失意、憧れ
俺は人ごみをかき分けて早々に会場を後にする。
俺は言いようのない虚無感に襲われていた。
アラドの言っていた理論やアラド自身の人間性、そして何よりも俺が子どものころに憧れを抱いていた勇者という存在を真っ向から否定されるようなおよそ憧れの勇者とは言えないかけ離れた勇者の姿を見てしまって。
ここはゲームの世界ではあるかもしれないけど、ここに生きている人たちや世界は紛れもなく現実だ。
ただ街を案内するだけの村人や洞窟への行き先を教えてくれる村長たちはゲームではモブキャラで名前もないかもしれないけど、現実である以上、そんな人たちにも名前や性格があって当たり前だ。
勇者だって、プレイヤーが操作して、ゲーム内はただ無口に冒険を進めていく。
この世界の勇者も、現実に生きる人間なんだ。そりゃあ、俺の理想の性格というわけにはいかないのもある。
でも、やはりそれでもあの勇者の姿を見て、俺は落胆せざるを得なかった。
憧れが憧れじゃなくなって数少ない幻想を打ち砕かれた気がした。
どうしようか...今は宿に戻る気にもなれないし、騒がしいところもにもいたくない。
俺は人を避けるように当てなくさまよった。
やがて俺は街の中心部から外れた川にたどり着いていた。
なんとなく俺はそこの川辺で座り込んだ。
「あ、ジルさん!探しましたよー!」
ぼーっと川を流れていると、ハルの声が聞こえた。
見ると、後ろにはハルが立っていた。
ハル...探しにきてくれていたのか。
「大会で出てきた魔物倒したと思ったらすぐにどっか行っちゃうから心配したんですよ!」
ハルは叱りながら俺に近づいてくる。
「あ、ああ。ごめんな。もうすぐで宿に戻るから、先に戻っててくれないか」
「ダメです!なんか今日のジルさん様子がおかしいから、ほっとくとまたどっか行っちゃいそうって私の勘が言っています!」
「か、勘って...」
当たってしまっているのが怖いところだ。ハルは意外と鋭いのかもしれない。
「わ、わかったよ」
俺は立ちがって宿の方角へハルと歩き出す。
けっこう遠くまで来てしまったな。俺はハルの歩調に合わせて歩く。
ゆっくりと確実に宿へと戻る。
「なあ、ハル」
「なんでしょう?」
「ハルにとって憧れの人はいるかな?」
俺は、つい考えていたことをハルに質問する。
「はい!いますよ!」
ハルは体ごと俺に向けて満面の笑顔で言う。
「もし、その憧れていた人が自分が思っていた人とかけ離れていたらハルはどうする?実はハルが嫌いになるような人だったりしたら」
子どもに質問する内容ではない。それはわかっている。
けど、俺は誰かに聞きたかった。誰でもいいから答えが欲しかった。
「うーん、わからないですね!」
「わ、わからない?」
俺はずっこけそうになる。
「私にとってその人はすっごい人です。簡単には嫌いになるイメージなんて湧きませんし、そうなるような人だったとしてもそれまでのことを考えてやっぱり好きなままかもしれません。だから、その時になった時に私は考えます!」
「そ、その時って...」
「私、あんまり難しいことはわかりません。色々と今考えるよりもその時になって感じたままに私は自分の気持ちを決めます」
俺はハルの言葉を聞いて気づく。
そうか、自分で決めちゃってもいいのか。
自分の気持ちだもんな。なんで、人からの答えを求めてしまったんだろう。
俺は、気分が清々しくなっていくのを感じる。
少し、足取りが軽くなった。
子どものころの憧れを置いていくように俺は足を速める。
「よくわかりませんがジルさん、元気になりましたね!負けませんよ!」
ハルは走って俺の前へ出て、ぐんぐん進む。
俺も、負けじとハルの後を小走りで追った。
お別れだ。俺の中の勇者。俺は自分の気持ちに答えを出して前へと進んだ。




