第87話 駄目来来、駄目来来!
気をつけろ! あいつはきっと見ているぞ!!
「よし! 完成だ!!」
今日も今日とてお屋敷勤務。ダンジョン攻略はどうしたって? いや、流石にあんなことがあってから三連娘を放り出していくのも気が引けたので他の面子がレベル上げと依頼をこなしている間、俺はちょっと居残りしてましたわ。帰ってきたら夜中に大暴れしてくるつもりです。何日かして落ち着いたら再度長期遠征といきますよ。
俺が完成させたのは簡易型レベリット神殿である。
おかしいな。荘厳な出雲大社のようなものを目指していたはずだったのに。
夢中で作っているうちに出来上がったのはなぜか一万分の一スケールの東京ビッ○サイトなんだぜ。もはや、神殿と言うよりはジオラマみたいなものだな。持ち運びも可能なように土台に取っ手も完備してある。一応、『れべりっと神殿』と銘打ってあるから問題ないだろう。無い筈だ。ある意味、聖地だし。
俺の部屋に設置する為の神棚もどきも作ったので早速据え付けてみる。そういやどうやって呼び出すんだっけか。とりあえずお供え物でもして適当な呪文でも試してみるか。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。我は求め訴えて勝つナリ。出でよ、駄女神!!」
それっぽい呪文を唱え魔力を溜め込む。ちなみにお供え物は浅漬けのキュウリである。
無駄に高まる魔力が奔流となり部屋の中を駆け巡る。まるで吸い取られるように体からどんどん抜け出ていく。カーテンは揺れはためきエサを啄ばんでいた鳥達もただならぬ雰囲気にあてられ一目散に逃げていった。
ボウーン
簡易神殿の正面でなにかがはじけるような音が響いた。もわわっと煙が上がりそこから小さな影が浮かび上がる。
そこにいたのは……。
亜麻色の長い艶やかな髪。
サファイアのような吸い込まれそうな瞳。
赤ん坊のように瑞々しい柔らかな肌。
それらを持った……二頭身にディフォルメされどこぞのゆるいマスコットのような姿をした駄女神である。
たしかにパーツだけ見れば美人の条件は揃っているけれども如何せんお笑い仕様になっているのが駄女神クオリティといったところか。さすがだ、期待を裏切らない完璧な仕様である。
「ノブサダ君、私はどこかの使徒とかそういうのじゃないんですよーー」
あ、ちょっとクレームがきた。そこかよと突っ込みたくなるがまぁ気にしないでおこう。
「どうやらうまくいったようだ。そもそも呼び出し方法を教えていないお前が悪い」
「ぐぬう、しかもお供え物が漬物ってしょっぱいですよー、ポリポリ」
「そりゃ漬物だから当然だろう。そしてしっかり食べているじゃないか」
「当然、お供えされたものはしっかりいただきますよ。次は甘味! 甘味でお願いしますねー」
駄女神のクセにお供え物指定とは生意気な。甘いのでいいならずんだをお見舞いしてやろうか? でもこいつのことだから平気で食べそうだな。ロシアンずんだ饅頭にしてやろう。中の一つには唐辛子を入れてな!
