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百四の脚

侵略者来襲

暗闇の中で男は腹を抑えていた。

「あの男…」

男は苦しそうに言う。

「それ夏くんの実力不足じゃないの?」

斉は男に言った。そして男がつけている赤のペンダントを取り自分につけた。その瞬間顔の傷が無くなっていく。

「俺も殴られた分があるから」

斉は言った。その瞬間後ろのドアが開いた。そこから男が入ってくる。

「機密は奪えたのか?」

男は問う。

「もちろんです。」

夏は言った。そして男に水晶を手渡した。



新沢たちは校長室にいた。この学園の校長室は何故かとても広く、新沢たちの教室と同じくらいの大きさである。

「やぁ来てくれてありがとね」

ドアの向こうから身長の小さい老人が出てきた。この人こそ学園長の灰原千である。とても優しい人で怒ったことはおろか、怒っている姿を想像できないのだ。

口調も優しくとても優しい。学園の中で嫌われていない数少ない先生でもある。

「有栖君は…いるね」

灰原先生は言う。

「はい」

有栖は校長室の椅子に座って俯いて言った。

「大変遅れました、学園長」

玻璃川がそう言いながらドアを開けて入って来た。その瞬間有栖は顔を上げる。そして灰原先生を見る。

「みんなそろった様だね、他の先生方は…到着した様だね」

灰原先生がそう言うと床から教頭先生と理科の先生がにょきにょきと出てきた。

「それでは本題に入るよ、実は明日の午後13時から先生方が全員出張をすることになったんだ。そこでだ、もし昨日の様に侵入者が来るとマズいんだ。だから君たちに学校の警備を頼みたい。」

灰原先生は言う。

「先生はどこへ行くので?」

有栖は尋ねた。

「帝都さ…定例会議で」

理科の先生が言った。理科の先生であり担任の先生でもある影山翔騎は黒い噂が絶えない先生だ。性格は優しいのだが何故か彼の担任するクラスでは暴力事件が一回も起こらないのだ。それについては先生が賄賂を使って隠蔽しているとか、ホームルームで生徒を洗脳しているとか。私は先生の生徒だがそのような事は一切無いと断言できる。

「そういうことだ済まないが学校を頼むぞ」

教頭先生が冷たく言った。教頭先生の塞藤理は冷たい先生だ。唯一良いところと言えば常に中立の立場であることだ。よく横暴的な態度をとる成金共を注意している。だが人を褒めている姿を見たことが無い。この学園に来てからずっと。

