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六話 髪の持ち主-1

 村と呼べる程、小さな小さな街があった。


 その街に、聖人と呼ばれる青年がいた。




 青年は、善良で模範的な神官だった。

 転機は数年前、ある日起床すると突然、青年の栗色の髪の色が、銀に艶めく白色になっていた事。

 始め青年は取り乱したが、直ぐに思い出す。


 青年が神官を勤める教会に祀られる神は、白神と呼ばれる、白が主色の神である、と。


 青年の髪は神からの寵愛の証として、聖人と呼ばれ始める事になる。

 青年自身も、年老いて色が抜け、白くなった髪とは明らかに異なる美しい髪色を、神から授かったものとして、大事に伸ばし始めた。

 こうして小さな小さな街に、一人の聖人が誕生した。


 青年の髪が白く染まってから、青年と青年の周囲では立て続けに幸運な事が続いた。

 人々は「流石は神の寵児だ」と青年を尚一層敬い、青年の幸運にあやからんと、青年の手に触れ、拝むようになった。


 人が来る事など稀だった、小さな古い教会には、今日も人々が足繁く通う。




 ある日、街に奇妙な男女が現れた。


 片や明るく話し上手、聞き上手なものの、ごく普通の中年女性。片や異様に背が高く、不思議な白い衣を纏い、ぞっとする程整った顔立ちに神々しい金色の瞳を持つ男性。

 女性の方が、男性の倍程の年齢に見えるので、夫婦という事は無いだろうが、親子というにはあまりに似ていない。


 小さな街なので、不思議な旅人の噂は瞬く間に広がり、青年の耳にすら彼等の話は届いていた。


 そんな噂の二人組が、夜、人目を憚るように教会を訪ねてきた。


「その髪は私の髪だ、返してもらおう」


 開口一番、そう言ってのけた金の瞳の男に、青年は唖然とした。


「あの……仰っている意味がよく……」

「あんた、過程をすっ飛ばして物事を進めようとするの、やめろって言ってるでしょうに!」


 中年女性に叱られても、金の瞳の男は全く堪えた様子も無い。


「では説明してやろう」


 金の瞳の男曰く。


 自分は鬼で、遠い昔に悪しき魔女によって瞳、髪、腕、角を奪われ、人間達にばら撒かれた。

 奪われたものを探し続け、最近になって遂に瞳を見つけた。


「ーーその目の持ち主があたしだったって訳だ。あたしにとって鬼の目なんて、悪いものしか引き寄せなかったから直ぐに返したよ」

「そう、ですか……。そしてこの髪も貴方のものである、と」

「そういう事だ、さあ返せ」


 青年は本心では否と言いたかった。

 しかし有無を言わせぬ金の瞳の男の迫力に負け、返すと約束してしまった。

 結果、どうなるかも知らないで。

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