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花摘み

作者: おそら

修学旅行というのはいったい何のためにあるのか考えてみた。

 学校行事の一環として行われているが、じゃあいったい何のために行われるのか。教員ならば知っているだろうが、残念ながら私はそういった資料は全く持っていない。すべては推測と、以前教えてもらった曖昧な知識しかない。そんな奴の書いた文章が嫌だというのならば、ここは飛ばしてくれて構わない。

 そもそも修学旅行は学業の仕上げとして行われていた旅行が元だとも言われているらしい。百聞は一見に如かずのような。そこから発展して、団体行動を学ぶためだったり、マナーを学ぶためだったり、旅行慣れするためだったりする。

重要性があるのか、と聞かれたら私はあると思う。どんな年になろうとも社員旅行であったり、家族旅行であったり、一人旅であったり、旅行をする機会はある。旅行でなくとも転勤や出張、派遣などと『旅ができる』というスキルは社会でも重要視されるし、旅ができてもマナーが悪かったのなら信用はなくなる。団体行動ができなくて、全員に迷惑をかけようものならば、その人の集団の居場所はなくなるだろう。たとえ一人で働いていようとも、今のグローバル化された社会の中で『旅』が行えなかったら、その人の進展はなかなか難しいのではないだろうかと思う。

もちろん、そうでない人や仕事もたくさんあるし、それどころでない人もいるだろう。私の意見はあくまでも一つの意見である。

修学旅行というのはそういった社会に出た時に使えるスキルを学べる学業の一つなのではないか、と私は思う。今言ったこと全てを、本格的では無いにしろ、疑似的に体験できる。よくよく考えてみると、なかなかいいシステムではないかと私は思う。

しかし、私たち学生たちがそんなことを考えているわけもない。明日の宿題すら危ういと考える私たちに未来を見据える余裕などない。修学旅行と聞くと遊びとしか考えない。むしろ、複雑なことなど考えず、素直に適当に楽しんだほうが得策なのかもしれない。今回はそんな修学旅行のお話。



「夜、女子のとこ行って、告白してくるわ」

集団部屋に案内されてしばらくした後、この部屋のメンバーの一人がそう言った。目的地めぐりも終わり、今日止まる宿にバスで移動してきた。俺たち男子は七・七・六人ずつ、女子も同じように旅館の部屋に案内され、風呂の許可が下りるまでのしばらくの間、自由時間となった。そんな中言い出された言葉だった。

あまりにも唐突すぎてよく理解できなかったが、話を断片的に聞いていると、修学旅行で誰かが女子に告白をするというのは前々から決まっていて、誰が誰に告白するのかは夜になってから、ということらしい。さっきの台詞は意思表示のようなもので、特に意味はなく、儀式に近かった。

その後の会話はいつも教室でしているような何の中身もない、ノリとテンションによって作られたものに、修学旅行というシチュエーションを入れ、さらに浮足が立ち、色恋沙汰の話が濃くなったものだった。

告白やプロポーズなどの恋愛に関してのイベントにシチュエーションが大事なのは分かるが、けらけらと笑いながらするものではないのではないか、複数人でするものではないのではないか、といつも真面目に思ってしまう。他にも、相手はどう思っているのだろうか、何にそんなに掻き立てられるのだろうか、など。

まあ、それらのことに関しては俺の考えが他とは違う、というだけなので別段どうこう言うつもりはない。

親からの話を聞くと、今の時代の子供たちも昔の子供たちの行動もあまり変わらないというし、自分でもそうなのではないかとは思うが、今の時代の子供たちは性が乱れていると言われたりするので、何かは変わっているのだろう。主に知識などが取り上げられたりするのではないだろうか、と俺は考える。

「花田さんさあ、マジ可愛くね?」

「あ、分かる。激可愛だよね」

「性格もいいしさ、おっぱい大きいし」

「お前キモ過ぎ。マジ引くわー」

「お前がおっぱい好きなだけじゃん」

「いやいや、お前らも実際そう思ってるっしょ?恥ずかしがんなって」

「いやお前の発言はないわ。ほんと引く。キモイ」

「もういいし、それで」

「すねんなって」

「あとさあ、下野さんとか、良くない?」

「あーね」

「美人じゃなくて、可愛いってかんじだよね?」

「ビューティフルじゃなくてキュート、みたいなね?」

「なんで英語だし」

「分かり易いっしょ」

「キュート下野?」

「あはははははははははっ!」

「まさかの大爆笑!そんな受けた?」

「受けた受けた」

 そんなやり取りが幾度となく続けられ、風呂の時間となった。

 因みに俺は、移動するほどの時間もやる気もないため部屋でゆっくりしていたところ、部屋に大体の男子がきて、さっきのような状態になり、ほかの部屋でゆっくりさせてもらえばよかったと若干の後悔をした。