「すいません」

新沢が申し訳なさそうに言う。先生方は心配そうに新沢を見る。

「トイレ行ってきていいですか?」

新沢は言った。先生方はそろってため息をついた。そして新沢は校長室を後にした。

「まったく…有栖、玻璃川お前達は残れ、それ以外は授業に戻れ。影山先生新沢達を教室に連れて行ってもらえますか?」

塞藤は言った。

玻璃川と影山先生は頷いた、影山先生はドアを開けて外に出た。玻璃川は春たちに紛れて逃げようとする有栖の袖を掴んで前に引っ張り出した。




春は外に出て新沢が来るのを待って影山先生についていった。

「ああそうそう金崎君のことだけど…」

影山先生は歩きながら言った。新沢は少し悲しい表情をした。

「彼は出血が酷かったが命に別状は無いそうだよ」

影山先生は言う。新沢の表情は少し明るくなった。

そのうちに教室に着いた。彼はドアを開けた。中はとても騒がしかったが、先生が入って来た瞬間静かになった。

「今日は皆に紹介したい生徒がいるんだ、ほら入って入って」

影山先生は春と新沢を教室に入れる。

「せんせー鏡崎さんは転校生じゃないですよー」

藍原は言った。

「大丈夫、知ってる」

影山先生はドヤ顔で藍原に返した。そしてクラスの皆に向かって言った。

「僕はこれから職員室に行ってくる。自己紹介等は僕がいないうちにしといてねー以上僕が帰ってきたら5時限目ねー」

影山先生はそう言って教室から出て行った。

「あ、えーっと新沢圭です。今迄ずっと寺で育てられていましたよろしくです」

新沢は自己紹介をした。するとクラスにどよめきが起こった。すると一人の男子生徒が新沢を指差して言った。

「いくぞ転校生!」

すると彼の指から小さい球が生まれ、新沢に向かって飛んで行った。新沢は右手でそれをはたき落とした。

「手見てみな」

彼は言った。新沢は手を見る。手には青い文字で

”よろしく”と書かれていた。

「こちらこそな…えっと…君誰?」

新沢は言った。

「津田だよ」

彼は言った。



「人手が足りないと思います」

玻璃川は先生に言った。

「と、言うと?」

教頭先生は玻璃川に言った。

「恐らく”奴ら”は攻めてきます。ペンダント事件の件数も日々上がってきています今の所ペンダントを付けている者は飛躍的に魔力が上がることと魔力を察知できないことが分かっています」

