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二話 瞳の持ち主-1

 とある村に中年の女がいた。


 その女は前髪を伸ばしており、幼い頃からの付き合いである同年代の者達も、その目を見た事は無い。

 陰気な見た目の女は早々に村で孤立し、女手一つで彼女を育て上げ、今はもう年老いた女の母だけが、彼女を慈しんで大切にしていた。


 一部の心無い村人達は、女を見ては、面白おかしく噂する。

「頑なに隠すあの目は、色が妖魔の色である黒なのだろう」「いやいや、きっととんでもなく醜い傷痕があるに違いない」と。

 しかし女は、何も言わない。

 その態度が気に食わない、或いは得体が知れなく不気味だ、と村人達は、女を貶める。


 女が若い頃には、女を庇う者もいた。いたのだが、その者は大小様々な不幸に見舞われ始め、女と関わる事を止めるとぱたりとそれらは無くなる。

 そうして女は独りになった。


 いつしか、女は厄病神と呼ばれ、村の中では女を見れば厄除けの印を結ぶという動作が当然のように行われるようになっていた。


 それでも女には母がいたので、この小さく閉鎖的な村を出るつもりは無かった。

 しかし……。




「待って……待ってよ!母さん、置いてかないで!」


 女は母の、枯れ枝のように痩せ細った手を握り、涙ぐんだ。


 村で、流行り病が猛威を振るい始めた。

 村に医者はおらず、薬が届く前に幼子や老人など、体力の無い者達は次々倒れてゆく。

 女の母も例に漏れず、病に倒れ、今まさに命の灯火が消えようとしていた。


「……しあわせに……おなり……」


 吐息のような、震え掠れた声の後、母の手から力が抜ける。


「幸せって……何……?」


 女は滂沱の涙を流し続けながら、呆然と呟いた。

 母以外の皆からひた隠しにしてきた、黄金の瞳が溶けてしまいそうな程、流れる涙は止まらなかった。




 女の瞳は太陽のような金色だ。


 女の母は初めて我が子の瞳を覗いた時、様々な色彩(いろ)の髪や瞳を持つ人々の中に於いても異質な金の瞳を目の当たりにして、悩んだ。

 悩んで、悩んで、悩み抜いた結果、隠す事にした。

 大切な我が子が、特別な瞳故に神の化身として祀り上げられる事も、異端として迫害される事も許容出来なかったからだ。

 その結果、村人から遠巻きにされ、この歳になっても友人や恋人も出来ずたった独りになってしまっているのだから、皮肉な話である。




 一晩明け、女は母の遺言に従うにはあまりに無謀、無理、不可能だという事実に直面した。


「この村じゃ、幸せになれない……」


 村を出よう。この村で唯一大切だった母はもういない。

 女が決心するのは早かった。


 しかし、村を出たところで同じ事の繰り返しになるのではないか、という不安が首をもたげる。

 女の決心は揺らぐのも早かった。



 そんな彼女に、転機が訪れるのは、数日後の事。

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