 風呂は、さっきゆっくりできなかった時間を取り戻すためにさっさと入って、さっさと出た。大浴場で多くの数が入れたため一人三十分は入れたが、五分ほどで済ませた。

 風呂の後に食事があるが、まだ時間があったため、散歩ついでに旅館の周りをぐるりと回り、観察をした。

 こういった旅館などの風景や雰囲気が好きで訪れたときにその旅館をよく見て回るのが、趣味だったりする。雰囲気の出し方や店などの配置の仕方、部屋の間取りを見て、食指をそそられる。

 大体見て回り、いい時間になったところで、大広間へ。そこで本日の食事が行われる。

 旅館の食事というものにあまり面白さを感じないのは自分だけだろうか。こういった食事で出てくるものはたいていそれなりに見繕ったものばかりだ。白飯に揚げ物。キャベツの千切りと気持ち程度にかかったドレッシング。味噌汁に具は少なく、煮物は煮えすぎて元の味がわからないものとなっている。唯一マシなものと言えば茶碗蒸しくらいだろう。

自分自身料理はできないし、グルメを気取るつもりはないが、美味い不味いくらいの評価はする。正直に言って、こういった料理は美味しいとは感じない。どこでも食べられる料理なうえ、どこの料理よりも美味しくない。美味しくないならせめて、地元の料理などを出して欲しいものである。

まあ、そんな金も料理も、学生風情に出すものなんてないだろう。実際学生なんて、それなりの料理とそれなりの雰囲気があれば何でも美味しく感じるのだ。ある意味、一番料理し甲斐のない奴らだ。

食事は誰よりも早く終わらせた。流し込むようにして一気に食べた為、味の区別なんてしていられなかった。近くの席の奴らが、俺がいること自体を嫌がっていたため、空気を読んで退散した。何より、俺自身がそんな奴と一緒に食事をするのが嫌だった。美味しくない料理が、さらに不味く感じてしまう。

トイレに行くという名目で大広間を出た。あと四十分食事の時間である。それまで大広間にいなければならないが、正直無理だ。俺は同じフロア、つまり一階なのだが、そこのエントランスでゆっくりしていた。従業員も少なく、話しかけてくることもなかった。たぶん、ヤンキーかはぶられ者と思っているだろう。そっちのほうが好都合である。

することもなく暇を持て余していたら、十数名学生たちが大広間から出てきて、トイレに向かっていった。何人かこちらを向いたが、喋りかけてくることはなかった。ただの小便だろうし、何より、俺と関わろうとしたくもないだろうし。

しかし、チラチラ見られていい気はしない。俺は柱の陰に隠れるようにして、ソファに座りなおした。

しばらくそうしていると、生物学上雌とされる友人の吉村が話しかけてきた。にやにやしながら来ているので、言いたそうな大体分かった。

「お前、こんなところで何してるの?」

「ゆっくりしてる」

「はぶられたか」

「そうだな」

「でもそうしてると、もっと目立つよ」

「食事処で嫌がられるよりはマシ」

「ふーん。まあどうだっていいけど」

「暇なら、ついでに持論でも聞いていくか?」

「別に暇でもないけど」

「俺に話しかけられるくらいは暇だろう?」

「……実はお前って、うざいくらいにおしゃべり好きだよな」

「そうだな。一人でいることが好きで、人に持論を延々と喋ることが好きだ」

「面倒な性格」

「取り敢えず聞いてみろ。今の今まで暇だったんだよ」

「はいはい」

「人間の三大欲求は、食欲・睡眠欲・性欲だ。この三つで人間は生きている。どれか一つでも欠ければ、人間の生命活動は終わり、繁栄も終わる。三つ巴や三竦みってわけではないけど……似たようなものとして考えてもいい。ここで俺が言いたいことは、その三つの中のどれかを行うということは、他二つのどれかを行うことと同じくらい大事ということだ。物を食べることは寝ることと同じくらい大事、寝ることはエッチなことを考えることと同じくらい大事、同じレベル、ということになるんだ」