有栖は言った。

「僕はこれから帝都に行きます。招集がかかっていますので、有栖警備が手薄になるが頼むぞ」

玻璃川は言った。

「ああ、分かった」

有栖は言った。

「帝都に行く途中で人選をしとく、有栖警備はそいつらだ」

玻璃川は有栖に言った。

有栖は頷いて放送室に向かって走った。



新沢がクラスメイトと親睦を深めていると突如放送が流れた。放送の声の主は有栖だった、だが声は真剣そのものでありしばらく有栖とはわからなかった。

「以下の者は明日学園に残っているように、また該当しない生徒は家で自習とする。では該当するものの点呼を始める、鏡崎春、新沢圭そしてー」

計50名の生徒が呼ばれた、だが放送はまだ続いた。

「あと峯霊棟の生徒は明日全員残っておいてね」

有栖はいつもの調子で言った。

「俺もか…」

津田が落胆して言った。目には少し涙が浮かんでいる。

「しょーがないよ有栖さんがあんな真剣になって言うってことはよっぽどだよ」

春は言った。

「皆頑張ろうぜ」

新沢は言った。



翌日

授業は気付いたら終わっていた。有栖さんの言う事が気になっていたからだ。そして4時限目が終わり皆弁当を食べ始める。

「このクラスで残るの立って」

藍原が言った。

すると新沢と春を含め8人が立った。

「うわ…やべーじゃん…8人も抜けんの?んじゃキャンセルだな」

藍原が悲しそうに言った。

「あのー残る人同士で、自己紹介しませんか?もし何かあったときに…ね…」

春が提案する。すると立っていたクラスメイトがこっちを向く。

「じゃあ僕からだね僕は鮎川新。水魔法の使い手さ」

「金崎健介、硬質化の魔法の使い手だ」

「愛称です、魔法はお楽しみです」

「内藤花です、お花が好き」

「工藤三です、召喚魔法を使う」

「南雲アスカだ、魔法はあまり使わん」

「鏡崎春です、鏡魔法使います」

「新沢圭。魔法はー」

そう新沢が言いかけた瞬間放送が響いた

「先日放送のあった生徒は校庭に集合それ以外の生徒はすみやかに下校しなさい」

有栖の声だ。

「ほら、行こ」

春に急かされ新沢達は校庭に向かった。



校庭にはたくさんの生徒がいた。峯霊棟の生徒はこちらからかなり離れたところからこちらを見ていた。

「有栖さん来るんですかー?」

峯霊棟の生徒の一人は有栖に尋ねた。

「来るって何?」

春は有栖に尋ねた。

「何って侵入者」

有栖がそう言った瞬間上空からたくさんの人間が降ってきた。峯霊棟の生徒たちは魔法で上空からの侵入者を迎撃している。

「親御さんには後で謝っておくから、あいつらを先生方が帰ってくるまで迎撃して欲しい。そしてこの学園を守って欲しい」

有栖は申し訳無さそうに言った。

「後でご飯奢って下さいよ」

春は有栖に言った。有栖は頷いた。

「危ない!」

有栖はそう言って持っていたナイフを後ろに投げた。

ナイフは後ろの男の頭に刺さった。男は少しだけ呻いたあと動かなくなった。

「ぼーっとしてて、死なないで下さいよ!」

有栖は叫んだ。上空からは峯霊棟の生徒が撃ち漏らした侵入者がふってくる。

「ぐわっ!」「ぎゃー!」

あちこちで叫び声が聞こえ始める。向こうを見ると侵入者たちが生徒を攻撃していた。

「鏡魔法発動!反射の軌跡!」

彼女はそう言い、鏡を作り出した。作り出された鏡は宙をまって侵入者に当たる。

「花魔法発動 禁花の香り」

花はそう言い、花を咲かせた。花はガスの様なものを噴霧している。ガスを吸った侵入者はバタリバタリと倒れていった。そして花は言った。

「あと少しです!」

春はふと新沢を見る。新沢は侵入者を殴り飛ばしていた。だが新沢の腰のあたりに尻尾の様なものが出来ている。その尻尾は畝りながら前の侵入者を排除していった。侵入者は接近戦を諦めたのか魔法を使ってこちらを遠距離攻撃してくる。

「鏡魔法発動!リフレクト」

春は大きな鏡を作り魔法を反射して攻撃した。侵入者もそれを考えていなかったらしく帰って来た魔法をなんとか回避し側面に回って攻撃する。

「水魔法 水龍」

鮎川はそう言い、春の側面を守る。

「春ちゃん頼んだよ」

有栖はそう言い詠唱もせずに魔法を使って侵入者を蹴散らしていく。

「我らの敵ではない」

峯霊棟の生徒たちが持ち場の敵を殲滅したらしくこちらに来る。その時下から何かが出てきた。

「!?何だこれは!」

峯霊棟の生徒は思わず口に出す。出てきたのは巨大な百足の口だった。

「キイイイイイイイイイイイイイイァァァァァァァ」

百足は咆哮を上げる。そして峯霊棟の生徒の方を見る。

峯霊棟の生徒たちは口々に魔法の詠唱を始めた。

「光まほ…」 「ばく…」

だが言い終わる前に百足に轢き潰されたり、喰べられたりしている。

「こりゃヤバイな」

有栖はそう言い魔力を溜める。

「桜花舞壱ノ段 爆熱燃ゆる月の都」

有栖がそう言うと上から桜の花が降ってきた。桜の花は百足に落ちる。その瞬間桜の花びらが爆発する。

百足は苦しそうに叫ぶ。そして有栖に何か酸の様なものを吐いた。有栖は壁を作りそれを防ぐ。そして次の瞬間百足は言った。

「転移魔法 女神の抜け穴」

百足がそう言った瞬間有栖は消えた。そして百足はこちらを向いて言った。

「脅威は消えた。貴様らを殺してやろう。どうやって殺して欲しい?喰い殺されるか?それとも轢き潰されるか?それともあの男の様に転移させられて何も知らない場所で死ぬのがいいか?」

「んじゃ全部で」

新沢はそう言い百足に殴りかかった。

「創造、巨人の左腕」

そう言った瞬間新沢の左腕が巨大になり百足を押し潰した。

「ヒギッヒギッヒギッヒギッヒギッヒギッ 阿呆が」

百足がそう言う。すると百足はさらに大きくなった。百足が邪魔そうに周りの建物を壊す。そして体の節々からガスが出てくる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

横から愛や南雲の叫び声が聞こえる。百足は地面から足を出して二人の身体を貫いていた。春はその場に硬直して動けなくなった。周りでは魔法詠唱の声が聞こえる。だがそれも一時のものですぐに聴こえなくなっていった。

