第88話 再開
姪っ子に突撃されて骨にひびが入ったでござる。
嬉し痛さに涙が止まらんでござるよ。
ダンジョン探索隊! ダンジョン探索隊!
広がる景色は生い茂った深い密林。そう、ここはダンジョン8F。蒸し暑さを感じる熱帯気候。革鎧にゃきつい環境だ。
今回はタマちゃんはお留守番。三連娘などの精神安定剤のお役目を果たしてもらいます。そして今回の旅のマスコットはこちらのお方。
「おいおい、程よい湿気が俺っちの根毛にびんびんきちゃうぜぃ」
はい、ご存知わかもとサンです。同行させると決めたときのメンバーの微妙な表情はおして知るべし。だが、わかもとサンも鍛えておかないと先が怖い。せめてなにかしらの移動手段が欲しいところだ。歩けないことは無いがその動きは非常に鈍重である。普段は俺の背中におぶさっているので俺は今回後衛として動いていた。いざというときは降ろすけれどもさ。
前回の懸念事項だった鍵開けや罠察知だがエレノアさんに引退した冒険者を紹介してもらった。念のため全員で出向き教わること2日。結局習得できたのは俺とミタマだけ。初心者レベルではあるがそれでも2日で習得できたのは行幸であろう。教えてくれたレッドノーズさんは酒好きだったので試作品のどぶろくなどを贈呈して感謝を示した。
しかし、暑いな。汗が噴出して仕方ない。
事前情報ではこの階層は一つの大きな部屋らしい。洞窟などが点在しそこに宝箱などが現れることがあるとのことだ。このフロア一番の特徴は魔物の種類の豊富さ。いまだ全容掴めぬほど多々存在しているらしい。一目で魔物と分かる巨大なものから鳥や獣、さらには昆虫や蛭など小型なものまで多種多様である。その分、ドロップアイテムも種類が豊富で資源の宝庫と言っても過言ではない。
カグラの振るう槍が襲い来る昆虫型の魔物へ突き刺さる。その合間を縫うようにすり抜けた魔物が後方に向かって飛び掛る。
「ミタマ! そちらへいったのじゃ!!」
「……任せて」
ヒュヒュン、ドサ、ドサ
しなやかに体を飛び跳ねさせ両手に持った短剣で魔物の首を狩る。俺が『ひきこもりのラミア』で指導と勤労していた間にミタマは前衛を兼ねた中衛として動いていた。いつのまにやら二刀流を習得していたというのだから驚きである。
「あ、よいしょーっと!!」
杖の先で顎を跳ね上げられた後に横っ面を殴打された魔物が崩れるように倒れる。いつのまにかフツノさんも前衛で立ち回っていた。どうしてこうなった!? 前面で暴れまわる3人の後方で氷の弾丸を撃ち出しながら一人苦悩していたりする。わかもとサンは俺と一緒に周囲に種子砲撃を放ちながら迎撃している。
「若ぇのの愛人は随分と猛々しいな。俺っちの長いまんどら生ののうちでもあんななぁ見たことねぇやな」
愛人言うな。そしてあなた生まれてまだ数日だ。俺だってこんな風になっているなんて思っても見なかったから驚いているよ。いつの間にこんな戦闘集団になってしまったのやら。他に変わったことといえばフツノさんが神聖魔法と料理を覚えた。レベルはまだ1だが回復役が増えるのは頼もしい。
ミタマに首を切断されたジェットオオクワガタやフツノさんに殴り倒されたアシナガザルなどから出た魂石を拾い集める。どうやら素材やアイテムは落とさなかったらしい。
「俺がいない間に随分強くなっていたんだね」
俺がそう語りかければ皆が満面の笑みを浮かべる。でも顔に付いた血糊っぽいのは拭こうね。ちょっと怖いぞ。
先ほどのでこの階層に降り立って既に5度目の襲撃。ここの魔物は今までに類を見ないほどアクティブかつ凶暴に感じている。休憩する場所を確保するのにも随分と神経を使うな。購入していたマップに洞窟などの場所は記されていないのでそこらへんは手探りで探さないといけない。とりあえず拠点となる場所をマッピングしつつ慎重に進もう。
よさげな洞窟を発見し一先ず拠点とするべく魔法を駆使して魔改造する。これだけ襲撃されるということで内部にトイレも完備する一夜城ならぬ一時間住居の完成だ。そういった作業にも慣れて来たので簡易扉としての資材も持ってきたから住居としての昨日は日々進歩している。汚物には各自ドライをかけてもらった後、埋めてもらう形式だが。
拠点も作成したことだし周囲を狩りだしてある程度の安全を確保しよう。この界隈に食料を落とす魔物がいるかも把握していないことだしな。
オフウンンンン
キアアアアアアア
オッホッホゥゥゥゥウゥゥウゥ
上から順にダンディボア、ウッドダウンモンキー、ミツリンミミズク。ミタマとまんどらサンの三人(?)で獲物を狙撃していた。他の二人は拠点防衛と今晩の食事の準備をしてもらっている。フツノさんに料理のスキルが発現した為、正直助かるわ。前からそうだったがやはりフツノさんには共感を感じている、器用貧乏的な!
