言ってきた。俺は半信半疑だったが、試しに少しだけやり方を教えてもらって馬車を引いてみると本当に簡単に引くことができてしまった。
ターグさん曰く、パトロンは特に人懐こいのもそうだが、頭も他の馬に比べて抜群にいいらしい。
こんなに上等な馬をもらって俺は本当にいいのか躊躇したが、ターグさんの押しと自分の状況を鑑みてありがたくそのままいただくことにした。
「あ、きつくなったらあたしに変わっていーよ。行商人やってる中で馬車も引いたことあったし」
「おお、それは助かる。じゃあ、砂漠を抜けたら変わってもらうよ」
幸い、まだそんなに体調は崩れていない。どうせなら、砂漠は俺の負担だけで済ましたい。
それにしても、砂漠を馬で渡るっていうのにとてつもない違和感だ。
馬車があるゲームでは割と普通のことだが、現実の常識ならラクダが適切だ。
こういうところどころの部分で自分の世界ではなくゲームの世界なんだと再認識させられる。
なんにしても、日差しは受けながらではあるが、歩かなくていいから無意味に疲れなくて助かる。
3人はどうだろうと後ろを振り返ると、馬車の中で寝ているイゼリアとハルの姿があった。
足を組んで座りながら寝ているイゼリアの膝の上にもたれかかるように静かに寝ている。
そばにいたユミナが俺の視線に気づくと俺に向かって「しー」と人差し指を立ててニッコリ笑った。
俺は静かにするように気を付けて前を向く。
すると、砂漠が終わって草原の緑が見えてきていた。同時に、天高くそびえるペネリート山も。
王都ロレドニアはもうすぐだ。俺は一層気合を入れて馬車を進めた。