百足が春の方を見る。

「次は君かな?ン?」

百足は楽しそうに言った。

「何でみんなをこんなにも簡単に殺すの?」

春は百足に聞いた。春には絶望しかなかった。有栖は何処かに消え、周りの皆は散り散りになってしまった。

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ何でだろうね」

百足はまた楽しそうに言った。

「春離れろ!」

声が聞こえる。後ろを向くと大きな火球が迫ってきていた。それは百足の目に当たり、霧を噴出した。百足は叫び声を上げる。春は百足の声を聞いた瞬間何処かへ引っ張られた。



「オウゴッゴッゴッイヒヒヒッイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

百足は笑いながら建物を壊した。中には数人の生徒がいた。中には花もいた。花は恐怖の表情を見せていた。

「花魔法 フラワービーム!」

彼女はそう言って百足に向かってビームを放った。

百足は苦しそうに喚く。

「よくやった庶民!」

峯霊棟の生徒がそう言い百足に魔法で作った槍や剣を突き刺していく。だが百足は地中から足を出し峯霊棟の生徒を貫いていった。花もその例外では無かった。

「嫌…死にたく…ない…」

花が口から血を吐きながら言う。

「花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

新沢は叫びながら百足を殴る。だが、その拳はあまりにも小さく百足は殴られたことにも気づいていなかった

百足は眼を動かす。その眼の先に新沢が映る。

「ああ君いたの?」

百足は聞いた。新沢は構わず殴り続ける。百足は邪魔そうに足を振る。新沢は吹き飛ぶ。そして動かなくなった。

「新沢を守るぞ!」

声が聞こえた。そこには金崎がいた。

「硬質化!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

金崎も殴りかかる。が、百足は金崎に酸を吐き、足で踏み潰した。金崎は肉塊になっていた。が、口が動いていた。口が動き終わった瞬間彼は立ち上がった。

彼の体には赤いヒルの様なものが這い回っていた、眼は白眼になっており生きているのか死んでいるのか分からなくなっていた。

「まだ生きていたのおまえ」

百足が金崎を覗きこんで言った。金崎は答える代わりに百足の体を掴んだ。遠目に見ると分かる投げ飛ばそうとしているのだ。

百足は金崎を噛み殺そうと顔を近づける。が、百足の口に水がかかる。その水は爆発した。百足は口から煙を吐いた。そして水が飛んできた方向を見る。そこには鮎川と工藤が立っていた。

「共同魔法ですね…」

「ふん気は進まんがな」

鮎川と工藤は言った。

百足は鮎川と工藤を殺そうと口に酸を溜める、が異変に気づいた身体が持ち上がっているのだ。

「オヨ?オヨヨヨヨヨヨヨヨヨ?ヤバイヤバイ」

百足はそう言い自分の足を思い切り金崎にぶつける。だが百足の足が折れるだけで金崎はびくともしない。

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

金崎は叫びながら百足を投げ飛ばした。

春はそれを見逃さず魔法を唱える。

「光魔法 太陽の宝剣!」

集まった光が収束し百足を一刀両断する。



「春聞いてくれ」

新沢は言った。

「ここはどこ?」

春は尋ねた。

「俺が作り出した空間だ」

工藤が答えた。春は落ち着いて周囲を見回す。たくさんの生徒がいる。愛と南雲と花がいない。何故か聞こうと思ったが皆の表情を見て察した。

「皆聞いてくれ実はあの百足野郎再生しているんだ、だから有栖さんクラスの火力がない限り百足野郎を倒すことはできない。それどころかその魔力をエネルギーにされ更に強くなる」

鮎川が言った。

「具体的に何をすればいいのだ鮎川」

峯霊棟の生徒が言った。彼のことは知っている。銀崎秋季、この学校のナンバー3だ。だが、有栖とは実力があまりにもかけ離れているのらしく、態度も大きいのでで凄いとは思えないが。