「それでー、今日はどうしたんですかー?」
「ああ、こっちもいくらか落ち着いてきたんでお前さんに聞きたいことがあってな」
「ただ、答えられることと答えられないことがありますからねー」
「ちなみにどんなのが駄目なんだ?」
ちょっともじもじしながら顔を赤らめる駄女神。あ、なんか分かったかもしれん。
「スリーサィ、へぶしっ!」
問答無用で脳天へとチョップを打ち込んでやった。ちょっと涙目になりながら恨みがましそうにこちらを見てくる。
「暴力反対! 乙女へ脳天チョップとかどんな非道ですかー」
「大丈夫。斜め四十五度から叩けば直るはずだ」
「私は古いテレビじゃないのですよー。ぷんぷん」
さてふざけるのはこれくらいにして本題に入ろうか。
「成長と才能の駄女神よ。クラスの成長限界とはなんぞや。そしてそれを突破することは可能かね?」
「むふん? おお、そういえば1クラス限界に達していますねー。ここではその者の肉体と魂により向き不向きが変わります。ノブサダ君なら戦士はあんまり向いていないクラスなんですねー。突破は、それこそ肉体や魂を変異しない限りは不可能ですよー。なんせその者の在り方が揺らぐことになりますから」
ふーむ、真面目な話仕方ないか。30が限界ってのはかなり低いんだろうな。在り方が揺らぐってのはあれか、A○フィールドが無くなって液体化しちゃうようなもんか。
とりあえず得意なクラスをひとつ見つけてこれは変えずに伸ばしていったほうがよさげかな。余分に設定できるクラスを増やしたほうが育成早そうだしね。
「それじゃ別な質問だ。今のお前さんの状態で洗礼はできるか? それと魔族と括られている者にも洗礼は可能か??」
「それは両方ともイエスですよー。一回ごとに魔力消費してもらいますけどね。それと魔族なんて括りを作ったのは過去の普人族ですから私には関係がないのですよー。私にとっては皆等しく見守るべきものですからねー」
どっちかというと俺は見張られている気がするのだが? まあいい。あと聞きたいことといえば特異点がどうこうとかいうのと俺の周りにやたら他女神の加護やらなんやらを持った人が多いってことを聞くのはなんかはぐらかされそうな気がする。
「それは言えないんですよー。色々と機密に関わることですからねー。下手に話してしまうとノブサダ君の存在自体が揺らいでしまうのです」
心を読むな! というかだったら最初に口を滑らすなよ。聞かなきゃ考えなかったのに……。
「てへっ♪」
わっしと駄女神の顔を掴みつつ力を込めてやる。徐々に徐々に力を入れてな。
「ぎゃーす。ノブサダ君、私これでも女神、女の顔を鷲掴みって酷くないですかー?」
駄女神を煮たらいいダシでるだろうか? なんか食っちゃ寝してそうだし案外いいものがとれるかもしれない。
「へるぷみー! 女神は友達、怖くないよ。あ、うそうそすいまえん。あの娘さん達に守護をあげちゃうから、ね、ね?」
ま、冗談なんだけれどもな。ついつい調子に乗るもんだから反応してしまう悲しいツッコミ体質よ。
「とりあえずお仕事したんでそろそろ帰りますね。とにかくも新規信者の勧誘ありがとうございました」
「おう、お疲れさん。あ、雁月と試作のみたらし団子持って行くか?」
「あ、是非是非。なんだぁ、あるじゃないですかー。お茶が怖いことになりそうですよー。それでははいちゃらばーい!」
ドロン
マンガの忍者のように煙を上げて駄女神は帰っていった。
ふう、ごっそり魔力を持っていかれた気がする。確認してみたら呼び出すだけで50万、それから数分ごとに1万ずつ削られていったな。さすが駄女神、維持費が半端ない。あれ、全身の分体とかっていったらどれくらいかかるもんだか。性格がアレだけれども見てみたい気はする。
さーて、差し当たっての聞きたいことも聞いたし三連娘への守護まで貰った。結果的に万々歳ではある。
『あ、ノブサダくーん』
あ!? なんで直で話しかけてこれる??
『みたらしはちょっと甘さが足りない気がしたのですよー。あ、これは神託ね』
ちょっとまて神託とかそんなことのために使うな! そもそもそんなの俺は覚え……。
てってれ~♪ 神託のスキルを習得しました。
後出しかい!!
『ずんだ、きな粉、あんこ、ゴマ。各種お供えぷりーづ』
団子のデリバリーじゃないんだから! よし分かった。全力を持ってハバネロ、センブリ、ノニ、ポンテギを探してやろう。
『それはただの罰ゲー、』
ブツッ、ツー、ツー、ツー
神託は電話のように切れてしまった。あいつのことだから大方他の女神様にでも見付かったのだろうか? 長電話を見付かった女子高生みたいだな。やれやれだ。




