十三話 腕の持ち主-5
「今日中にこの町を発つ」
「はいはい……全く急だねぇ」
鬼と中年女性の会話を余所に、男はこの先を憂いて溜息をついた。
「どうしたの?お兄さん。何か困り事?」
「いやなぁ……返した事に後悔はしていないんだが、俺達運び屋『白腕一族』は、どんな物でも1人で運べるって所を売りにしてたんだ。その売りが無くなったからこれから大変だろうな、とね。
何せ弟以外、一族皆頭が悪い。腕のお陰で有利に運べてた契約も、これまで通りにゃいかねえだろうなぁ……」
「それは、弟さんにそういった仕事を任せればいいのでは?」
そう言いながら部屋に入って来たのは、鬼達の連れの青年だった。
買い出しを頼まれていたのか、袋を幾つか抱えている。
「でもよ、あいつは俺の事が嫌いなんだ。俺の所為で困った事になるってのにそんな仕事を投げるような真似は……」
「貴方に鬼の腕が宿ったのも、腕を返したのも、貴方が責められる謂れのない事柄でしょう。それに一族の者として、大任を任されるのは嬉しい事かと愚考しますが」
「お兄さんの頑張り次第って事さ。ま、いつかどうしようもない事が起きたらこの鬼が助けるよ」
「何故私が」
じろりと鬼が中年女性を睨むが、中年女性はどこ吹く風である。
鬼の迫力にはらはらしていた男としては、中年女性の胆力に驚くしかない。
「見方を変えれば、あんたが引き起こした事じゃないか。責任は取るべきだよ」
「……一度しか受け付けぬぞ」
「姉ちゃん、あんた凄えな……」
押しに負けた鬼を見て、女性の強さというものを痛感した男だった。
鬼は髪を一本抜いて男に差し出す。キラキラと光を反射するそれを受け取り、怪訝な顔をする男に鬼が言葉少なに説明した。
「それを握り、助けを呼べ」
「お、おう」
この髪のお陰で、白鬼に守護された運び屋と評判になり、むしろ仕事が増えるのはまた、別の話。
満足げに頷いた中年女性が、ふと鬼に尋ねる。
「ところで、もうあんたに欠けているものは無いと思うんだけど、今度は何を探しに?」
「欠けているものが無いだと?その目は節穴か?
……次に探すのは、我が誇り。角だ」
「角ぉ!?どっかの人間が角を持ってるっていうのかい!?」
「だろうな」
中年女性も、青年も、男も絶句した。
角が付いている人間など、珍しいというものではない。どんな扱いを受けている事か。
青年が絞り出すように言った。
「……それは、早く見つけ出すべきですね」