「連携攻撃ッす今花さんや新沢さんが百足の気をひいてます。その間に全員が光魔法を唱えます」

鮎川が言う。

「それしか方法無いのか?」

銀崎は鮎川に聞いた。

「現状それしか…銀崎さんの魔法は百足との相性最悪ですし…」

鮎川は残念そうに言う。銀崎の使う銀魔法は威力こそ凄いが範囲が狭く燃費も悪いため百足に勝つ確率は五分五分だ。

「分かった…」

銀崎は渋々言った。そして峯霊棟の生徒に目で合図した。すると生徒たちは光魔法を唱え始めた。

「鏡崎と言ったな早く鏡の準備をしろ!」

峯霊棟の生徒の一人は怒鳴った。だが彼の目には人を見下すようなものを感じられなかった。峯霊棟は本館とは別になっていて、一部の優秀な生徒だけの少人数の教室なのだが、いつもこちらの棟の生徒を見下し軽蔑したような態度をとっていた。そんな奴らがこちらを見下さずに頼み込んでいるのだ、その期待に応えなければならない春はそう思った。



「銀崎さんちょいとこちらに」

鮎川は言った。

「何だ鮎川。私は忙しいのだぞ」

銀崎は返す。

「ちょいと手伝ってもらいたいことが––––––」

銀崎はそれを聞いて、鮎川が一瞬有栖に重なって見えた。


「アィィィィィィィィフギャァァァァァァァァァ」

百足は絶叫しながら飛んでいった。身体は綺麗に二つになっていたがどちらもまだ蠢いていた。

「創造、巨人の右腕」

「銀魔法、女神の矛」

銀崎と新沢はそう言い。百足の頭を攻撃した。新沢が自分が作った巨大な右腕で百足の顔を思い切り殴る。

「イタァァァァァァァァァァアオッカッカッカッ」

百足が叫ぶ。そして開いた口に銀崎が矛を入れた。

「ガボッおゴッオゴッゴゴグニニィィィ」

百足の口から声が漏れる。そして百足は動かなくなった。

「ありがとうございます〜皆さ〜ん」

百足の腹の中から声が聞こえる。

新沢たちは百足のを見る。よく見ると腹に亀裂が走っている。そこから声の主は出てきた。姿は人間のようだが、腰のあたりから百足の足が出ている。

「貴様がこれを作ったのか」

銀崎は問う。声の主は遠くを見ていた。

「召喚魔法 アモン」

百足人間はそう言った。すると上空から巨大な梟が降りてきた。一同は全員絶望した表情を浮かべた。それを見た百足人間は笑いながら言った。

「ケタケタケタケタ召喚魔法ダョー召喚獣一匹で来る訳ないジャーン」

新沢と銀崎は魔法の詠唱を始めた。その瞬間アモンは巨大な翅を動かして、羽ばたいた。とても強い風圧によって二人は飛ばされてしまう。全員魔力は底をついていた。魔力を溜め直すことは出来るが恐らくそんな余裕を百足人間たちは作ってくれないだろう。アモンはこちらに向かって火を吐いた。全員で防御魔法を唱える、が一瞬で防御壁を壊されてしまう。が目の前にはもう一つの防御壁があった。それはとても美しい花柄であった。花柄は動いていた。それから蔦が伸び、春たちの身体に触れる。春たちの傷はみるみるうちに塞がっていった。花の傷も塞がっていき花は意識を取り戻した。

