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プロローグー2「ハウンドドーベル」

 短めの黒髪に整った顔立ちの17歳の少年、クルスは羽織っているロングコートの内側から短い棒のようなものを取り出した。それはスタンロッドといい、触れたものに電流を流せる代物だ。


「それじゃ私はいつも通りおにいちゃんのサポートね」


 銀色のセミロングに、幼さが残る顔立ちのこの少女はアリサ、15歳。彼女もクルスと同じロングコートを羽織り、そのポケットからナイフを取り出す。


「スタンロッドにナイフ……くくっ、なめられたもんだな」


「あんたは殺すなってことだから、仕方なくね」


 クルスとボスの視線が交わった。それが、戦いの合図だ。


「てめぇら、俺のために戦え!」


 ボスが脇の男たちに命令すると、彼らは懐からレーザー銃を取り出して応戦体制をとった。光を受けて銀色に輝くレーザー銃の先端が、クルスのことをとらえた刹那。青白いレーザー光が熱を発しながら放たれたのだ。


「ちっ……なんてもん使いやがんだよ」


 舌打ち交じりに言葉を吐き捨てたクルス。彼に向かって真っすぐに襲い掛かる光線。だが、彼は瞬時に身をかがめてそれを避けた。


「面倒事を増やすんじゃねぇよ。アリサ、いいぜ、やっちまえ!」


 クルスは立ち上がると同時に懐から銀色に輝く旧式のハンドガンを取り出し、引き金を引いた。照準など、彼にとっては相手を見なくても感覚で合わせられる。その証拠に彼が放った弾丸はスーツの男の手に寸分違わず吸い込まれたのだ。その痛みで男はレーザー銃を落とす。


「任せて、おにいちゃん!」


 クルスに遅れること2秒。アリサも懐から漆黒の旧式ハンドガンを取り出して、撃ち放った。それは浮浪者風の男の手に当たり、レーザー銃を地面に落とすことに成功した。


「卑怯だぞ、ガキ!」


 そう吠える浮浪者風の男に、クルスはさげすみの瞳のまま答えた。


「何が卑怯なものか。オートエイム、しかも無反動のレーザー銃で楽に俺たちを殺そうとしたお前らが悪い。殺すなら、それなりの覚悟ってのしてろ」


 くそ、と吐き捨てて逃げ去ろうとする二人の前に、高さ2メートルはある巨大な白い円筒が立ちはだかった。それには触手のような腕が8本付いており、そのどれもが彼らを狙っていた。


「捕獲用ドローン。メカニックメイデンよ。おとなしくしてれば何もしないわ。けど、もし逆らおうものなら……」


 アリサがにやりと笑った瞬間だった。触手の腕の先端が、丸鋸に変わる。


「八つ裂きになっちゃうけど、いいかな? ちなみにこれは第1形態。下手したら、蜂の巣にもなっちゃうかもね」


 彼らは青ざめた顔でお互いに向き合うと、


「捕まえてください……」


 と、ペタリ、と地面に座り込んでしまった。


「そんなことなら最初から抵抗するなっての……おい、カフカ。メイデンの扉を開けてやれ。武装モードも解除だ」


 彼は腕に巻いた時計にそう話しかけた。すると時計のディスプレイからホログラムのモニターが現れる。モニターの先にはロリポップを口に含みながらにまにまと笑う、かわいらしい子供がいた。


『りょーかいだよ、クーたん』


 愛らしいアニメ声と、黒髪の短いポニーテールがチャームポイントのカフカ、15歳。クルスたちのサポートメンバーとして作戦に参加している。


『さっすがクーたん、仕事が早い! アーちゃんも容赦ないねぇ。ボク、モニターから見てたけど痺れちゃった』


「ありがとう、カフカちゃん」


 褒められたアリサはふっと柔らかな笑みを浮かべた。カフカはかわいらしい容姿で、カフカちゃん、何て呼ばれているが、実は男だ。


3人が会話している間に、メカニックメイデンは自らの腹を開き、その中へ乱雑に犯罪者を詰め込んでいった。


 メカニックメイデン、犯罪者の捕獲と輸送を主にした公安の兵器だ。アイアンメイデンをモチーフに作られ、開いた腹の中へ犯罪者をぶち込み輸送する。走行は分厚く、並みの銃弾ではびくりともしない機械の檻は、乗り心地が悪いことを除けば犯罪者にとっては贅沢な乗り物となる。


 密売人どもを詰め込んだことを確認したクルスは、またカフカに向かって声をかけた。


「カフカ。ボスが逃げてる。場所を特定できるか?」


『もっちろん! というか、もう特定できてるよ。端末にGPS情報を転送するね』


 モニターが切り替わり、今度は湾岸区の地図が浮かび上がる。


『赤い点滅、それがボスね』


「助かるぜ、カフカ」


 クルスとアリサは地図に表示されたポイントへ走り始めた。だが、相手もほぼ同じ速度で動いているので一向にその差は縮まらない。


「すまない、カフカ! もう一仕事だ。このあたりに何か乗り物はないか?」


『バイクがあるよ』


「ハッキング、頼めるか?」


『もう終わってる!』


 カフカの声と同時に、ぎゅいーんと機械的な音が当たりに響いた。彼らの背後に迫る青白い光を放つバイク。タイヤは宙に浮き、重力を無視した危険走行をするそれに、クルスは勢いよく飛び乗った。


 2015年には実現しなかった空を飛ぶ乗り物。だが、2100年の今、それは存在する。バイクも、車も、反重力装置とブースターを使い自由に空を飛びまわる。鍵は存在せず電子ロックがかけられており、カフカがそれを簡単に解除しここまで運んできたというわけだ。


「アリサ、乗れ!」


 クルスは暴れ馬をいなすようにハンドルを操作し、バイクを止めた。それと同時に後部座席に座ったアリサは、ぎゅっとクルスに抱き着いた。だが彼には、アリサのまだまだ成長途中のスレンダーボディーを味わう暇はない。アリサが乗ったことを確認すると、すかさずアクセルをふかした。


「振り落とされるなよ!」


 メーターは優に80キロの表示を超えている。彼らは風を切り、走る。地面を、壁を、水上を。最短のルートを辿り、彼らはあっという間にボスの背後までたどり着いた。



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