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第1章ー5「ステイツー5」

「さて、それじゃ出撃しますか」


 予想外のイレギュラーが起きたものの、クルスたちの任務は変わらない。


「今回の任務の最後の確認だ。まず降下して現地の部隊に合流する。次に部隊に紛れ麻薬組織の情報を探り、そして叩く」


「簡単っすね、リーダー」


「簡単だからって気を抜くなよ。ぼろが出たらそこで終了だからな」


 そう、クルスの言うとおり子の任務は彼らが日ノ本の兵士だとばれたとたんに終わってしまう。先も説明したとおり、日ノ本から派遣される部隊は極秘で、一部のものしか知らない。もしそれがばれてしまえば彼らだけでなく、日ノ本自体も危うい立ち位置となってしまうわけだ。


「大丈夫っす! オレは秘密守れるっすから!」


「そういうあんたが一番危なっかしいのよ……」


 アリサの言葉にうん、とうなずくショコラ。


「うぅ……ひどいっす……」


「はぁ……ったく、なんでお前らはそう緊張感がないんだよ」


「緊張しすぎると逆に疲れちゃうからね」


 楽しそうにそう笑うアリサを遮るように、機内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。降下の合図だ。


 それを聞いた途端、皆の表情は一気に変わった。感情を殺した、まるで兵器のような表情で、慣れた動作でポットに乗り込んでいく。


『現地時刻午前3時30分。麻薬密売組織掃討任務、「クリーンアップ」、スタート。さぁ、ハッチが開くよ。みんな、快適な空の旅を!』


 カフカのアナウンスが終わると同時に航空機のハッチが開いた。機内に襲い掛かるものすごい風圧。それを意にも解さぬように、クルスたちを乗せたポッドの群れが次々と自動で飛び出した。


 ポッドは風を切り裂き、夜の闇の中、まるで流星のように地面に刻一刻と迫る。


 このポッド、もちろん気圧の変化にも対応している。急速な落下でも内部のものが快適に、それこそ眠っていながらでも着地できるように設計してあるのだ。


 ポッドの側面に取り付けられた無数のカメラが地上の熱源を探る。脅威がないと判断したポッドは、やがて落下傘を開きゆっくりと地上に降り立った。


 着陸を示すブザー音をポッド内部で聞いたクルスたちはライフルを手にそこから飛び出した。


 暗視ゴーグルをつけ、低い姿勢で辺りを見渡す。耳を澄ませ、音を聞く。肌感覚を尖らせ、殺気を探る。


 宵闇の静寂に、微かな風の囁き。舞い上がった微小の砂。そのすべてに彼らは意識を傾ける。


「……オールクリア」


 辺りに本当に何もないかを確認したのち、彼らはようやく気を緩めた。顔にはいつも通り、表情が戻っている。


「ここガステイツー5……来るのは初めてね」


「あぁ。俺もだ」


 クルスはライフルを背負い、ぐっと伸びをした。凝り固まった背骨は、こきっと軽快な音を鳴らした。


「もともと石油と砂漠しかない国っすから、あんまりテンション上がんないっすよぉ」


「乾燥……してるね……」


「あっ!保湿クリーム忘れちゃった!」


「いらねぇだろ、そんなの……」


「おにいちゃん何言ってるの!? 乾燥はお肌の敵だよ!」


 はいはい、と軽くあしらったクルスは端末からカフカへ通信を入れた。


「カフカ。無事着陸した。今回の装備を教えてくれ」


『はいは~い! 今回の作戦は皆おなじみステイツのPMC(民間軍事会社)「ブラック・ユニコーン」と合同だから、これ!』


 カフカの声とともに、武器用のポッドの扉が開く。そこに入っていたのは、全身を覆う黒い防護服だった。


 それを見た瞬間クルスたちのテンションは一気に下がることに。


『万能防護服「ブラックヴァーチャル」! ……あれ? 皆喜ばないの?』


「だってこいつ、趣味悪すぎだって……」


 まるで宇宙服のような作りの防護服。防御力は申し分ないのだけれど、いかんせん暑すぎる。サウナのような蒸し風呂状態を味わう羽目になるのだ。


 だがこれだけだとただの強度の高い防護服だ。だが、このブラックヴァーチャル型には特殊な点が一つある。もちろん、その点を彼らは嫌がっているのだが。


「ほんと、あのゲームみたいなの最低よね……」


 それがヘルメットを通した際に見える現実である。このヘルメットには特殊な仕掛けが施されており、相手の生態信号、さらにナノマシンの信号を読み取ることができるのだ。


 そして読み込んだ信号は敵味方判別され、まるでゲームのキャラクターのように使用者の視界に映し出す。


 要するに使用者はまるでシューティングゲームを楽しんでいるかのような感覚で、戦場を駆け抜けることができるのだ。これこそ人を殺すストレスを最大限に減らした次世代の防護服、なのだが……。


「敵がスライムだったりゴブリンだったり、しかも海外製だからリアル感がほんと半端ないっすし……」


「コンボとか……スコアとかの……表記も邪魔」


「あと倒した敵に関してはエフェクトが効かないしな。モンスター倒したのに兵士が地面に転がってるとか、笑えないって」


「ブラックヴァーチャルのブラックはブラックジョークのブラックって噂もあるしね」


『……ゲームしてるみたいで楽しいけどなぁ。ボクは好きだよ』


「俺たちはゲームはゲームで楽しみたいんだよ。わざわざゲームっぽいリアルを味わいたくはないってことだ」


 そう言いながらもいそいそと彼らはスーツに着替えていく。アリサも、予備のスーツを身にまとっている。


『まぁゲームモードはオフにしててもいいとして、でもスーツは絶対に着てね?内側にナノマシンの情報を偽装するチップ入れてるし。あと顔ばれしないためにもね』


「わかってるよ」


 スーツに着替え終えた彼らは武器を背負い、闇にまぎれながら合流地点へと歩を進め始めた。


 取り残されたポッドは、彼らが遠くへ行ったことを確認するとジェット噴射で宙高く飛び立った。それはやがてまた、ジェット機の中へと戻っていくことになる。


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