「んー」

「だとするとだ」

 俺は一息ついた。吉村は納得がいっているような、いっていないような顔つきだった。

「俺は一緒に食事をとることは、普通ありえないことだと思うんだ」

「ん?何で?」

「考えてもみろ。食欲・睡眠欲・性欲がすべて同じレベルのものだとしたら、食事を一緒に取ることは、一緒に寝ることと同じこととも取れる。食事姿を見られるということは、寝ている姿を見られることと同じと取れる。正直言って、よくもまあそんなことができるものだと思う」

「……まあ確かに」

「しかし、これだけだと、事の重大さがあまり伝わらないのだ。本当に重大なことはこの次なんだ」

 俺の口調に対して、まじめな顔つきで吉村は聞いていた。

 俺は言った。

「ここには性欲も入る。したがって、一緒に食事をとるということは、一緒にナニをすることと同じであり、食事姿を見られるということは、ナニしている姿を見られていることと同じなのだ!」

 吉村のまじめな顔つきはどこかへ消え去った。しかし俺は話を続けた。

「したがって、誰よりも早く食事を終わらせゆっくりしていた俺こそが正常な心の持ち主であり、一番人間らしい人間である、と。食事姿がカッコイイとか可愛いとか、寝ている姿が可愛いとか、そんなことを言っている時点でずれているのだ。実際にはお前らは人のナニ姿を見ているだけなのだぞ。何が嬉しくて人のナニ姿を見なくてはならないのか。まあ、逆説的に考えれば、人のナニ姿は人が食事をしている姿や眠っている姿というだけになる。卵が先か鶏が先か。どっちの感情が正常なのかは誰にも分からないだろう。そもそも三大欲求は全てが大事だが、それぞれ別種であるため一つのことで議論するものでもない。昔の人はナニをしていようが恥ずかしくなかったが、感情が豊かになった現代人だからこそ、羞恥心に差が出た、とも考えられるが、まあ違うだろう。ていうか、三大欲求の定義からすると、この持論自体ずれてんだけどな」

 吉村は心底呆れた顔で俺を見つめていた。しかし俺は満足だった。

「聞かなきゃよかった。時間の無駄だった」

「ご静聴、ありがとうございましたー」

「ていうか、結局何が言いたかったんだよ」

「食事姿はナニ姿。俺こそが真の人類」

「はいはい。そろそろ戻るよ」

「おう」

 そうして俺と吉村は時間をずらして大広間に戻った。


 食事も終わり、お土産買い物時間兼自由時間となった。この時間、男子は女子の部屋へ、女子は男子の部屋への入室は禁止とされている。それ以外は特に規制はなかった。

 することもなかったので、買ってきた缶コーヒーを部屋に設置された卓袱台で飲んでいた。

 すると、ぞろぞろと集まってきた男子たちが、さっきの話の続きをし始めた。別の部屋に行こうかと思ったが、友人のいない俺に行ける部屋が無いことが判明し、仕方なくこの部屋に留まった。

「でさあ、誰から行くんだよ」

「檜村が行けよ」

「お、ひのちゃん行っちゃう?」

「なんでいきなり俺なんだよ。言い出しっぺが行けよ」

「新田か」

「俺は提案者だからトリだろ」

「お前何様よ」

「俺様」

「うわ、うざいわこいつ」

「冗談だって。マジになんなって」

「そういう山口はどうなんだよ。誰に告んの?」

「俺そういう人いないからマジ」

「うわ出たよ。いるんだよこういうニヒル気取るやつ」

「ないわ」

「いや実際マジだし。ていうかうちの学校に俺と釣り合うやつがいないんだし」

「お前が何様だし」

「ほかの学校もなかなか美人がいないんだけど、うちの学校は特にいないね」

「何?女子を網羅でもしているわけ?」

「まあね、大体可愛いのは把握してる」

「やるね」

「でしょ?」

「で、結局誰がいいのよ?」

「いないわー。とりあえずお前ら先に行けよ」

「えええええ」

「あ、そういやゴウはどうなのよ」

「ゴウ?」

「あいつ」

 山口は俺を指さした。

とどろきやれーよ」

「ゴウでいいし」

 ゴウってもしかして俺か?そんな馬鹿な。

「あいつが誰でマスターベーションしてるか聞いてみようぜ」

「いらなくね?」

「ていうか、直球すぎっしょその質問」

「いいし。あいついつも黙っててキモイし」

 無口はキモイらしい。

「おーい、ごーーーーう」

 山口がゴウと言っているが、俺は缶コーヒーを飲んでいるため、反応のしようがない。そもそもゴウとはだれか。もしかして俺か、もしかしてかまってほしいのか、と言いたい。それに、ゴウで反応したら『うはw反応したしw』というのが目に見えている。

