報告、休息
俺は、この世界に来てから魔法を使っていなかった。
ゲームでは、コマンドを選ぶだけで勝手に出してくれたが、ここで出すにはどういった過程を踏むのかわかっていなかったからだ。
また、魔法を使えたとしてもどれほどの範囲かわからない。そういった点もあって使えなかった。
しかし、イゼリアの魔法を使う姿を見て、その過程がわかった。
まず、魔法を唱えるための呪文はゲームの魔法の名前をそのまま使えばいい。
そして、範囲は唱えた時に手や杖をかざした先に出てくる。後はそれを敵に向ければいいことに気づいた。
このことから、俺はウリボンスに「ディレイ」の魔法をかけた。これはレベル35で覚える魔法で、ラスボス挑戦適正レベルで覚える高性能魔法だ。
相手のはやさを問答無用で2分の1にする恐ろしい魔法だ。かけることさえできればずっと先制することができる。
この世界でかけると全ての動作が遅くなるみたいだ。
これによって、魔法を避けられてあらぬ方向に出してしまうのを防いだ。
そして、レベル30で覚える氷属性の上級魔法「ヒョウマレン」で攻撃した。
ゲームのテキストだけではどういう魔法かわからなかったが、対象とその周辺を凍りつかせる魔法だった。
最初とはいえボス。これだけでは倒せることはなく、とどめに「ゆうしゃのけん」で直接攻撃した。
コマンドRPGのグランワールドではまずありえない戦術。我ながら無茶したなぁ。
「ふう…」
無事に上手く倒せて安堵する。
魔法も初めて使ってみたが思い通りに使うことができた。なにもかも順調だったな。
イゼリアを見ると、ぽかんと口を開けている。
「あんた…「ジルさーん!!」」
「ぐはっ!?」
イゼリアがなにか言おうとしていたが、それを遮ってハルが俺の腰にダイブしてくる。
「かっこよかったです!こう、シュバッと避けて魔法をバババーンと撃って、最後にはズバッと剣で決めちゃって!」
「お、おお。ありがとう。でも、腰にダイブするのはやめよう。頼むから」
デスクワークと加齢によって俺の腰はボロボロなんだ。強い衝撃が来たときにこの世界の俺と言えども耐えられる自信がない。
俺は腰に引っ付いたハルを優しく引き剥がす。
「…まあ、いいわ。村に戻りましょう、村の人も報告を待っているだろうし」
「そうだな。早く安心させてあげよう」
「あ、あと…!ありがとう…。助かったわ…。ジル、さんがいなかったら私、どうなってたか」
イゼリアは言葉に詰まりながらも俺にお礼を言う。
なんだ、思ったより素直な子じゃないか。
「ははっ、どういたしまして」
「わ、笑わないでよ!」
「ジルでいいよ。そんなに急に気を使わなくても別に元から気にしてないからさ」
「ん、わかった…ジル」
イゼリアは照れながらも応えてくれた。
そうそう、こんなおっさんに気なんて使わなくていいんだ。
「それじゃあ、帰ろうか」
「はーい!」
「ええ」
なんだか2人の子どもを持ったみたいだな。
…! いやいや、中年といっても流石に…
変な考えを必死で払拭しながら俺は村に戻った。
◇
「おー!戻ったか!その様子だとやってくれたみてーだな!」
村に戻ると渡し役の村人が出迎えてくれていた。
「助かったわー。これで渡し船も漁業も再開できるってもんよ。今日は疲れたろ、宿の主人に話は通してるから泊まってってくれい」
「ありがとうございます」
ウリボンスとの戦いは自体はそれほど時間がかからなかったが、森の中を歩いた戦闘の緊張感で確実に疲労は溜まっている。
お言葉に甘えて休ませてもらおう。
「なんのなんの、それらしいお礼も渡せねー村なもんで、せめてゆっくりしていってくれや」
俺は会釈をして、ハルとイゼリアを連れて宿屋に向かうことにした。
宿屋に着いて、カウンターにいる店主に今日のことを話した。
「おお、あんたらか。話は聞いとるよ。ほい、この部屋を取ってあるよ」
店主はカウンターに置かれた部屋表を指差す。
しかし、その指はどう見ても1つの部屋しか差していなかった。
俺とイゼリアは顔を見合わせる。ハルは差された先を凝視する。
「あの、すみません、1つしか差されていないのですが、これはいったい…?」
「おろ?あんたら仲間みたいだから仲良く同じ部屋で寝たほうがいいかなって」
「んな訳ないでしょ!ていうか仲間じゃないわよ!」
イゼリアが声を荒げる。まあしょうがない。
「私は気にしませんけどねー」
「気にしなさい!女の子なら!」
ハルはもう少し気をつけた方がいい…
親御さんが心配するよ。
「わかったわかった、じゃあ部屋を3つ使ったらいいさ。そんで大丈夫かい?」
「当然!」
「えー、私寂しいし、ジルさんと同じ部屋がよかったなー」
ハルだけ不満を漏らす。
「寂しいなら、私の部屋に来なさい!とにかく一晩男と同じ部屋は、ダメ!」
「それは別にいいです」
「なっ!?」
「でも、そこまで言うならしょうがないですね。1人で寝ます」
ハルは渋々納得した。後ろでイゼリアがわかりやすいほどに落ち込んでいた。
「ま、まあ、纏まったみたいだし、今日はもう寝ようか」
色々あったが俺たちはそれぞれ自分の部屋に行った。