「間に合いましたね…申し訳ございません。奴の魔法で太陽系から弾き出されたもので…」

顔を上げる。そこには有栖が立っていた。

「アイェェェェェェェェェェェ有栖?有栖ナンデ?」

百足人間が言う。

「鮎川さんと銀崎君が僕に座標軸を転送してくれまして…貴方の魔法で座標がグチャグチャでしたよでも送ってくれた座標軸のお陰で私はここにいるんですよ」

有栖はいつもの調子で言う。だがその眼光はとても鋭かった。

「桜花舞弐ノ段、美し夜桜」

有栖は詠唱した。上からは桜の花びらが降ってくる。

百足人間は一瞬で有栖の後ろに立った。

「ケヒッコレなんの意味?」

百足人間は有栖の周りを走りながら尋ねた。その速さはとても速く一瞬で百足が見えなくなった。

「皆さん、見る目を鍛えて下さい。百足は確かに疾いですが目をこらすとすぐに分かりますよ」

有栖は百足の攻撃を回避しながら言う。見る目を鍛える?春は疑問に思い、魔力を目に集中させる。が、有栖の巨大な魔力以外何も見えなかった。だが、百足の魔力も巨大で動きくらいは何とか捉えることが出来た。

「お?皆さんの何人かは気付いたようですね〜そうです。此奴の様な動きが異常に疾い奴は魔力を目に集中させるんです。そうするとッ」

不意に有栖の言葉が止まる。百足の召喚したアモンが有栖に火を吐いていた。有栖は何とか回避する。が、前には百足人間が迫っていた。百足人間は満面の笑みを浮かべて言った。

「爆炎魔法、帝王の桶」

すると有栖に巨大な火球が当たり有栖は吹き飛ばされた。梟は有栖が落ちた辺りを思い切り踏んだ。砂埃が舞い上がって有栖が見えなくなる。

「有栖さん!」

花が叫ぶ。

「大丈夫ですよう〜」

有栖は言う。だが頭からは血が流れていた。よく見ると左手に何か持っているそれは眼球であった。

「肉を切らせて骨を断つです」

有栖は言う。百足は左目が無い事に気付き叫ぶ。

「ヒギイィィィィィィィィィィィィィィィ」

百足はアモンに目で合図する。するとアモンが有栖に向かって翅を飛ばす。有栖はそれを躱しながら

言った。

「桜花舞参ノ段–––怨昂りて尚暗し」

すると積もっていた花びらが全て日本刀になった。百足の肩や頭に一斉に突き刺さる。百足は血塗れになり動かなくなった。アモンは何処かへ飛び去ってしまった。

有栖はそれをただ眺めていた。

「これは…」

後ろから冷たい声が聞こえる。これは教頭の声だ。後ろを見ると先生方や玻璃川先輩が戻ってきていた。

「有栖怪我人及び負傷者の確認を」

玻璃川はそう言った。

「過半数は死んでます。」

有栖は哀しげに言った。

「この私を出さないからこうなるのだよ有栖君」

後ろから知らない声がした。後ろを見ると一人の生徒が肩を震わせながら言っていた。その生徒の様子はあまりにもおかしかった。挙動の全てが何かを恐れているようでありまるで蛇を前にした蛙のようであった。

「師匠、確かにその通りだと思います。ですが、貴方を外に出したら46都道府県が45道府県になるので」

有栖はとても丁寧に言った。その生徒はガクガク震えていた。そして言った。

「それもそうだな…だがアレは実行しておけ。冗談抜きで次似たようなのがあれば先生方やらも含めて全員死ぬことになるからな。おっとこの生徒にそろそろ体を返してやらんとな」

生徒はそう言ってその場に倒れこんだ。先生方は走り回って怪我人の救助をしている。春たちの所に玻璃川が近づいてきた。春は顔を上げる。そして玻璃川は言った。

「もしこの仇をとりたいと思うのであれば後で俺の所に来い」

玻璃川はそう言って帰って行った。”仇”…この言葉が何度も春の頭の中を駆け巡った。

「学年のトップ10の奴らはどうなってる」

玻璃川は有栖に聞いた。

「僕と同じで転移魔法で何処かに飛ばされていました」

有栖は言った。向こうから新沢達が歩いてくる。新沢達は言った。

「腹減った」



百足は排水口を這い回っていた。百足は出口を求め歩き続ける、そして外への出口を見つけた。百足はそこから外へ出た。

横っ腹が痛いです。はい。

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