 正直、面倒臭い。

 窓の外を見てやり過ごそうとしたが、うまくはいかなかった。

「はあ?無視とかキモ。何様よ?キモイ。反応しろっつーの」

「ゴウで反応はしないっしょ」

「おいゴウ」

 山口が肩を叩いてきたので、仕方なく返事をする。

 いつも思うのだが、友達でもなく、話したことも話すこともない奴にどうしてそんな馴れ馴れしい対応をするのか不思議でならなかった。そして何かしたり何もしなかったりすると不機嫌になる。恐らく俺が行う行動すべておかしくてキモイと思っているから、何かして欲しいと思っているのだろう。俺からしてみれば、お前たちの行動のほうが残念だなあと思う。

「何」

「なんで無視したの?」

「何が」

 言葉が端的過ぎて、何を言っているのか、何を言って欲しいのかが全く分からない。

「だから、なんで無視したの?」

「だから何が」

「話通じてないし、ウケる」

 山口は全員の同意を得るように後ろを振り返った。

 どうしてこういった人は自分の発言に対して一回一回同意を得ようとするのだろうか。そもそも、話が通じてないと思うのは、こちらの台詞である。

 話す内容も終わったと判断したほうがいいだろう。というか、いちいち反応するのが面倒臭い。

 俺は再び缶コーヒーをちびちび飲み始め、窓の外を見た。

「ちょ、いじけんなし。可愛くないぞ」

 理解の仕方がおかしい。普通は呆れられたと思うのではないだろうか?

「あのさあ、ゴウってさあ」

「ゴウって誰」

「おまえ」

「あっそ」

「ちっ、まじうぜー。お前さあ、女子の誰でマスターベーションしてる?」

「は?」

 そしてもう一つ。なぜこういった人たちは親しくもない奴のプライベートを聞こうとするのか。そして無理やり決めつけるのか。

「何」

「あ、まずマスターベーションって知ってる?」

「知ってる」

「してる?」

「ああ、してるしてる」

「マスターベーションしてるって」

山口は再び振り返る。

その動作、面倒なのではないかと思うが、個人の自由なので質問はしない。そもそもこちらが質問すると不機嫌になるか、ウケる、と言うだけなのでやろうとは思はない。

「で、女子の誰でしてる?」

「してないな」

「教えろって」

「本当に」

「吉村か」

「してないな」

「じゃあなにでしてんの?」

 お前に言う必要ないよな、とは思うが、それを言うとさらに面倒なことになるので、大体答えてすぐに終わらせる。そして相手の質問を早くなくさせるのが一番方法としては楽だ。

「エロゲ」

「どんなやつ?」

「HAPPYバレンタイン」

「知らない」

「だろうな」

「ゴウ、エロゲしてるって」

山口はもとの所へ戻っていった。

ああいった人たちは、自分の言いたいことと相手の言いたいことを言わせたら満足する、というかそれが目的である。何か適当に言ってあげればそれでいい。

「じゃ、話し合いの結果、檜村が坂之下さんに告るって」

「うわー、マジ緊張するわ」

「マジで成功したらどうする?」

「そんときゃ、やべぇな」

「やりたい放題だな」

「んなわけあるか気持ち悪ぃ」

「でも付き合ったらどんぐらいエロイことできるんだろう」

「確かに」

「坂之下なら何でもやりそうじゃね?」

「かもな」

「お、もしかして俺当たり引いた?」

「うぜぇな、早くいって来いよ」

「じゃ、いってくるぜ~」

「俺らもついてくわ」

そう言ってあいつらは十五人くらいの人数で女子の部屋へ向かって行った。

そんな人数で行ったら絶対先生たちに見つかると思うのだが……。いや、そんなことより気になるのは、どうしてその人数で言ったのかということだ。バラバラに一人ずつ行ったほうがいいのではないだろうか。十五人で告白しに行ったら、雰囲気も何もあったものではないだろう。それとも、そんなことを思う俺のほうがおかしいのだろうか。

