記憶
目が覚めた、携帯のアラームが夢から現実へと引き戻す。
あぁそうか夢だったのか。気がつくと頰にスーッと涙が流れた。悔しい、ただその想いだけ胸を締め付けた。
〜1週間前〜
「おっはよーう!朝だよ起きて仕事遅れちゃうよ〜」朝から元気に俺の毛布を剥ごうとしているこいつの名前は菊池ミカン、もう7年も同棲している彼女だ。
俺の名前は岩切シュン、中小企業に勤めるいわゆるサラリーマンてやつだ。
「あぁ、おはようご飯作ってくれてたのかサンキューな」眠たい目を擦りながら洗面所へと向かう。
「ねぇシュン君、今日はなんの日か分かる〜?」
ミカンの声が後方から聞こえてくる、少し照れながら言ってるのがすぐに分かった。
「覚えてるさもちろん、今日はミカンの誕生日だよなおめでとう」
まさか忘れるはずもない、今日は仕事だが予定では休みを取って一緒に出かける予定だったのだ。しかし緊急の会議の為止むを得ず仕事に行くことになったのだ。
「なぁミカン今日大事な話があるんだが夜飯食いに行かないか?」
俺は耳を赤くして頰を掻きながら言った。
「いいよ!行こう行こう!」
ミカンはご機嫌そうに鼻歌を歌いながら味噌汁を注いでいる。
そう今日はディナーをしながらミカンにサプライズでプロポーズする予定だ。その為に結婚指輪を買い、オシャレな個室のフランス料理店を予約してあるのだ。
もし断られたらどうしようなんて考えながら、朝飯を味噌汁で流し込む。
スーツへと着替え、出発の準備を整えた。
「じゃあ行ってきます」
少し声を裏返しながら言った。
「うふふ、行ってらっしゃい夜ご飯楽しみだね」
ミカンは少し笑いながら頰にキスをしてくれた。
今日は絶対成功させよう、そう思いながら家を出た。
自宅から会社までは歩いて15分の所にある。
外は初雪が降り始めていた。
ーしかし寒いな、少し急ぐかー
そう思いながら早歩きで会社へと向かった。
会社へ到着し、自分のデスクにカバンを置くと隣から話しかけられた。
「うっすー、おはよー」
隣には同期の川崎タクヤの席だ。川崎はメガネの位置を調整しながら話しかけてきた。
「おう、川崎早いな」
「なーに言ってんだよ!おれが早いのはいつものことだろ〜」
ーこいつらしい冗談だなー
「遅刻魔チャラメガネがよく言うぜ」
半分ため息を交えながら言った。
「おー!いいやがったな〜シュンが落ち着きすぎなんだよ!」
確かにとても同じ26歳には思えないくらい川崎はいつもふざけている。
「そーそー!シュン今日会社終わったらカラオケいかね?」
「悪いな、今日は先約が入ってるんだまた今度誘ってくれ」
川崎は半笑いでこっちを見ている。
「まーた彼女かぁ〜?」
「そんなところだ」
簡単に答えるとそれ以上は問い詰めてこず、ひたすらニヤニヤしていた。
「そっか、じゃあまた今度だな、おっと朝礼の時間だ」
朝礼が始まりラジオ体操を事務所のみんなで済ませると各自それぞれ作業へと移った。
ー昼まで事務作業をして午後から挨拶回りでもするかー
そんな事を思いながら午前も終わり昼食休憩をとっている時だった。
自分の携帯が鳴りひびいた。
ー誰からだ知らないな。
ーとりあえずでるか。
「はい、岩切です。どちら様でしょうか?」
「こちら里見病院と申します。実は彼女さんが緊急入院されまして、家主であった貴方にお電話させて頂いたところでした。」
ー何があったんだー
ーミカンは大丈夫なのかー
様々な思いをしながら呟いた。
「すぐ行きます。」
会社を早退し、里見病院へと向かう。
とにかく走った。
心臓がバクバクしている。走ったからか不安から来るものか分からない、、
生きた心地が全くしない、フワフワした気持ちが急げ急げと自分に聞かせた。とにかく走った。
””ズルッ!””「ーーッ!」信号の真ん中で派手に転んだ。
周囲の人がこっちを見ている。笑う者、無視する者、指を指す者、そんな事どうでもいい。ダサくたっていい今はとにかく走れそう言い聞かせた。
そしてようやく里見病院へと着いた。20分ほど走り続けてかなり息切れしていたが、受付へと急いだ。
「菊池ミカンの連れです!案内して下さい」
少し大きめの声で言った。受付のお姉さんが
「岩切様ですね、お待ちしておりました、そちら右手のエレベーターで7階に行かれて下さい。705号室になります。」
お礼を言う暇もなく急いだ。
エレベーターへ乗り込み7のボタンを押し、閉のボタンを連打する。1階から7階まで本当に長く感じた。
「クソッ!」
エレベーター内部の壁を蹴りつけた。
やっと7階へ行くとすぐ705号室を見つけた。
扉を、「ミカン!」叫びながら開けた。
ミカンはベットへと座り外を眺めていた。外は白銀の世界が広がっている。その姿に少し見とれてしまった。ミカンは声に反応してこちらを振り返った。
「シュン君?」
「あぁ俺だ。どうしたんだ?何があったんだ?」
ミカンの両肩を掴み聞いた。
「ごめんね、何も思い出せない、君がシュン君て事がやっとわかるだけで」
「うそだろ、、なぁ嘘だよなミカン、今日ご飯食べに行こうて約束したよな?」
ミカンは少し無理した笑顔で
「ごめんね、ごめんね」
とだけ言った。
頭が真っ白になった、神様がいるなら恨みたい、俺が何をしたと言うんだ。
「な、なぁ俺達の関係て思い出せるか?」
恐る恐るきくと、
「えっとー友達かな?ごめんね分からないよ。」
ミカンはふざけているわけでも何でもない、本当に分からないんだそう思った。それならこっちもとことん戦ってやろう、そう思った。
「俺たち付き合ってるんだよ。もう7年になる。実は今日プロポーズまで考えてたんだ。」
俺は涙目になりながら泣くのを堪えて言った。
「ごめんねシュン君、友達かな何て言って。私これからどうなるんだろ、怖いよ。」
ミカンから無理した笑顔が消え、涙を流している。
「大丈夫だ。絶対何とかしてみせる。」
ミカンの涙を拭い抱き寄せ、キスをした。
「ンッ、、」
ミカンが軽く吐息を漏らす。
舌を絡ませ、強く抱きしめた。
「ごめんな、寂しかったろ」
涙のしょっぱい味、温もりを感じる。ミカンはそっと目を閉じ涙を流して
「ありがと。好きだよ」
と呟いた。
「あぁ、俺もだ。絶対記憶取り戻そうな。」
そう言った。
その時だった。””コンコン””扉を叩く音が聞こえる。
「どうぞ。」
シュンは慌てて涙を拭い答えた。
「すみません失礼します。担当の田原と申します。岩切様ですね、菊池ミカン様の件でお話がありますのでこちらへ来て頂けますか?」
ミカンは不安そうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫さすぐに戻るよ」
そう答えた。