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プロローグー3「バイク、宙を舞う」

「さて、もう逃げられないぜ」


「ちっ……追いつきやがったか……!」


 管制塔に隠れようとしていたのか、階段途中でクルスたちに見つかったボスは、手に持ったレーザー銃を撃ち放った。けれどクルスの絶妙なハンドルさばきによって何もない中を撃ちぬく羽目になってしまう。


「くそっ……!」


 ボスは苦し紛れに階段をのぼりながらも、銃撃を放つ。だが、そのどれもがクルスたちにとっては無意味であり無駄な行為だった。


「おとなしくしろ! これ以上抵抗しても無意味だ!」


「そうよ。あなたに逃げ道なんてない」


「……それはどうかな?」


 管制塔のてっぺんまでたどり着いたボスは、にやり、と口元をゆがめた。何事かと疑問に思っていたクルスたちの前で、ボスはバッと手を広げて高笑いをこぼす。


「残念だったな、ガキども! これでお前たちの負け、チェックメイトだ!」


「何を……している?」


「自殺だよ」


 クルスの問いに、ボスはさぞ楽しげにねっとりした口調で答えた。


「俺が死ねば、麻薬の密売ルートも何もかもが闇の中へと消える」


「こっちはお前の部下を捕まえてるんだ。無理にでも吐かせてやるさ」


「あいつらはしょせん捨て駒。俺がどうやってブツを仕入れてるかしらねぇよ。勿論、データにも紙面にも残らないようにしてある。つまり! 俺が死ねば、お前らが欲している情報は何もかもわからなくなる!」


 高らかな勝利宣言を聞き、クルスは小さく舌打ちを漏らした。自分たちのタイミングの悪さを呪うしかない。


『クーたん、アーちゃん、絶対に自殺なんてさせないで! どうにかして捕まえて!』


「そう簡単に言うなよ、カフカ……」


「おにいちゃん、あいつが落ちる瞬間を狙えばいいんじゃない? 空中に飛び出したあいつをキャッチするの」


「だがそれも一回きりのチャンスだ……失敗したら、後がない。もっと効率のいい方法があるはずだ……」


「何ごちゃごちゃ話してんだ! わかってるだろう!? お前たちは、負けなんだよ! わかったらさっさとここから消えろ!」


 ボスの言葉に、クルスは歯噛みするしかなかった。ハンドルを握る彼の手に、じっとりと汗が滲んでいる。


「聞こえてるだろ!? 早く消えろって言ってんだ!」


 もはや、ボスは自身の威厳すら捨て去り、ヒステリックを起こしたように叫んでいる。血走った瞳の奥に滲む狂気。何をしでかすかわからない、とクルスの心は焦る。


「いいから、さっさと、消えろ!」


「おにいちゃん! 早くしないと、あいつ本気で」


「わかってる! 一か八かだ! アリサ、銃の用意だ」


 クルスの体に抱きついたまま、アリサは銃を構えた。彼はそれを確認し終えると、ぎゅっとハンドルを強く握る。そして、思い切りアクセルをふかした。


 グウォン! と唸るエンジン。バイクは瞬時に80キロを叩き出し、風のように駆ける。放物線を描くような起動で、彼らはボスの元まで一気に詰め寄った。


「いまだ、アリサ!」


「オッケイ、おにいちゃん! 発射ファイヤ!」


 アリサが放った銃弾は、ボスの大腿部に命中した。その瞬間、バランスを崩し巨体が重力に引っ張られ急降下。だが、彼らも追うようにバイクを降下させる。


 バイクも重力に引かれ、急速に加速する。風を切る轟音に交じるバイクの叫び声。しかしそれは集中するクルスの耳元には届いていない。


 あと2メートルで地面に激突する、というところでクルスは車体を思い切り上に引き上げる。と、同時に落下してきたボスの体も、顔をしかめながらも受け止める。


「やったね、おにいちゃん!」


「こんな芸当……普段から鍛えてなかった絶対にできないからな……てか、もう二度とやりたくねぇ」


 クルスは衝撃でビリビリと痺れる腕で、額に浮かんだ冷や汗を拭おうとした。だが、その手の感触が、やけに生暖かくぬめっとしていることに気が付く。これは、自分の汗などではなく、もっと触り慣れた何かだ。彼は瞬時にそう理解した。


「お兄ちゃん……こいつ……」


 アリサの声音が驚愕で固まっている。その瞳の先には、クルスの手の内でぐったりと倒れるボスの姿があった。いや、正確には、ボスのちょうど心臓部分にぽっかりと、大きな風穴があったのだ。


 クルスの手の感触、それはボスの命の液体によるものだった。どくどくと今も零れ落ちているそれは、クルスの手を、服を、体を、ゆっくりと汚していく。到底、助かる見込みはない。


「アリサ! お前、どこ狙ってるんだ!?」


「違うよおにいちゃん! 私はちゃんと足を狙ったよ! ほら、見てよ!」


 アリサが指差したところをクルスは見た。先刻に狙った大腿部にも、確かに銃弾の跡が刻まれていた。心臓部分のそれと比べると小さく、アリサの銃弾ではないことは明らかだ。


「アリサがやったんじゃないのか……疑ってごめんな。じゃあ、誰がやったんだ?」


「カフカちゃん。周りに人の反応はある?」


『今探してるけど……ダメ、見つからない……』


「カフカ、監視カメラの映像を洗え。俺は大体の場所を探してみる。アリサ、こいつの監視、任せてもいいか? もしかしたら、こいつを撃った奴が来るかもしれない」


 クルスはアリサを降ろすと、バイクを駆り宙に舞う。ゆっくりとバイクを動かして、見落としがないようにあたりを見渡す。だが、彼の瞳は何も捉えることができなかった。



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