 そうして部屋の中には俺一人が残った。

 お土産は買い終わったし、旅館の中は大体見て回った。写真も撮った。正直することがなかったので読書でもしようかと思い、鞄を探していたところ部屋のドアがノックされた。恐らく先生だろう。見回りか何かで。

 俺はドアへと向かった。こういった場合は面倒を起こさないように適当にやり過ごすのが得策だ。

「はい」

「私だ。見回りに来たぞ」

 恵波先生だ。一番嬉しい先生が来た。正直こういった事態に生活指導の先生が来たら厄介だが恵波先生は物理担当で男で俺の担任だ。一番話が通じる。

「他の奴らは」

「知りません」

「お前に聞いても無駄だったな、すまん」

「謝らないでください、怒りますよ」

「まあいいや。どうせ『女子に告りに行くぜ』とか言ってだらだらしてんだろ」

「さあ、どうなんでしょうかね」

「見回り完了。俺は何も言ってないし、お前も何も聞いてない」

「トランプでもします、先生?」

「残念ながら、そんな暇は無いんだよ大人は。じゃあな」

「はいはいそれでは」

 残念、暇つぶしが消えてしまった。

その後二十分ほどして、あいつらは帰ってきた。本が感動シーンのときに返ってきたため、全く奴らに非はないが、イラッとした。

何、何なの?何でヒロインが死んじゃうシーンでお前らは『死ぬかと思ったー』とか言いながら帰ってくるわけ?狙ってんの?死ぬとか簡単に使わないで欲しいんだけど。

「うっはー、成功したし!」

「やったわー、マジやったわー」

「なに、何人成功した?」

「日乃元、坂之下、玉村、飯田、栗井……だから……何人け?」

「五人だな」

「うっは、俺らの代が最高記録じゃね?」

「いや、先輩の話だと最高七人だって」

「じゃあ十四人クラスでカップル成立?すげ」

「うわー何しようかなー」

「何する気だよ」

「でもさあ、KYが一人いたよね。マジむかついたわ」

「だれかいたっけ」

「吉村」

「普通に断っただけじゃね?お前を」

「いやだってあいつだけじゃん、断ったの。あの空気で断るとかマジしらけるし。しかもあいつより可愛い玉村がオッケーしたのにあいつが俺を断るとか何様。あいつ絶対自分が一番可愛いとか思ってるし。」

「そんな落ち込むなって。いいじゃん玉村いけたんだから」

「確かに普通に可愛いけど、性格がマジ最悪だよな。くそだな」

「分かったから、結果オーライじゃん、玉村選べて」

「いや、もう許せないねあいつをボッチにしてやる。あ、元からボッチだったか」

「ボッチって言ってやるなよ」

「いやー、久しぶりに本気で腹が立ったね。女だけど殴ってやろうかと思ったわ」

 お前をぶん殴ってやろうか。

 なんでお前が逆切れしてんの?

 なんでお前が良さを比べてんの?

 告白にKYも糞も無いだろ。

 殴りたい衝動はどこから来てんの?

 自分の馬鹿さ加減に腹が立ってろ。

 ボッチって何?一人でいるのがいけないんですか?

 友達と四六時中話さなくちゃならないんですか?

 告白って断っちゃいけないんですか?

 断っていい人と断っちゃいけない人がいるんですか?

 ていうか黙れ。

 俺はコーヒーを飲みほして、席をはずした。

 十五人も人がいる部屋でトイレはしたくない。一階のトイレを借りることにしよう。

 一階へ降りて、小便を済ませた後部屋へ戻ろうとしたら、お土産を買っている吉村の姿が目に入った。恐らく混んでいたから少し遅い時間にお土産を買おうとしたら、男たちに呼び出され時間を消費し、今この時間に買うことになったのだろう。

 タイミングが良いのか、悪いのか。さっきの今だから複雑な心境である。

 災難だったな、と心の中で思っていたら吉村がこっちのほうに気付いた。そして『こっちへ来い』という風に手を振ってきた。ここで断ると首根っこを掴まれて無理やり連れていかれそうなので、しぶしぶお土産屋のほうへ。

