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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第五章 そうだ! ダンジョンへ行こう!!
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第89話 和解

前回のあらすじ

わかもとサン「ミスターユ○バースただし片腕だけの術だモーン」


※ステータス欄に生活魔法がない人がいるという指摘がありました。単純にわたくしのミスでございます。誰かさん以外はほぼ覚えております。修正しておきました。

 ゴキン!


「いっつーぅ」 


「あたたた、これ、年寄りなのじゃからもう少し労わらんかい」


 外れた肩がはめ込まれ涙目になる黒い肌の男と爺さん。

 無理言わんでくれ。俺が師匠から手ほどきうけたやり方はこれだけなんでな。

 それでも念のためヒールをかけておく。


「すまん、助かった」


 そう言って頭を下げるジェリンド。このパーティ『蛮勇の巨人』のリーダー。以前、ジャミトーの手先として俺を捕らえようとしたものたちだ。ま、接触前にあっさり寝かしつけられたあげく閉じ込めてしまったものだから初対面ということにしておこう。今更特に気にしてもいないし。

 それにしてもこのパーティにクレイさんが合流しているとは思わなかったな。


「気にしないでください。知り合いを見捨てることをしたくなかっただけですし」


「ノブサダ様、一度ならず二度も命を救っていただきありがとうございます」


 ちょっと待ってクレイさん。なんで様付けなの。見て、ミタマがちょっとジト目になってこっち見てるから。お願いですんでやめてください。


「それにしても他に怪我とかはないですか? 随分と酷くやられてましたが。あの魔物は初見ですが武具を使うんですね」


「知らなかったのか。アレはシナモンキー。狡賢く強欲で碌でもない魔物さ。俺達も依頼のためでなかったら戦おうとは思わなかったよ」


 なんでもシナモンキーは冒険者を襲撃してその武具を奪い取り使用しているのだとか。そういえば倒したあと武器や防具はそのまま残っていたっけ。汚い、シナモンキー、汚い。

 どうやら俺が以前見たあの依頼を受領したらしく各個撃破しつつドロップアイテムを回収していたのだが二人のメンバーがやつらに底なし沼へと突き飛ばされそこから一気に崩れてしまったらしい。


「しかし、これからどうするんだい? その状態じゃしばらくまともに戦えそうにないけれども」


 そう、ナイナとブラランの武器は沼へ沈み失われている。沈みかけた二人は泥だらけでありいまの状態ではまともに動けない。ジェリンドは前で踏ん張っていた分、怪我が酷い。放っておいたら破傷風になってもおかしくないな。そのまま回れ右して戻ろうにも難しいだろう。それに怪我が治ったとしても消耗も激しそうだしな。


「すまない、恥を承知で頼む。あたいたちに食料を分けてくれないかい。さっきの戦闘中に荷物をあいつらに奪われて手持ちの食料が底をつきそうなんだよ」


 ああ、そういうことか。シナモンキーどもは食料を奪うのが目的だったのかもしれないな。


「若ぇの。食料は余分にあることだし手を貸してやっちゃあどうだい?」


 俺の背中のわかもとサンが喋りだした事に『蛮勇の巨人』の面子はビクリと固まる。驚くよね、そりゃ。いまだにうちの面子ですらたまに驚くもの。


「そのつもりでしたからいいんですけどね。それよりもそのままじゃ移動するにも大変でしょう。うちで作った拠点に寄って体を休ませていきますか?」


 その言葉に安堵する一同。クレイさんなんか土下座している。やめて、女性に土下座をさせるような趣味はないのよ。

 そんなわけで一挙に同行者が増えてしまったので一度拠点に戻ることにした。帰り道に俺とわかもとサンがビッシビシと鳥やら何やらの魔物を打ち落としているのを見て唖然としていたが気にしない。気にしないったら気にしない。ドロップ品はマジックポーチへ突っ込むも途中で一杯になったのには困った。後ろの面々にも持ってもらいなんとか全部回収する。




 拠点へ案内したところでも『蛮勇の巨人』の面々は驚きっぱなしだった。そういえば俺って普通の冒険者パーティのダンジョン内での過ごし方を知らなかったんだよね。通常は4~6人くらいのパーティで交代で見張りを立て夜を過ごすらしい。それ故、疲労の蓄積も早く一週間もすれば慣れている者でもかなり辛くなるようだ。人数を増やせばその辺も改善できるのだがそれに伴なう必要な資材の増加で収入に繋がらないというジレンマ。



 女性陣は奥の湯船で汚れを落とし男共は急遽外にずどんと作成したドラム缶風呂もどきにダイブしてもらった。特に沼に浸かってしまった二人はほろりと涙を流してしまうほど喜んでいた。



