冒険中にて
「ギャウ!ギャウ!」
目の前から来る狼の魔物たちが襲い掛かってくる。数はざっと4匹ほどだろうか。
落ち着け。冷静に見れば動きは見切れるはずだ。
俺は焦らずに確実に避けてから一撃で仕留めていく。
「せいっ!はっ!」
「ギャウアアアア!」
倒された魔物は光の粒子となり消えていく。その場に残ったのは少量のお金だけだ。
魔物がいて、倒せば魔物は跡形もなくなりお金やアイテムが手に入る。改めて俺はゲームの世界に来てしまっていることがよくわかった。
何日経ったのだろうか、この世界に来てから。
「ジルさーん!」
「ぐえっ!?」
物思いにふけっている俺の腰に予想外の衝撃が走る。
倒れそうになるがなんとか持ちこたえて衝撃を与えた犯人に目を向ける。
そこには目をキラキラさせた少女の姿があった。ハルだ。
「すごかったです!1人でウルフェルの群れを倒しちゃうなんて!」
「あ、ああ」
全ステータスがカンストしているとはいえ中年の腰にダイブされるのは心臓に悪い。
子どもらしく元気があるのはいいんだが。
「もう!私もいるんだから1人で無茶しないでよ」
後方からそう叱られる。振り向くとイゼリアの姿があった。
「ごめんごめん。仲間を呼ばれると厄介だから早めに仕留めたくてさ」
「別にあんただからそんな心配もしてないけど、万が一ってこともあるでしょ。ハルをちゃんと王都ロレドニアまで送り届けるためにも気をつけてよね」
「ああ、気を付けるよ」
そうだ。この世界に来て、俺はハルを送り届ける目的ができた。ここは俺が多くのことを知っていて、しかしそれ以上に知らないことが多すぎる世界。
なぜこうなったのかはまだわからないが、きっかけはあの日だったんだと思う。