 お土産屋に人はまばらで、五人しかいなかった。男が一人、女の子が四人。

「おごれ」

 ついた瞬間の言葉がこれである。

「ふざけんな、自分で買え」

「はあ?お前何様」

「お前が何様よ」

「私がおごらせてあげるって言ってるのに、ひどい奴」

「俺は『おごらせていただけるなんて光栄の極みです』とでも言えというのか」

「そうだ」

「そうだじゃねぇ」

「光栄に思え」

「色々無理だ」

「これでいいよ」

「なんで偉そうなの?しかもこれ高いんだけど。二千円って」

「じゃあ、これ」

「『じゃあ』の使い方がおかしい。これ五千円」

「うるさい奴だな、ふざけてんの?」

「なんで俺怒られてんの?」

「あと、これ」

「人の話聞いてる?」

「聞いてる。『おごらせて下さいませ姫様ぶひぃぃ』でしょ」

「そんな言葉言った覚えがこれっぽっちもないんだけど」

「記憶喪失?早いねおじいちゃん」

「お前のほうが生まれるの早いだろうが」

「お店の中だよ、うるさい」

「誰のせいだコラ」

「お前」

「てめぇだ」

「うるさいのはお前じゃん」

「ボケてるのは誰だ」

「いや~」

「褒めてないよな」

「そんなにおごりたいんなら仕方ないな」

「話を戻すな」

「あんた老けて見えるからこれいけるよね」

「年も値段も無理だ。なんだこれ。日本酒一万五千って」

「ありがとう」

「買わないからな」

「ケチ」

「むしろ許した奴は懐デカすぎるか馬鹿だ」

「ジュース」

「がどうした」

「三本」

「買わないぞ」

「ありがとう」

「耳を使え」

「私の先祖、法一だから」

「もしそうだったとしても、全く関係ないからな。ていうか三本あってどうするんだよ」

「私と木谷さんとてゐちゃん」

「あ、俺の分は無いのね」

「当たり前じゃん」

「どこの世界の常識でしょうか」

「まさかお前、私たちの部屋に来るつもりだったの?変態、滅べ」

「冤罪過ぎる」

「先生ー、轟君が」

「どうかしたか」

「いたんですか先生」

 俺の背後にいつの間にか恵波先生が。格闘漫画のやられ役の気分になれましたとさ。

「先生、轟君がエロです」

「むっつりスケベめ。指導してやろうか」

「どうしよう、ボケが増えた」

「先生、轟君が女の子に乱暴を」

「名作だったな」

「話がかみ合ってない上、先生のはネタが古すぎて拾えないけど、取り敢えずランボーじゃないですから」

「ジュース六本ね、京谷」

「焼酎頼むわ、轟」

 因みに、京谷は俺の名前。轟は苗字。

「何で増えたの?誰の分が入ったの?ていうか先生は生徒にたからないでください。それ以前に今この状況でお酒を買わないでください。いや違う、買わせようとしないでください。なんで俺二人からたかられてんの?」

「ツッコミが長いぞ」

「ボケを回収したのにこの仕打ち」

「あ、木谷さーん、てゐちゃーん」

「無視?」

 どうやら一人でいた理由は、お仲間がトイレに行っていたかららしい。助かった。これでツッコミが増えた。

「京谷がおごってくれるって」

「あ、やったね」

「わーい」

「先生、心が折れそうです」

「そうやって人は成長していくんだぞ轟」

「心が折れました」

「冗談ですよ京谷君」

「そうそう、冗談冗談」

「半分」

「どういうことだ」

「三本でいいよ」

「本数が半分かよ」

「先生の分も頼む」

「四本になるじゃないですか。それじゃさっきと変わらなくなるじゃないですか」

「二本も違う」

「威張るとこじゃねぇ」

「そろそろ買えよ、もうすぐ就寝の時間だ」

「「「はーい」」」

「はあ、長かった」

「轟」

「そんな馬鹿な」

 まさか俺に言っていたとは。

 先生は最後までボケ倒してくれた。


 その後、各自部屋に戻って(おごらなかった)それぞれ時間をつぶし、寝た。

 次の日は大半が見学で自由時間はほぼ無かった上、その日のホテルに着くころには十時を回り、翌朝も時間はとれず、ホテル回りはできなかった。しかしその日は自由時間が多く、町の中をぐるぐると目的もなく回れたのは良かった。その上その日のはまた別の旅館で、旅館回りも出来た。最終日は電車で帰るだけだった。

 今回の修学旅行で学んだこと。取り敢えず、知らないところを回るのは面白い。以上だった。

 また、学んだことというか、知ったことというと、俺の吉村に対しての好感度が異常に高いことだった。

 我ながら、気持ち悪いな。






ご精読ありがとうございます。

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