 食事も荷物を減らすため保存食が基本となり味気ないことこの上ない。ちなみに本日の我々の食事は先ほど仕留めて手に入れたイノシシ肉を使いボタン鍋である。味付けは勿論味噌! 稲麹からってとこに不安もあったが実験で俺がお腹を壊すくらいでなんとか形に持っていけた。ばあ様がまだ生きていた頃に手伝いをしていた経験が大きいだろう。経験のない醤油のほうが現在失敗続きなのがその見本だな。かもすのがうまくいかないのかとにかくも未だ試行錯誤中だ。


 クレイさんたちは篭って4日目らしく暖かい食事にえらい飢えていた。大鍋で煮たもののすぐに足りなくなり岩盤焼きなどを追加で作成するはめになる。



 疲れがたまっていたのか食事の後、彼らはすぐ倒れるように眠ってしまった。



 その夜、俺は一人で明日用の下準備をしている。クレイさん達に渡す分も合わせて燻製を作っているのだ。高い煙突つきの石室を作り鳥モモやらイノシシ肉やらを燻していく。美味しくなれよ。



 カサッ



 ん? にっこにこしながら燻製石室を眺めていると誰かが来たようだ。


「今、いいかい?」


 声をかけてきたのはジェリンド。鉄鎧一式(プレートメイルではなく革鎧に鉄板で補強したもの)を外し素顔を晒しているが思ったよりも若く見えるな。釣り目の金髪でちょっとリーゼントっぽい髪型だ。それにしても鉄兜を被っていたのに髪形が崩れないっていうのは凄いなと思った。摩訶不思議である。


「どうしました? 見張りは大丈夫なんでゆっくり休んでくれて構いませんよ」


「その、な。あんたにどうしても謝っておきたかったんだ」


 そう言ったジェリンドは俺に向けて頭を下げる。


「俺、なにかされましたっけ?」


「とぼけなくていい。あの時、あんたが俺達の追跡を逃れる為に眠らせ立ち去ったときおぼろげながら俺の意識はまだあったんだ」


 おっと、あの時のことか。それにしてもぐっすりだと思いきや意識があったとはね。まだまだ詰めが甘い。


「あんたの身柄を狙っていたにも関わらず俺達にトドメを刺すどころか魔法で壁を作っていく。はじめは甘いやつだと思っていたが後からあの依頼の内容が出鱈目だと判明したとき、あんたに手を出そうとしたことを後悔したんだ。あんたが満足するまで殴ってくれていい。そんなことくらいしか俺にはできないからな」


 修正してやるっって殴るほど血気盛んな若者でもないのでしないしない。女性陣に手を出したなら兎も角、俺に、しかも未遂であるからしてたいして気にしていたわけではないのだよ。


「気にしないでって訳にもいかないでしょうからその分、クレイさんの事をよろしくお願いしますよ。彼女はうちのミタマたちの大切な友人ですから」


 殴られるのを覚悟して緊張していた彼は拍子抜けしたように間抜け面を晒している。


「それで……いいのか?」


「そんなもんです。彼女達に危害を加えられたら別ですが俺が耐えられる範囲ならぐっと我慢しますよ。今となってはあの件で随分と意識改革させられましたからね。授業料みたいなもんですよ」


「分かった。あんたがいいならそれでいい。だが、俺が恩義に思うことは別だ。今回あんた達がいなければ確実に命を落としていたからな。これより先あんた達になにかあったなら俺達『蛮勇の巨人』は全力を持って手助けさせてもらう。これは全員の総意だ。時間をとらせて悪かったな。先の言葉に甘えて休ませてもらうよ」


 それだけ言うとジェリンドは拠点の中へと戻っていく。ぱっと見やんちゃなお馬鹿かと思いきや結構芯が通っているのな。ちょっと見直した。やれやれ、情が移っちゃいそうだよ。




 翌朝、昨晩作った燻製を含めた食料とポーション数本を予備のマジックリュックに入れてクレイさんに渡す。次いで予備の武器に買っておいた短剣とあんまり使っていなかったショートボウと矢をブララン氏に鉄の槍をナイナ氏に渡した。彼らの装備は俺が助けに入ったときには泥の中に沈んでしまっていたからだ。使い終わったらマジックリュックにつっこんでエレノアさんに渡しておいて貰えばいいことを伝え彼らを見送る。

 依頼の素材は未だ集まっていないのでもう一度出直すそうだ。シナモンキーが落としたシナモンは結構な量があったので彼らにあげたけれどもさ。


 ま、クレイさんがいるってこともあるし彼らには是非頑張って欲しいものである。『ひきこもりのラミア』でポーション値引きになるタマちゃん印の石貨を渡してあるので少しか楽になるだろう。


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