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怒りと寂寥感

開戦直後に抱いていた高揚感が消えていったのを感じる。


やっと冷静にアラドにこれまでのことを聞けそうだ。


「アラド、なぜダナメ村の人たちに嘘を吐いた?」


俺はアラドの剣を力任せに押し返す。


「くっ!」


剣が押し返される寸前、アラドは後方へステップをして勢いを殺して、体勢を整える。


「嘘?ああ、ウーロイのことか。実はダナメ村に行く途中で君の話を僕の友人から聞いてね。使えると思ったからだよ。勇者といっても、初めにいく村や街ではなかなか信用してくれないことが多くてね。ああいった魔物を討伐した実績を言ったら、すぐに歓迎の用意をしてくれるんだ」


「そ、そんな理由で!しかもそんなことをしといて俺のことを!」


「合理的と言ってくれ。勇者である僕は人々の協力を受けて最大限、魔王を倒す最適な方法を模索し続けなければならない。いわば、正義のための行動なんだ。君のようにただ注目を受けてチヤホヤされたいだけの寂しい中年と一緒にしないでくれ」


アラドは心底俺を見下した目で語る。

言っていることは一見、一理あるように思えるかもしれない。


俺だけが利用されるなら、最終的に許すのもありだと思う。

でも、アラドのこの考えはいずれ多大なる犠牲の上に立つことになる。


「湖の洞窟にも念のため行ったんだ。十分に勇者として行動はしたと思うけどね」


湖の洞窟に来ていたのはやっぱりアラドだったか。


「だけど、双子のウーロイのもう一方は討伐できていなかっただろ」


「探したが、見つからなかったんだ。僕はあんな小さな村にかまけている暇はない。倒したことにしておけば、村人は安心する。安心感を与えておけば、僕の評判が上がるからね。評判が上がれば、他の場所で円滑にことを進めやすくなり魔王を倒す日が早まる。効率的だろう?それに、その後ダナメがどうなろうとなんとでも話は作りようがあるからね」


...!俺は、かつてないほどの怒りを覚えた。

勇者を、ただの免罪符に使っているアラドという人間に。

そして、なによりもその免罪符の犠牲にされる人たちに対して全く罪悪感も抱いていないことに。


「君も、ここで大人しく倒されて僕の勇者としての旅の手助けをしてくれよ。偽物の勇者、闘技場で本物の前に敗れる。いいシナリオだとは思わないかっ!?」


アラドは、なにかまた語りながら剣を構えてまた襲ってくる。

今度は、剣だけじゃなくグレンマの魔法を打ちながら近づいてくる。


「さあ、避けてみろ!避けたところでこの剣の錆となるがなあ!」


俺はその場にとどまり続ける。

グレンマの炎をその身に受けて、炎の中にいるアラドを見据える。


「バカめもらっ、ぐべるがっぁぁぁぁっぁ!?」


炎の中から現れたアラドを俺は剣で顔面を思い切りぶん殴る。

アラドのその顔は打撃によって醜く歪み、きりもみ回転をしながら彼方へ飛んでいく。


飛んでいったアラドはそのまま観客席まで飛び、凄まじい衝撃音と共に落ちた。


「け、決着ううう!勇者を倒したのは本当に人間か!?ジルの勝利いいいい!」


闘技場でこれまでにない歓声が上がる。

俺は特にそれに反応せず、下を向く。


...

俺は地面から蠢く気配を感じていた。


俺のいる場所の真下からクワガタのハサミのような形状のものが突き出した。

俺は飛びのいて避けた。ここで乱入してくるボスなのはわかっていた。魔王の使いのムカルデルだ。形状はムカデにクワガタの頭をくっつけたような姿。

そいつは頭を地面から出して来ている。


「あ、あれは魔物だ!み、みんなにげ...!」


だが、全ての姿をさらけ出す前に俺は剣でムカルデルの頭をかち割った。

闘技場内からはまたも歓声が上がったが、俺は応える気になれなかった。


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