最初はいまいち命中率が振るわなかったが狩人のクラススキルである『鷹の眼』を使用することを思い出し早速試してみると飛躍的に当たるようになった。スキルのクーリングタイムがあるけれども当たり始めると射撃のスキルを習得したためそれからどんどん屠る速度もうなぎ上りに。食材を落としそうな魔物を狙ってびっしびしと叩き落している。わかもとサンも次々レベルが上がりいくつかのスキルを習得していた。
名前:わかもとサン 性別:漢の中の漢 種族:まんどらゴルァ
クラス:まんどらゴルァLv18(up!) 状態:健康(ノブサダより魔力の供与あり)
称号:【いぶし銀】 絆:心の友
HP:120/120 MP:136/304
【スキル】
植物操作Lv1 咆哮Lv1 水魔法Lv1 土魔法Lv1 精密射撃Lv1(new!)
【固有スキル】
種子砲撃Lv2(up!) 部位強化Lv1(new!)
部位強化についてはまだ試していないので不明。途中から随分とピンポイントで当てていると思ったら精密射撃なんて覚えていたのか。そのうち葉巻をくわえてスナイパーとかになったりしないよね? 種子砲撃だがレベルが上がってから当たった瞬間に破裂し炸裂弾のようになっている。
ダンディボアと ミツリンミミズクから結構な量の肉を確保できたし今晩の夕食用の食材はOKか。まだ時間は早いし保存用も貯めて置きたいところだな。俺以外が持つのに燻製や干し肉も作ったほうがいいだろう。万一のとき俺がはぐれたら目も当てられないし。
そんな感じで狩りをしているとキィンキィンと剣戟の音が聞こえてくる。ここらで武器を使うような魔物は今まで見ていないので同業者だろうか? どうすると横を確認すればコクリと頷いた。これは近づいて確認しようってことでいいだろう。
キイン ギイン
「くそっ、次から次へとっ!」
「ジェリンド!! 気を抜くんじゃないよっ」
「分かってるっ。クレイ! ブラランたちはっ!!」
「ダメッ、底なし沼みたい。なんとかこれ以上沈まないように支えるので手一杯よ」
その言葉通りロープで沼に沈みかけている二人をなんとか支えている。
「ちいぃ、どこからでもこい! 近づくやつはみんな切り伏せてやる!」
後ろのナイナたちへ襲い掛からせないよう精一杯の虚勢を張るジェリンド。だがそれも虚しく2匹の猿がナイナへと躍り掛かった。
「うあっ」
ナイナの剣が弾かれ宙を舞う。両手を跳ね上げられた状態で無防備となったその体へ武装した猿の剣戟が振り下ろされる。
やられると反射的に目を閉じるがそれはドォンという思いも寄らぬ炸裂音に助けられることとなった。
「……クレイ!」
何かが飛んできた先にクレイが振り向けばそこには弓を構えるミタマと……わかもとサンを背負ったノブサダの姿があった。その様相に思わず言葉に詰まるクレイ。それはそうだ。その姿には緊張感の欠片もないのだから。
「危険ってことで介入させてもらうよ」
そう言ったノブサダは沼の上を泥を上げつつ滑るように渡り歩く。半ば埋まったような二人の手を掴むと急加速して無理矢理引き抜く。うごあとうめく声が聞こえるも気にせずクレイのいるほうへと送り届ける。
「肩が外れているかもしれないけれど緊急時なんで勘弁してね」
そういわれたクレイには頷くことしかできなかった。たしかにあれで馬車を移動させているところは目撃していたがまさか沼上を滑るように走れるとは思っていなかったからだ。
ヒュン ヒュン
続けざまにミタマの持つ弓から矢が放たれる。
ジェリンドとナイナへと襲い掛かっていた数匹の武装した猿へとそれは突き刺さりキイイと憤怒の罵声をあげた。急な援軍に戸惑っていたものの生き残れると感じたジェリンドは気持ちを盛り返し怒声を上げつつ片手剣を振るう。
ノブサダも刀を振るおうとしたものの背中にわかもとサンが乗っているためうまいこと振れないと格闘へ戦い方をシフトしていた。
武装猿が片手剣や片手斧を振り回してくるが落ちついていなし防具以外へと拳を打ち込んでいく。マトゥダやエレノアの速度に慣れた彼にとっては余裕を持って対応できるものであった。
「……ノブ、後ろ!」
ノブサダの背後から迫る武装猿。だがそれは今までに無い一撃で命を失うことになる。
「ふんぬぁぁぁぁぁああ」
ノブサダの背中に背負われたわかもとサンの片腕が突如膨張し鍛え抜かれし筋骨隆々なものへと変化する。
ボグシャァァァ
武装猿の頭はその拳の一撃で砕け散り残った体がビクンビクンと痙攣している。
その光景にミタマもクレイも一瞬息を呑んでしまうほどだ。ノブサダもちらっと見たがあえて見なかった事にする。トラウマになったらどうするんだ、本当に。正直なところ、アンバランスすぎて気持ち悪いだろう。恐らくコレが部位強化。レベル1でこれということはそのうちに全身がモリモリになるんだろうか。思い浮かんだその姿をノブサダは必死に振り払った。
「ロックハァァァァンドスマァァァァッシュ!」
半ばやけ気味に魔武技(マトゥダ命名)を繰り出し岩杭を武装猿へお見舞いする。その直後に爆砕する武装猿。なんだこの主従は……とミタマ以外の面子が呆然としたのは無理もない話である。
ジェリンドが引き付けていた武装猿を一匹一匹確実に仕留めていくノブサダ達。
形勢不利と判断した残りの武装猿たちは一目散に逃げ出したのであった。
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